第47話 N.C.E.  第2階層

 薄暗いレンガの空間。その茶色で作られた洞窟の奥は限りない闇で包まれている。その果てから、ずん、ずん、という音が響いて来た。それに合わせるようにフィールドが揺れる。


「ケンイチ、次はちょっと厄介そうですよ」


 その正体よりも何よりも、まず挨拶も無しに現れたのは「熱」だった。その高熱、巨大なガスバーナーの様な炎が壱の前にお目見えした。

 壱は呆れたような苦笑いを浮かべる。


「これはこれは、相当歓迎されてるようだな」


 洞窟の奥の闇。その黒い海からゆっくり顔を出したのは、それだけで人間より大きなトカゲのような首とツノ。二つの大きく鋭い目はそれだけで多くの生き物を気絶させる迫力を持っていた。先ほどの炎の出所だろう口元がゆっくりと、そして大きく開かれる。


 グワァルルルルーーーーーーー。


 そこにある全ての空気を揺さぶるような雄叫びを上げると、体慣らしにもう一つ炎を8の字を横にした無限大の形にぶちまけた。その熱で壱の全身は熱く火照り出し、まるで毛穴という毛穴全てから汗がどっと吹き出るようだった。

 そのままずんずんと前で出てきた長い首、岩山ほどの胴体、素早く動く細長い尻尾。腹こそ白いが、その他全身は茶色を基調に大きな羽、四肢などはダークブラウンを呈していた。


「ダース・ドラゴンね。これは6000 Ted超えのベヒモスより大きいぞ、10000Tedはあるな。N.C.E.も相当金かけてるな」

「ケンイチ、今回はさっきのようには行きません。ダミー・フォームが無数にあります」

 スクリーン内のJが、まるで魔法を放つ様に人差し指で円を描くと、ダース・ドラゴンの頭、首、背中、その他至る所に青白い光の玉が浮かび上がった。それは壱が天叢雲剣あめのむらくもが突き刺すべき、フォームの候補だった。


「ダミー・フォームと来たか。これのどれか一つが本物、それ以外は全部偽物ってわけだ」

「はい。僕も今必死でスクリーニングをかけますので、しらみつぶしにお願いします」


 壱は天叢雲剣あめのむらくもを耳の横で立てながら、ダース・ドラゴンを睨む。その直後、火炎放射器の様に吹き付けられたその炎を横走りで避け続ける。ちょうど180度回ったところで、一つ高く跳躍するとそのドラゴンの首の裏に着地した。この世のものとは思えないその怪物は、それをただちに身震いするように振り払う。

 たとえドラゴンが素早い動きをしたとしても、所詮はオルタナ上。実際に動く前に何らかの前触れがある。壱はそれを探知できるため、これらの動きを予測して動くことができた。

 こうしてなんとか相手の動きを交わしつつ、真なるフォームを探すべくダークブラウンの背中の中心を一突きした。その直後、青白い玉はすっと消える、ハズレだ。

 その直後、大声を張り上げ、研一はこう叫んだ


「なあ、雪。ちょっといいか?」


03:10:42

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