Proof of the oath

「あっ、菜月先輩あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願い致します」

「あけおめ」


 何か新しいお知らせは出ていないかと掲示板の前に立っていたら、新年の挨拶をしてきたのはカンザキ。まあ、同じ学部だしコイツに関して言えば学内で会うこともMMP比でさほど珍しくはない。

 何か新しいお知らせは出ていましたかね、との質問には、大して変わりなかったと。テストも近づきつつあるし、そろそろ補講やら何やらのお知らせが出てるかと思ったら期待はずれだった旨を伝える。


「ところで菜月先輩、先日は私どもの市で成人式だったのですが」

「ああ、何かニュースでやってたな。向島でも成人式がうんたらーって」

「それでですね、私どもの市では新成人代表の挨拶を――」

「やあ、菜月さんに神崎」

「おっ、圭斗じゃないか」

「圭斗先輩あけましておめでとうございます」


 食堂でなければ掲示板くらいじゃないかと思う。文系理系関係なく向島大学にいる学生が集う、交わる場所と言えば。ふらりとやってきた圭斗もまた新しいお知らせが出ていないか見に来たようだった。

 ん、変わり映えしないね。そう息を吐いた圭斗は、楽しそうに何を話してたんだとうちらの話に興味津々。成人式の話だったとは思う。ただ、圭斗が来たことで話が中断してしまって、まだ本題は始まっていないのだ。

 少し長くなりますし積もる話もあるので食堂に行きましょうと神崎が圭斗に進言する。どうやらその成人式の話は神崎的にどうしてもうちら3年生にしておきたい話題のようだ。ウザドルの悪い笑みがそれを物語っている。


「で、何の話だっけ」

「成人式の新成人代表挨拶なんですがね、私どもの市では野坂さんがその挨拶を」

「へえ、野坂が」

「こんな面白いことはそうありませんからね。スマホで動画を撮影したんですよ」

「神崎、見せてくれるかい?」

「どうぞどうぞ、今再生しますね」


 うちと圭斗の間にスマートフォンを置いて、例の動画が動き始めた。壇上の人が最初は豆粒くらいの大きさだったけど、程良くズームがかかってそれがノサカだと認識出来るようになる。

 人として生きる上で当たり前だと思っていたことを今一度思い返し、社会人としてこれから道を行く上での土台をきっちり作っていくこと。これまでに出会った、そしてこれから出会う大切な人を守り、共に幸せを築くための力をつけること。

 動画からは大体そんなようなワードが拾える。内容自体はごく普通なんだけど、言葉の選び方がとてもノサカらしい。紛れもなく自分の言葉で堂々と話しているように見える。不安がってた男にはとても見えないじゃないか。


「この野坂さんのなぁーにがイヤラシいって、どうして壇上でメガネをかけるのかということですよ。何もケースを持って行かなくたって、メガネをかけて壇上に上がればよかったんじゃないですかね」

「しかし、時間を守ることを人として当たり前だと言っているけど、今日のお前が言うな枠だね」

「さすが圭斗先輩ですよ。野坂さんにも言ってやってください。この動画のラストで後ろの方から挨拶してる人イケメンとかイケボみたいな女子の声が入ってますけど本当に詐欺ですよね!」


 ズームが甘くてはっきりとは見えないけど、確かにノサカはメガネケースを持っているように見える。色味的に、こないだ一緒に買ったヤツだろう。メガネをかけるタイミングで言えば、カンザキの言うことが尤もだ。


「神崎、イケメンは見た通りだし、イケボは菜月さんも認めるところなんだからいいんじゃないかい?」

「まあ、それはそうですが」

「カンザキ、この動画、うちに送れるか?」

「え~え、どうぞどうぞ。野坂さんを煮るなり焼くなりお好きにどうぞ」

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