量か質か、橋を渡るか

 青浪敬愛大学放送サークルAKBCは、今年も例によっていつもの問題を抱えていた。だけど、今年はそれ以上にパねえ問題が発生していることに気付いて、緊急にメンバーを招集する。


「今日は何の話し合いですか」

「ですか」

「人数の少なさは急に呼び出したからなのか、それともサークルへのモチベーションなのか……」


 サークル室にやってきたのが諏訪姉妹だけという現状。人数の少なさは急に呼び出したからだと思いたい。いつだって全員が揃うことなんてないサークルだ。たとえ新入生勧誘の時期だろうと、卒業生や3年生の追いコンだろうと。

 これ以上待っていてもかんなとあやめ以外の誰かが来るとも思えないし、決まったことは後でAKBCのラインにでも流しておけばいいだろ。来ないんだから会議で決まったことに対する拒否権はないって押し切る。


「でだ、気付いたんだよ。春からどっちの校舎でサークルやんのかなーって」

「わっ、それは盲点でした!」

「でした」

「お前らは来年度からあっちのキャンパスになるんだっけか」

「ですね」

「です」


 うちの大学は、来年度から一部学科が星港駅にほど近いキャンパスに移転することが決まっている。俺のいる理工学部は移転しないから、AKBCの中でも移転する人としない人で分かれるという緊急事態。

 これまでの傾向で言えば、AKBCは新校舎側の学科の人が多いという印象がある。文学部のヒロさんに、総合政策学部のヒデさん。それから、メディア造形学部のツルさん。

 今現在ここにいる諏訪姉妹にしてもツルさんと同じメディア造形学部だし、その他の面々も大体あっちのキャンパスに移ることになる。そうなると、今のキャンパスに残る俺は少数派だ。


「でも、正直ハマちゃん先輩がいないと始まらないところってあるじゃないですか」

「ですかー」

「ハマちゃん先輩、サークルの度にそのためだけにこっちに来るんですか?」

「ですか?」

「それなんだよなー」


 同じ星港市内とは言え、市の郊外にある今の校舎から街のど真ん中にある新校舎に通うのは結構めんどくさい。今の校舎にいるメンバーは、そのためだけに新校舎に通うかと言えば、通わずにフェードアウトしちまうと思う。

 俺はインターフェイスのこともあるし通うけど、みんながみんなに強要できることでもないとも思っているし、さてこれからどうしたもんかなーっていう会議なのに誰も来ない! 俺が決めちまっていいのか!


「ただ、今まで通りこっちでやるとなると、向こうからこっちに来るメンバーの方が圧倒的に多くなるし、お前ら定期も通ってないだろ?」

「ですねー、最初から校舎移転を見越したところに住んでますし」

「ですー」

「そうだな、じゃあAKBCも新校舎に移転すっか! ……って、向こうでもサークル室ってもらえんのかな」

「ちょっとそこまではわかんないです」

「ですー」

「だよなー、どーすっかなー!」


 どっちにしても、一度新校舎に潜入して調査しないことには始まらない。移転後のサークル運営のことに関してはこっちの学生課か総務課にでも聞いてみればいいのかな。

 何か暗黙の了解で俺が4月からのAKBCの代表みたいなことになってるけど、何かもうここまで来たらやってやろうじゃねーのって気になって来る。どこからともなく出て来るやる気マジパねえ。


「それはそうとしてハマちゃん先輩、機材も向こうに持ってくんですよね」

「サークル室がもらえることが確定したらなー」

「あと、全然人が集まらないこの感じで来年のAKBCってあるんですか…?」

「ですか…?」

「それなー。AKBC存続の危機みたいなことは毎年言ってるみたいだけど最低1年は続くし、まあ、なんかなるだろ」


 少なくとも、俺がいる間は何とかなるだろ。後のことはしーらね! なるようになれー!

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