白飛びの溜め息
「お帰りなさい雄介さん」
「お帰りユースケ!」
「……何故センターのスタッフでない者が事務所に居座っている」
買い出しから戻ると、何故か綾瀬香菜子がセンターの事務所に居座っている。もちろん許容出来る話ではない。春山さんは非番で、それでなくても帰省とか何とかで現在リーダー業はオレに委託されている。どうやって綾瀬を追い出すか。
「烏丸さんと一緒に雄介さんの歯に衣着せぬ物言いの素晴らしさについて語り合ってたんですよ」
「ユースケ、カナコちゃんは話の分かるいい子だよ! 書類整理も手伝ってくれたし!」
「烏丸、お前は部外者に何をさせている」
烏丸に留守番をさせたのが失敗だったのかもしれない。いや、誰が相手でも綾瀬はここに上がり込んでいただろう。取り繕った笑顔で人を騙すなど朝飯前に違いないからな。川北だったら茶まで出して接待していたに違いない。
「綾瀬、邪魔だ。さっさと出て行け」
「はぁああああっ、ごちそうさまですぅううっ!」
「しまった、お前はそういう性癖だったな」
「えー、いいなカナコちゃん! ねえユースケ、俺も俺も! あっでも俺はユースケに嫌われたくないし出て行きたくないな」
思ったことをそのまま言うと悦ぶのは非常に厄介だ。もう1回、もう1回などと綾瀬は期待に満ちた目をオレに向ける。生憎オレにそういう趣味はない。かと言って、綾瀬を誉めちぎるのもオレの性格上非常に厳しい。
烏丸も今日は利用者も少ないしいいんじゃないなどと何故か綾瀬を擁護しているし、これ以上罵声を浴びせてここで欲情されても面倒だ。興奮させない程度に放置するのが今日この場での最善策だろう。
「ユースケ、ホワイトボードのペン買ってきたんでしょ? 行事予定書こうか?」
「ああ、そうだった。烏丸、頼む」
「私がやりましょうか!」
「だから何故お前がしゃしゃり出てくる。いいか綾瀬、どうやって烏丸に取り入ったかは知らんが、お前は部外者だ。事務所の備品に指一本触れてくれるな」
「あっ、色仕掛けだって思いました? でも雄介さんの話で意気投合しただけなんですよ本当に」
「気色悪いことを言うな」
そもそも土田の乳房を「このおっぱい自前?」などと言いながら揉みしだく烏丸相手にただの色仕掛けが通用するとも思えん。かと言ってオレの話で意気投合したというのも内容が内容だけにあまり良くは思えん。
「すみません、色仕掛けなんて。私の裸なんて気色悪いですよね」
「フン、多少の露出で驚くようで情報センターのスタッフが勤まるか」
「じゃあ脱ぎましょうか! この下布面積少ないんです実は!」
「好きにしろ。何度も言うが多少の露出では驚かん」
「むしろ見てください! 眉一つ動かさず虫けらを見るような目で! ああ……突き刺すような冷たい目、罵る低音…! はぁあああっ、きたきたこれぇっ!」
「ちょっと待った! カナコちゃん、性的欲求を満たす目的ならユースケに近付けさせないからね! 俺が認めた個体じゃないとユースケで興奮するとか許さないよ!」
「そんなこと言ったら烏丸さんだって」
「俺はいいの!」
「烏丸、手を止めるな!」
「あっごめんユースケちゃんとするよ!」
今日のA番が烏丸だったのが運の尽きだったと思って間違いないだろう。今もギャンギャンと烏丸と綾瀬は言い合いを続けているが、耳を覆いたくなるような内容だ。よし、自習室に逃げよう。何故今まで思いつかなかった。オレはB番ではないか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます