流されるべき波を生む時

「あーもー、いつになったらつばめ先輩は振り向いてくれるのー!」

「俺からも頼んでみるよ」

「本当に頼むですよゲンゴロー!」


 インターフェイスの集まりの後で、俺とマリンはつばめ先輩攻略会議を開催しようとファミレスに向かっていた。

 現部長に反抗して班を飛び出したマリンと、Pとアナが同時にいなくなった俺たち旧朝霞班は利害が一致している。だけど、つばめ先輩がマリンを班に受け入れてくれないという状況。

 つばめ先輩が何を思ってマリンを受け入れてくれないのかはわからない。妄想ならいくらでも出来る。マリンが宇部班出身だとか、マリンのつばめ先輩に対する下心が透けて見えたとか。だけど、真意はつばめ先輩にしかわからない。


「あれ、浦和に源じゃないですか。こんにちは」

「あっ、レオだ。おはよー」

「相席いいですか」


 偶然通りかかったレオが俺たちに合流した。レオは俺たちと同じ1年で、パートはディレクター。マッシュヘアーが目を完全に覆い隠していて、表情が全く分からないのが特徴的。同学年の人にも丁寧な言葉遣いだし。


「レオって今どんな感じ?」

「どんな、とは」

「部活でさ、班のこととか。ウチはPとアナさんがいなくて大変」

「私はつばめ先輩に猛アタック中」

「特筆することはなく、至って普通ですよ」


 思わず、いいなーと声が合わさっていた。

 本来レオの話すように特筆することがないっていうのが普通なんだと思う。練習したりしてさ。人がいなくて練習出来ないとか、班を飛び出して求職中とか、俺とマリンの置かれている状況がいかに特殊なのかを思い知る。


「レオって長門班でしょ? いいなー、クソ日高がいなくなってさー」

「まだ上にDの先輩はいますからね。あの人から教わることはありませんけど」

「うわっ、言っちゃった」

「Dは雑用というスタンスの班ですから。ディレクターのノウハウは勝手に戸田さんを見て盗んでますし」


 つばめ先輩を模範にしているというレオの思わぬ告白に、マリンの鼻息が荒い。憧れの先輩が手本になっているというのが嬉しいんだろうなあ。俺も自分が何をしたワケじゃないけどちょっと誇らしい。

 だけど、ふと思う。来年はディレクターもいなくなってしまうのだと。流刑地で人を確保するには一本釣りが基本。流されてくるのを待つだけじゃ、生きてはいけないんじゃないかと。


「レオ、うちの班に来ない?」

「戸田班にですか?」

「うちの班だったらレオもつばめ先輩から直に指導してもらえるし。マリンもうちの班に入りたいってつばめ先輩に直談判してるんだよ」

「ありがたい話ですが、遠慮しておきます」

「えっ、何で」

「下手に動かない方が、3年生になったときに優位になりそうじゃないですか」


 そう言ってレオは口角を少し上げた。不敵というのが適した笑み。


「この部活の体制は簡単には変わりません。柳井部長が実権を握った瞬間、権力を振りかざし始めたでしょう。前部長と違ってあの人には知恵がある分予定に厄介です。宇部色を払拭しにかかっている以上、浦和は班を飛び出して正解だったと思いますよ」

「ホント一発殴らなきゃ気が済まないですよあの野郎!」

「レオっていろいろ見えてるんだね」

「幹部の班で汚れ仕事をしてますから、裏の事情は少し。とにかく、幹部は幹部、流刑地は流刑地。それなら、俺は流されている体で逆手に取りますよ。腐っても幹部の班にいるという実績が俺にはあります。Dだというのがネックですが、このまま行けば何かしらのポストに就けるでしょう」

「えっ、もしかしてレオ、幹部になるつもり?」

「別に立場には興味がないんですよ。だからこそ特定の班を目の敵にする意味もわからないんです。戸田さんの教えは受けたいですし、2人といろいろやってみたい気持ちはあります。ですが、源班か浦和班か知りませんが、その時に外部にいる味方が多いに越したことはないでしょう? 浦和が椅子を蹴ったおかげで幹部に近くなりましたし」


 今年は敵に回るシチュエーションがあるかもしれませんが必ず出世払いするので先に謝らせてください、とレオは頭を下げた。

 なんとなくだけど、レオが部長とかになったら無気力な体で立場も派閥も何もない平等な部活に少しでも近付くんじゃないかって、そんな風に思えてきてしまって。レオには水面下で虎視眈々と頑張ってほしい。


「冷静に考えたら宇部先輩の愛弟子だったマリンってエリートだったんだね」

「“元”ね」

「戸田さんの教えを直々に受けられる源の方が超エリートだと思いますけどね俺は」

「ホントそれ! ゲンゴロー殴らせろですよ!」

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