疫病神のおこぼれ

公式学年+1年


++++


「さ、今日もおしまーい。桃華帰ろー」

「千葉君、お菓子でもつまんで行かない?」

「げっ」


 ヒゲはきっと喋り相手が欲しかったんだと思う。アタシと桃華、それと小田ちゃんが捕まってしまった。卒論発表合宿、つまりゼミ合宿が近付いている今日この頃。来年度のことも考えて行かなきゃね~とはよく言っている。


「君たち3年生も卒論に本腰入れて行かなきゃいけないしね。あっ、それはそうと、君たちから見て2年生はどう? 岡山君、どう思う?」

「大きな問題もなく。みんないい子で」

「そうだねえ。何かに突出した子がいるでもなく、みんな普通で面白味がない」

「えー? あずみんなんか面白いと思うけど」

「安曇野君、と言うかあの班は面白いと思うよ。千葉君、さすが」


 ヒゲは退屈しているらしい。2年生があまりに大人しすぎて張り合いがないとかで。アタシみたく、ちょっとケンカしてくれるくらいが楽しいとか。アタシは別にヒゲに楽しいと思われることを望んでないけど。

 でも、バーベキューや学祭なんかのイベントもそうだし、3限と4限の入れ替わりでの様子を見ていても確かに2年生はまったりしてるなって気がする。ヒゲ曰く、佐藤ゼミは学年問わずどこか殺伐としていたけど、2年生にはそれがないと。


「時代の移り変わりなのかな。それはそうと、あの班はね、私が成績以外のところで気になった子たちが偶然一緒になった班でね」


 あの班というのは、班長のゆかりんにタカちゃん、鵠さん、あずみんのいる3班のこと。タカちゃんがうちの班はやたら目を付けられて大変なんだと言ってたけど、その理由にも納得。他の子たちが大人しすぎるから余計気にかかるんだ。


「そうそう千葉君、君の後輩なんだけど。まさか君、テストを手抜きするように間違ったライフハックを教えてるんじゃないだろうね」

「そんなことしてませんよ!」

「高木君はね~、実技型だろうとは思ってたけどもっと座学も頑張ってもらわないと。ゼミ生選考は成績を考慮してるっていう手前、いくら機材が扱えても成績がアレだとちょっと。エースの成績が下から数えた方が早いと見栄えが悪いの。頼むよ千葉君」


 すみませ~ん、って言うけど何でアタシが謝る必要が出てくんの!? 別にアタシがどうこうしてタカちゃんの成績が変わるわけじゃないんだし! でも、敢えてお願いする先があるならエージかな。朝起こしてもらわないと学校にも来れないし。


「成績と言えば安曇野君だよ。あの子はまず授業に出てこない。芸術家だから自由なんだろうね。もっと趣味を全面に押し出して、来年度は高木君とのセンスのぶつかり合いに期待してるんだよ~」

「確かに2年生のTシャツはおしゃれですよね」

「そうなんだよ! あと、彼女ゼミラジオのジングル音源作っちゃったし。かっこいいんだよこれがまた~。そうそう、趣味と言えば佐竹君だよ小田君! 君、同じ部活に面白い後輩がいてよかったねえ!」

「はあ」

「今年は自然にリーダーとして開花してくれて助かったけど、来年度は安曇野君ともっと趣味を全面に押し出してもらって、なんなら日常的にコスプレしてもらってもいいんだよ! 班や学年の面倒なんて鵠沼君に見てもらえばいいんだから。そうでしょう? 彼はね~、体育会系だからもっと豪快なんだと思ってたけど意外に慎重で思慮深かったよね。でも、よき保護者ではあるからね。成績もいいし。鵠沼君に関してはいい意味での誤算だったよ~。で、問題は高木君だよ千葉君!」


 タ~カ~ちゃ~ん…! なんか、鵠さんとあずみんがタカちゃんを疫病神って言ってる意味がわかりましたよねー。相変わらずヒゲのマシンガントークは続いてるし。アタシ別にタカちゃんの保護者とかではないんだけどなー。

 もしかすると、他の学年の評価やなんかをこうやってべらべらとまくし立てることでストレスを発散したり年度ごとの方針を考えてたりするのかな。一言で言えば、巻き込まれる側はめんどくさい。


「果林、ドンマイ」

「ホントだよ。タカちゃんに八つ当たりしなきゃ」

「やめといてあげな、イケメン君死んじゃう」

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