あざとさ満点お化けちゃん
「やあモッチー。例のヤツ、出来た?」
「宏樹先輩。こんな感じでいいですか?」
単位互換制度で緑ヶ丘大学の授業を受けるようになって数回目。緑大の美術部入ったらしい高校の後輩と再会を果たす。望月実苑改め浦和実苑。名字が変わったところで俺にとってモッチーはモッチーのままだ。
高校では神秘現象研究部、平たく言うとオカルト部だった。モッチーは神の使いとかそういう物についてよく調べていたように思う。それで、文献にあるヘビや狐の図なんかを造形していたのを覚えている。手先が器用だなとは思っていた。
今は美術部に入って、造形をメインに活動しているそうだ。大学祭に向けた作品制作の真っ最中で、得意とするヘビに始まり、植物をモチーフにした想像上の生物を作っているとか。あまりの迫力で先輩には泣かれるらしい。さすがだね。
「こんな感じでいいですか?」
「ちょっとかぶってみていい?」
「どうぞ」
「……こほん。お菓子をくれないといたずらしちゃうぞー。……どう?」
「可愛いです」
「怖い?」
「全く」
「よかった。じゃあこれで行こう」
モッチーに頼んでいた“例のヤツ”というのは、ぱっと見では白い袋。だけど、それを頭からかぶるとお化けちゃんに一瞬にして仮装できるアイテム。最近のハロウィンはみんなメイクや仮装に懲りすぎで、店には俺の欲しいのがあまりなかった。
白い袋に黒の楕円が2つ、それと山線谷線が織りなす波で構成されるシンプルな顔。リアルさよりもポップさ、かわいらしさを求めて描いたイラストの通りにモッチーはお化けちゃんキットを仕立ててくれた。
「ハロウィンで使うから仮装キットを作ってほしいというのはわかるのですが、「怖さの欠片もない可愛いのにして」と注文をもらったときには困惑しました」
「うん、ホラーとかオカルトがダメな子からお菓子をもらいたくてさ。お化けちゃんだったらきっと大丈夫だと思って」
「でも、いきなり脅かされるとびっくりはすると思います」
「そっか。じゃあちょっと隣で試して来るよ」
ターゲットは、隣の部屋にいる。今は部屋の中に一人しかいないことはわかっている。お化けちゃんキットをかぶったままコンコンとノックをして、扉が開けばトリックオアトリート。まずは、コンコンと2つ音を鳴らす。
「開いてるぞ」
「トリックオアトリート~」
うわっと声を上げた高崎は、シッシッと俺を追い出す素振り。うーん、可愛いお化けちゃんとは言え、いきなりだとさすがにちょっと驚くのか。てか高崎はビビりすぎでしょ。
「高崎、どう?」
「どうもこうもねえ。さすがの悪趣味だな」
そこらに置いてあったお菓子の小袋を手渡されると、トンと肩を軽く押されて足が後ろに動く。俺の体が部屋の敷地から出たのを確認すると、高崎はバタンと部屋の扉を閉めた。
「ねえ、高崎。このクッキー」
「伊東が作ったヤツだ。味は保証する。わかったらさっさと帰れ」
「どーも」
ホラーやオカルトがダメな男でこの反応。うーん、やっぱりもうちょっとお化けちゃんをかぶるタイミングは考えた方がいいかもしれないな。お菓子までもらえちゃったし収穫だね。あれっ、でも俺クッキーって食べてよかったっけ。調べなきゃ。
「宏樹先輩、どうでしたか?」
「うん、上々。でも、当日はもうちょっとやり方を考えないとね」
「あ。そう言えば、もうひとつ頼まれている燭台と水晶はもう少し待ってて下さい」
「よかったらモッチーもウチの学祭に遊びに来てよ」
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