葬り去られる裏の面

 うう、放送部って修羅の国って感じで怖いんだよなあ。監督先輩からのお使いで来なきゃいけない状況になっちゃったんだけど、うう、朝霞クンに言付けるのじゃダメだったのかなあ。

 放送部が主に活動してるのは部活棟のミーティングルーム。映研とは規模が段違いだよね。人も多いし、朝霞クンの話があるから余計に。放送部は見た目華やかだけど実は結構陰湿なところがあるって聞いて入部を諦めた経緯もある。

 こわいよう。でもおつかいを終わらせないとずっとこうしてなきゃいけないんだよね。でも怖いよう。ええい、うじうじしてても始まらない。伏見、いきまーす!


「あっ、あのっ! 部長さんいますか!」

「お前は誰だ」

「あっ、えっと、映研の伏見っていいます。ウチの監崎から部長さんに渡してほしいと書類とデバイスを預かってきたんですが」


 うう、いきなり「お前は誰だ」って。高圧的だよ。怖いよう。人相悪いし、目つきがじとっとしてて怖いし。三白眼が余計拍車をかけるっていうか。それに初対面の人に対する態度が! 朝霞クンが間にいてくれたらいいのに!


「それなら受け取ろう」

「いえ、部長さんに直接渡すように言われているので。部長さんはいらっしゃいませんか」

「俺が部長だ」


 あれっ? 聞いてた話と違うなあ。監督先輩、放送部の部長は髪の長い眼鏡の女の人で、なんかすごい知的なイメージのある人だって言ってたけど。間違ってもこんな男じゃないよねえ。


「放送部の部長は女の人ですよね? 髪の長い、眼鏡の」

「あれは部長でなく監査だ。部長はこの俺だ。それを受け取ろう」


 うーん、役職違いだったとしても、監督先輩はその知的な女の人に渡すように言ったんだと思うし、仮にこの人が本当の部長だったとしても、この人に渡すのはおつかい失敗で怒られる気がする!


「いえ、私は女の人に渡すように言われてきたのでまた来ます。失礼します」

「いいからよこせ!」

「ダメですー! いたたたっ! 引っ張らないでください!」

「お前が手を離さないからだろ! お前が悪い!」

「あーん! 誰か助けてー!」

「騒ぐな、さっさと放せ!」

「いたっ、いたっ! 嫌ですー!」


 痛い痛いっ! 何でこんな目に遭わなきゃいけないの~! 何で知らない男の人に叩かれたり引っ張られたりしなきゃいけないの~! ちょっ、メガネ落ちた!

 って言うか周りの人たちこっち見てるのにどうして助けてくれないのー! あーもー、監督先輩のバカー! 朝霞クン助けてー!


「ねえ、朝霞クンあれ。日高が女の子イジメてんだけど」

「はあ?」

「女の子に手を出すとか、男の風上にも置けないよね~、でしょでしょ~。助けなきゃ~」

「ったく。……おい日高、お前何やってんだ」


 この声! 朝霞クンだ!


「あっ、朝霞クン助けてー!」

「伏見。お前、こんなトコで何やってんだ」

「うっうっうっ……この人がクールビューティーな女の人に渡す書類を奪おうと力尽くで~!」

「クールビューティー」

「きっとメグちゃんのことだね~」

「この女、朝霞の回し者か! 俺をさんざんコケにしやがって、絶対許さねーからな!」

「被害妄想もいい加減にしとけよ。生憎、俺らもコイツもお前に構ってるほど暇じゃない。そんなことやってる暇があるなら自分の班の台本でも詰めたらどうなんだ。腐ってもPだろ、お前も」


 自称部長の男は朝霞クンが睨めばどこかへ去って行ったけど……うっうっうっ……放送部は本当に怖いところだったよー、もう来れない、もう来たくない! でも朝霞クンはかっこいい! あーん、怖いやらときめくやらで、えーん!


「伏見、お前腕とか首が赤くなってるぞ。大丈夫なのか。ほら、メガネ」

「あっ、ありがと。えっとそのっ、これは防御創ってヤツかと」

「書類、宇部に渡すんだろ。呼んでやるから待ってろ」

「あっ、うん。……ありがとう、朝霞クン」


 とりあえず、無事におつかいが終われそうでよかったー! 監督先輩に言って今度から放送部へのおつかいは断るか、一緒についてきてもらわなきゃね! だって怖いもん! 自称部長がああなら殴る蹴るがきっと当たり前なんだろうなあ。朝霞クンは大丈夫なのかなあ。


「あーもしもし宇部か。お前に書類を渡したいとかで映研の奴が――」

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