荒れた大地に緑の息吹を

 目の前に出されたのは、ごくごく普通のカレー。具は少し大きめで、食べごたえがありそう。不味くはなってないと思いますという言葉に、改めていただきますと手を合わせて。うん、変な感じがする。

 対策委員の会議終わりにタカちゃんの部屋に立ち寄った。エージも一緒に。お酒とお菓子を買い込んで、さてご飯はどうすると。すると、タカちゃんが「昨日のカレーならあります」と。

 そんなこんなでアタシとエージはタカちゃんの作ったカレーをご馳走になっている。だけど、タカちゃんが自分で作った物をご馳走になるというシチュエーションにアタシもエージもこの世の終わりを予感する。天変地異、青天の霹靂、何かそんな。


「どうした、お前が飯作ってるとか」

「カレーだったら2~3日は平気だし後々楽かなって思って。こうでもしないと野菜なんて食べないし」

「それはそれでどうなんだっていう」

「タカちゃん野菜生活だけじゃ野菜を食べたことにカウント出来ないからね」

「焼きそばで食べてます」

「果林先輩が言ってんのはそーゆーコトじゃねーんだべ」


 タカちゃんの壊滅的な食生活を知っているエージは、このカレーに首を傾げながらも奇跡が起きてるとか何とか言って結構がっついてる。2日目だもん、まあ美味しいよね。

 一人暮らしだと野菜を食べないという話はタカちゃん以外からもちょくちょく聞くけれど、結局のところは一人暮らし云々よりも個人の資質だとか、意識の差だと思う。

 高ピー先輩は外食が多いけど、ソースカツ丼と言えばキャベツみたいなところがある。いっちー先輩に関しては言うまでもありませんよね。バランスのとれた美味しい食事。そういやLの食生活って謎だな。あんま食べないから興味ないのもあるけど。


「朝霞P先輩はコンビニでサラダ買ったり袋詰めになってるキャベツの千切りみたいなの買って食べてるって言ってたよ」

「高木、お前も朝霞サン方式を採用したらどうだっていう。コンビニには行くんだし」

「まあ、気が向いたらね」

「野菜買うくらいならお酒になるヤツだ」

「ぜってー買わねーヤツだべ」

「なっち先輩はラーメンの上に乗ってる野菜炒めで食べてるそうだし、何か、野菜やキノコ類をざく切りにして鍋にどーんって言ってた」

「随分ザッパだっていう……」

「食べるスープ的なことだって」

「あー、なるほど」

「なっち先輩生野菜苦手だからせめてもの工夫らしいよ。ウインナー入れたりするんだって。ざく切りにしてどーん、っていうのならタカちゃんにも出来るんじゃない?」

「難しくはなさそうです」


 タカちゃんのカレーは美味しい。だけど、カレーに入ってる野菜なんてタカが知れてるし、焼きそばにしても同じ。ソースだけこだわればいいってモンでもない。始まるのは、いかにしてタカちゃんによりよい食生活を送ってもらうかのカウンセリング。

 タカちゃんの献立をいつの間にか管理していたエージも一緒になって今後のことを考える。いつだってエージがご飯を作れるワケじゃないし、本人のレパートリーが増えるに越したことはない。簡単でお金のかからないレシピかー、難しいぞ。


「ハナに相談したらいいんじゃね? アイツ今でも自炊してんべ」

「えー、ハナちゃんご飯もおしゃれだし、俺には無理だよ」

「じゃあ、ユキとかどうだっていう。青女のアレだろ、暮らしの学科だったはずだから料理もある程度出来そうだべ」

「ああ、そうだね。ユキちゃんに聞いてみようかなあ」

「アタシもいっちー先輩とか沙都子に聞いてみるよ」


 カレーひとつでここまで話が大きくなってしまうのもどうかと思うけど、それだけタカちゃんが自分でご飯を作って食べるっていうのが最早想像すら難しくなってきてるっていうことで。


「出来ればつまみになりそうなものもあれば嬉しいなと」

「全部人頼みにしねーで自分で研究しろっていう」

「あイタっ」


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