二人の暮らしはプライスレス

「クリスマスプレゼント?」

「ああ。何が欲しい?」


 サプライズプレゼントっつーのもいいんだろうけど、サプライズを外すよりもしっかりと聞いて当てる方がいいかなと思ってしまう。サプライズは誕生日の指輪でやったしここは堅実にいくのが一番。


「えっとねー」

「条件は付けるぞ。まず、“モノ”であること。それと、俺が一人で買いに行くのに抵抗がない物。趣味に関わらないヤツで頼む」

「じゃあ考え直しじゃん!」


 えーっと、えーっとと欲しい物を考える慧梨夏の可愛いことよ。でも、こういう条件を付けておかないととんでもないおつかいをさせられそうだからな。先手を打っておかないと。

 ちなみに、俺に何をさせるつもりだったのかと聞くと、なんか復唱するのがアレな答えが返ってきた。改めて、条件付けてよかったとしか言いようがない。

 つか、そういうのはちゃんとしたカップルっぽいムードを大事にする記念日とかイベントとかじゃなくてノリと勢いでぐだぐだになりやすい普段の方が率は上がるんじゃないかって。


「あっ、あれが欲しいかも。コートとかカバンとか掛ける木のアレ」

「ああ、コートツリーな。でも、そんなのでいいのか」


 確かに、出かけるときに着たものをぽいぽいと脱ぎ散らかすよりは、コートツリーか何かに引っかけておく方が部屋の状態にもいいとは思う。カバンも引っかけとけばラクだろうし。

 だけどなんかこう、もうちょっとムードってモンが。これってクリスマスのプレゼントにはちょっとアレなんじゃないのかと思ったりもする。家財道具っぽいし。

 慧梨夏から同じ質問をされて「ホームベーカリー」って答えた俺が人のことを言えないんだけども、コートツリーよりはホームベーカリーの方がまだ特別って感じがする。コートツリーはねーよ。


「だって、クローゼットの場所とか空けとかなきゃでしょ? それなら着る頻度高い服とかよく使うカバンとか引っかけるようにしとけばカズの物入れるスペース取れるだろうし」

「えっ」

「カズが今の部屋引き払ったら、うちの部屋に来ることが増えるでしょ? だったらそのように今から準備しとかないと」

「……あー、そうだな」


 伊東家の掟じゃないけど、教育方針のようなことで俺も姉ちゃんも大学3年までは一人暮らしをすることになっている。そして俺は今大学3年。次の春を迎える頃には一人暮らしも終えなければならない。

 一人暮らしを終えれば俺は実家から大学に通うことになるけど、慧梨夏の部屋に来る頻度は確かに今までより高くなるだろう。慧梨夏が俺の部屋に来ることがなくなる分、だ。

 あくまで自分が使うものではあるけれど、自分のためではなく俺を迎え入れるためのコートツリー。そんな風に都合よく解釈出来てしまうものだから、言葉にできなくなるのだ。


「慧梨夏、コートツリーは2人で買いに行くぞ。それと、これはプレゼントじゃなくてただの買い物。プレゼントはまた別に考えといてくれないか」

「そうなると趣味に走るよ」

「そうならないようにお願いはしたい」

「じゃあちょっと時間ちょうだい」


 慧梨夏は紙とペンを手に、何がいいかなあと考え始めるのだ。可愛いぜちきしょい。


「カズ、思いついたんだけど言っていい?」

「ああ」

「デートしながら欲しい物探しちゃダメ? その時目についたもので、これっていう物があったら買ってほしいな。その方がデートの思い出もついてきてお得だし」

「損得勘定はともかく、その提案は賛成。わかった、歩きながら探すか」

「あと、カズのホームベーカリーはちゃんと用意してあるから。いろいろ作ってね」

「任しとけ」


 俺としては餅つきが出来る程度のホームベーカリーのつもりだったんだけど、慧梨夏のことだからちょっとした会話を拾ってチーズやらヨーグルトやらを作れるヤツを買ったに違いない。つかレシート拾ったからググっちまったし。

 そうなると、俺もお嫁さまのために金に糸目を付けないのだ。もちろん、金ですべてが解決するワケじゃないとはわかっている。慧梨夏的にはデートの思い出なども大事にしたいポイントだろうから。

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