班長と時事会議

 これから行われるのは、緊急の班長会議。丸の池ステージを巡って緊急に各班長に周知しておきたいことが出来たと監査の宇部が駆け回り現在に至っている。

 普段から宇部は多忙だが、忙しそうな様子を隠そうともせずに大変だ大変だと走り回っているのは珍しい。普段ならどれだけ多忙でも段取りがしっかり出来ているから慌てることはまずない。


「ステージ前の忙しい時間に集まってもらって班長の皆さんには感謝します」

「どうした監査、緊急の班長会議なんて。部長を通さずに、お前の独断でやることか」

「連絡が後手になったことに関しては申し訳ありません。文化会監査から緊急に周知してほしいと通達を受けました」


 放送部は星ヶ丘大学文化会という組織に属している。それは文化部が集まって成る組織で、文化会役員というすごく偉い人たちが各部活を取りまとめているということらしい。


「まあいい。話を続けろ」

「はい。報道などで知っている人もいるとは思いますが、丸の池公園がスマホゲームのプレイヤーで溢れています。当然、ステージへの影響も考えられるので当日だけでなく準備の間も十分に注意するようにということです」


 最近公開されたゲームは社会現象とまで呼ばれるようになっているそうだ。俺はそれどころじゃないから当然未プレイだけど、戸田と源がやってるとは聞いている。

 宇部が言うには丸の池公園がとにかく大変なことになっているという。トラブルに巻き込まれないよう細心の注意を払ってくれと文化会が言ってくるのも例年にはないことだ。


「誰か実際にゲームをやっていたり、丸の池公園周辺のことについて見聞きしている人はいるかしら。どんなに細かいことでもいいわ。情報を求めます」

「あ、俺やってる」

「鳴尾浜。公園周辺には行った?」

「夜とかヤバい。パトカーめっちゃいるし」

「昼はどうかしら」

「うーん、今って世間的にも夏休みじゃんな。ステージへの影響って考えると土日だし、人は多いんじゃないかって思う。あと1週間で初動の波が落ち着けばいいんだけどってことだろ?」

「そうね」


 考えられるステージへの影響と言えば、ゲームのプレイヤーによるステージの妨害行為。また、周辺地域の治安が悪くなると思われれば警察からも俺たちの活動を自粛しろと言われかねない。

 警察からやめろと言われてしまえば、どんな事情でも、ゲームに関係なくてもやめなければならないだろう。ステージをやることは市や区の公園管理者に許可を取っているけれど。


「もしもレアなヤツが出るとなれば、ステージなんか平気で割り入ってくると思う。“場所の意味”って俺たちとゲーマーとじゃ違うじゃんな」

「私たちが出来る対策と言えば、警備を増やすことくらいなのかしら」

「警備? 朝霞班でいいだろ」


 ンなこったろうと思ったぜ。ふざけんな、何が「朝霞班でいいだろ」だ。警備を増やすことに関しては悪いとは思わない。だけど、分担するでもなくそれを俺たちに投げた上で責任を丸投げしやがるのが気に入らない。


「日高、他の班の奴も警備に回るんだろうな」

「4人もいれば十分だろ」

「朝霞班がステージをやってるときはどうするつもりだ」

「俺たちは忙しいんだ。自分たちでやれ。他班の手を煩わせるな」

「何かあったら責任の所在はどこになるんだ。部長か、文化会か。……それとも俺か」

「お前に決まってんだろ、当たり前のことを聞くな! そんなこともわからないほどアタマがやられてんのか!」


 うひゃひゃ、とふざけた笑い声が会議室に響けば、プチンと何かが切れる音がする。無意識に腰を上げていた。そして、歪んだ笑顔を浮かべる日高に詰め寄り、気持ち斜め下を睨み付ける。もしかすると、これはデジャヴ。


「ふざけんなよ日高、自分の手を汚さず責任なすりつけんのだけはいっちょ前だな」

「あーん? 朝霞の分際で俺に逆らうのか」

「やんのか、俺は何も間違ってねえぞ」

「朝霞、やめとけ!」

「朝霞、口を慎みなさい」

「チッ」


 鳴尾浜と宇部に止められなければ俺はまた謹慎を食らっていただろう。危なかった。いや、納得はもちろん出来るはずもないのだけれど。

 しかし、警備の人員がどうこうというのはともかく、今回の件が及ぼすステージへの影響については考えていなかった。さて、どうする。あと、警備か……誰に相談すれば解法が得られるだろうか。

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