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「さあお前たち、菜月先輩推薦、圭斗先輩からのこれ以上ない素晴らしくありがたい差し入れをよーく味わって食え」


 しっかりとした箱に入っていたのは、黄色くて丸いお菓子。野坂さん曰く、菜月先輩推薦、圭斗先輩からのこれ以上ない素晴らしくありがたい差し入れ。とのこと。

 今日はMMPの3年生追いコンと新入生勧誘活動に向けた1・2年生の会議です。やたら意気揚々とした様子の野坂さんが気持ち悪いくらいですよ。だって、ついこないだまで3年生欠乏症に陥って死にかけてたのに。


「これは菜月先輩がお好きでいらっしゃる緑風銘菓で、圭斗先輩が1・2年生で分けるようにと俺に言付けてくださったものであるからして、心して」

「ノサカもうええわその演説」

「お。うめースよ。カスタードがなめらかだ」

「で、野坂さんは圭斗先輩と会ったんですね。良かった良かった。いつもの発作が出てるのはともかく、欠乏症の症状の方が私の数倍ウザいですからね」

「こーた、ノサカのこれは発作とちゃうよ。呼吸やよ」

「本当ですね。息を吐くかのように出て来る先輩たちへの賛辞ですから、呼吸でした」


 土田さんがもぐもぐと丸いお菓子を食べているので、私もいただくことに。あ、確かにいい香りがして美味しそうですね。割っただけでもカスタードクリームがなめらかだとわかりますよ。

 しかしヒロさんも上手いことを言いますね、ノサカさんのアレを“呼吸”だなんて。さすが、仲がいいかはともかく普段から一緒にいるだけのことはありますよ。


「やァー、野坂のこれは当分続くと思っていいスよ」

「どうしてです?」

「話によれば、野坂があまりにポンコツ化したンで圭斗先輩が気を利かせて緑風への小旅行に連れ出したらしーじゃネーすか」

「そーなん、対策でホンマポンコツやってんよ!」

「だとしてもそれは引きますよ、先輩にそこまでさせるとか。それも尊敬してやまないという体の圭斗先輩にですよ」

「体とは何だ! 圭斗先輩を尊敬してやまないのは事実だ!」

「はー、そんなところにまで食いついて来るんですか」


 緑風旅行の話が出たところで、野坂さんから現地でどのようなことをしたかの思い出が語られ始めようとしたところを土田さんがバッサリと斬ってくれるところはさすがですね。

 や、旅行のことなら今度先輩にありのままの話を聞きヤすわ。そう話を主流に戻した土田さんですよ。野坂さんの話では脚色が過ぎる上に長すぎて本題に入れないと判断したんでしょうね。

 ですが野坂さんは先輩方に会えた興奮が過ぎるのか、圭斗先輩の素晴らしさやついうっかり方言が出て恥ずかしそうにしている菜月先輩の様子について語りたがっていて。いつもと温度差とかテンションが違いすぎて気持ち悪いです。


「やっぱりお前ら鬼畜だな、俺の話を聞こうともしてくれないなんて」

「ちょッと黙れポンコツ。生憎これから始まるのはその先輩を追い出す計画スわ」

「ナ、ナンダッテー!?」

「アカンりっちゃん、ノサカ相手にしとったら終わらんよ!」

「ヒロさんの言う通りです。今日の野坂さんは相手にしない方がいいです」

「お前ら、俺をハブって菜月先輩と圭斗先輩をもてなす計画だなんて!」

「やァー、例によって誰かハブられてヤすわァー」

「まあ、その誰かはええんちゃう?」

「思い出してあげましょうよ、一応先輩なんですから」


 そう言えば、野坂さんがどうとかの以前に元々MMPというサークル自体が脱線上等なサークルでしたね。むしろ野坂さんのあまりのウザさが話を強引に前へ前へと進めてくれていた、と。好意的に解釈するならこうですね。


「土田さん、4月からの野坂さんはどっちに振れると思います?」

「っテーのは?」

「先輩欠乏症をさらに拗らせるか、先輩という枷が外れて本来の能力を解放するか」

「MMPだけじゃなくてインターフェイス的にも、解放してもらわネーと多分困るンすわ」

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