インチキバースデー

「ごっちゃんせんぱー……」


 人のことを見つけるやいなや、とんでもない速度で近付いてくるじゃじゃ馬。逃げた方がいいんじゃないかと思うけど、なんかもうドン引いてしまって足が動かない。


「い!」

「うわっ!」

「ごっちゃん先輩やっと会いましたね!」

「なに、サチお前俺のコト探してたの」

「めっちゃ探してましたよ!」


 それならラインでも何でもしてくれりゃあよかったと思うんだけどね。そういうところに頭が回らないサチらしさなのか、はたまた連絡をしないことでサプライズを仕掛けたいんだというサチらしさか。

 だけど、いきなり人に飛びついてくるのは歓迎しねーのよ。サチは加減知らねーし。高校ン時はそれで後頭部思いっきり机の角にぶつけてめっちゃ痛い目に遭ってるっていうな。委員会どころじゃなかったぜ。


「で? 俺に何の用で」

「ごっちゃん先輩今日誕生日でしょ!? かわいいサチとご飯でも行きませんか! 行きましょーよー」

「飯は別にいつでも行くけど、俺の誕生日は過ぎてるんだな」

「えー!? ちょっ、カレンダーに今日って出てるけど! ごっちゃん先輩今日誕生日じゃないんですかあ!」

「そうねー、ちなみにこれが俺の免許ね」


 燦然と輝く免許である。更新はまだだけど、これを見ればちゃんと11月15日生まれと書いてある。今日じゃねーんだよ。つか何をどう間違ってそんなことになってんだサチのカレンダーは。


「書類詐欺ってるっしょ」

「詐欺ってねーし」

「まあ誕生日はどうでもいいや、ごっちゃん先輩ご飯行きましょーよー」

「どうでもいいのかよ」

「だって口実じゃないですかそんなの」


 まあなあ。人の誕生日を飲み会やる口実にしまくってるサークルに所属してる俺がそれをあんまりどうこう言えた立場じゃァないのは確かなんだよな。誕生日は割とどうでもよかったりする。

 しかし、会うのに理由が必要ってのもなかなか世知辛いわな。サチだったら別に理由もクソも関係なく押し切れそうな気もするけど、誕生日っつー口実を用意するくらいだもんな。


「何食べます? お昼麺類だったんで麺類はパスですけどー」

「麺類っつっても昼うどんで夜パスタなら別によくね?」

「えー、お昼うどんだったなら夜はよく噛んで食べる物が良くないですかー?」

「まあその辺は個人の好みだからねえ」


 ねーねー何食べるんですかー、なんて言ってサチは人の腕をブンブンと振って来る。どうしろって言うんだ。俺が適当に決めていいなら決めるけど。俺麺類食べたいんだよなー、どうすっかね。


「ごっちゃん先輩車ありますもんね、何でも食べれますよ! さあ!」

「さあじゃねーのよサチ。車も出すけど俺ラーメン食いてーのよ」

「ラーメン! ネギ増し増しにしてくれるお店あるらしーんですよ! あっ、ごっちゃん先輩ラーメン行きましょう! ネギ増し増し!」

「……つか、サチお前ネギ嫌いじゃなかったっけ」

「好き嫌いは克服されるんですよ、大人ですから! どやっ!」


 そういやサチが入ったって言ってたサークルはGREENsのカズ先輩の姉ちゃんがいることでMBCCではちょいちょい名が通ってるバスケサークルだ。カズ先輩の姉ちゃんは酷い薬味狂で布教に洗脳は当たり前っつってたな。

 そうか、単純なほどかかりやすいのか。


「で、その店どこよ」

「場所は知らないんですよ。ごっちゃん先輩知りません? ネギ増し増しにしてくれるお店」

「知ラネ。あー、でもサークルの同期がバイトしてる店も結構うめーのよ。お前が場所調べられないならそこに行くぞ」

「はーい」

「あとケータイ出したなら俺の誕生日登録し直し」

「はーい」

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