第53話 溶鉱炉
「カオスのプログラム。その骨組みは全て揃いました、あとは中身です」
「中身?」
「はい、オルタナを短時間で破壊することのできる『カオス』の原理。それはオルタナのコネクソンを全て溶かす点にあります」
研一の背筋に嫌な予感が走った。
コネクソン。
オルタナという仮想現実世界がここまでスムーズに、そして滑らかに動くのは「コネクソン」というプログラム同士を繋げるネットワークが発明されたからだ。それまでの方法では一つ一つの動きが遅すぎて、とても仮想現実の世界としての役割を果たすものではなかった。それがこのネットワークの開発により、一気に今のような形態へと変貌を遂げたのだ。
「それで? どうやってコネクソンを溶かす?」
研一は何となく先が読めていたが、改めてJにその先を促した。
「はい、コネクソンを溶かすプログラムを用意するには最低でも一週間かかります。しかしそれを一瞬で解決する方法があります。それは……」
そういって、Jは研一を指差した。いや、正確には研一のとある一部分を指差した。
「おいおい、まさかこの
「はい、そのまさかです」
雪がきょとんとした表情を浮かべた。
「どういうこと? 差し出すって」
「この
雪は腕を組み、うんうん、と頷いた。
「おそらくカオスの正体は例えるなら
Jはにこりと口元を緩めるとこくりと頷く。
「そして、そのカオスの実行に
Jは一つ瞼を閉じると優しく、そしてゆっくりと首を縦に振る。
研一はまるで助けを乞う様な眼差しで、Jのスクリーンを見上げた。
「なあJ。この刀は俺にとって家族みたいなもんだ。いつも俺のそばにいて、俺を勇気付けてくれた。悪い奴だってたくさんやっつけてきた。クレストの優勝できたのもこいつのお陰だ。今回だって、何度も俺の窮地をこいつは救って来てくれったんだ」
Jは頷くどころか、ぴくりとも顔を動かさず、スクリーン越しに研一の瞳の奥を覗き込んだ。
「……わかってる、お前の言いたいことは。そんな事を言っている場合じゃないってことだろ」
研一はすでにJを見ていなかった。今までのたくさんの思い出、初めて
「——もうお別れってことか。最後はその身をもって
研一は小さくなった天叢雲剣のレプリカに頬ずりした。
「さあ、ケンイチ。あまり時間がありません、それを渡してくれますか」
ケンイチが両手で顔を覆い視線を落とす。それからゆっくりと、名残惜しそうにそのレプリカを自分の顔の前に差し出した。それからゆっくりと手を離すと、それは浮かびながら、少しずつJのスクリーンに吸い寄せられた。
その美しく去りゆく相棒の姿はまるで、もう大丈夫、君は一人で歩いて行ける、そんなことを言っている様にも見えた。
小さくなった
「いよいよ始まりました。カオス——終わりの始まりです」
リミットはついに30分を切っていた。
00:29:58
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