手動でおはようカーテン

「高木ー、ちょっと頼みがあるんだっていう」

「あっ、俺もエイジに頼みたいことがあったんだ」


 いつものように俺の部屋でご飯を食べようとしていたときのこと。唐突にエイジが話を切り出してくる。頼みごとという単語に、俺もダメ元で頼んでみたいことがあったのを思い出す。


「それで、エイジの頼みって?」

「それな。テスト期間中はここに住まわしてくんねーか。いつ寒波が来て家から出れなくなるかって考えたら保険をかけときたいっつーか」


 エイジの家は山浪エリアの山間部にある。緑ヶ丘大学までは電車を乗り継いで2時間半。時間はともかく、問題は雪だ。山間部になると、公共交通機関も時間当たりの本数が少ないし、それが止まりでもしたら大問題。

 それなら、比較的雪の降る頻度が少ない星港市内の俺の部屋にいた方が確実にテストを受けられるだろうという作戦。俺の部屋からなら大学までは45分しかかからないというのも大きなポイントだと思う。


「あー、そうだよね。それくらいなら全然いいよ」

「もちろん、住まわしてもらうからにはお前を甘やかしすぎない程度に家事も手伝うべ」

「甘やかしてもらっても全然いいんだけどなあ」


 エイジのきっちりしているポイントとしては、一宿一飯の恩義じゃないけど、一人暮らしの人の部屋に泊まりで遊びに行くときは何かしらの手土産を付けるところだと思う。差し入れと言うか。

 さすがに俺の部屋はもう通い慣れたからか手ぶらのこともあるけど、それでも水回りの掃除だとか、使ったところは来たときよりも綺麗にしてくれる。曰く、お前がだらしなさすぎて不衛生極まりないからだ、とのこと。


「で、お前の頼みってのは何だっていう」

「ああ。えっと、俺もテスト期間中のことなんだけど。エイジに朝起こして欲しいなーって思ってたんだ」

「まあ、しばらく住み込むからには文字通り叩き起こしてやるよ」

「優しく起こしてくれると嬉しいなあ」

「じゃあ、布団をはぎ取る程度にしといてやる」

「それも辛いなあ」


 テスト期間に関する俺の心配事は、まず起きられるかどうかだ。春学期はそれでレポートをひとつ提出できなかった。今度こそはそんな失敗をしないよう、朝に強いエイジに起こしてもらおうと考えていたところにこの話だ。

 これで寝過ごしてレポートが出せないとかテストに間に合わないとかいうことはなくなった、と思いたい。あとは遅筆なレポートと、間に合っているとは思えない勉強の方をどうにかしなくては。特に必修のヤツを。


「とりあえず、テスト期間中は断酒ね」

「ああ。もちろんだべ」

「終わったら思う存分飲むってことで」

「だべな」


 言語を落としたら大変だとか、必修は残しとくなという先人たちの知恵を殺さないように、まずはしっかり起きること。それが最大の難関だと言っても過言じゃない。どうやったら早起き出来るようになるんだろう。

 早起きの仕方を誰かに教えてもらわないと死んでしまうかもしれない。思い当たる顔で言えば……うん、高崎先輩以外なら誰に聞いても大丈夫そうだ。俺の何がダメで、他の人はどうやって起きてるか。


「3時4時までパソコンだのスマホに向かってりゃ寝れるモンも寝れんべ」

「あはは、だよねえ」

「テスト期間中は起きてて1時までだ。それ以上部屋で眩しくされたり音を出されでもしたら俺が寝れなくなるから禁止だっていう」

「えー」

「つか遮光カーテンも起きれない原因なんじゃないかっていう。あれ買ったらいいんじゃねーか。カーテンレールに付けといたらスマホアプリで設定した時間にカーテン開けてくれるヤツ」

「あ、リアルに欲しいと思ってたんだよね。でも、結構いい値段するよ。4千円弱」

「ちょっと酒我慢すりゃ全然買えるじゃねーか! よーし、テスト期間終わったら期間中に浮いた金で買うぞ!」

「え~」

「つべこべ言うな!」

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