お姉ちゃんとお下がりメガネ

「あっ、直クンメガネ屋さんに付き合ってもらってもいい?」

「いいよ」


 両の手には、沙都子の荷物。課題で浴衣を作るための材料調達という名目の買い物。浴衣の材料の他にも、本や雑貨も買った。ボクの役割は主に荷物持ち。

 メガネ屋の前で足を止めた沙都子は、何かを思い出したようにここに入りたいと言う。沙都子の視力が悪いという話は聞いたことがない。ブルーライトカット用のメガネをかけているくらいで。


「でも沙都子、どうしたの? メガネなんて」

「ブルーライトのメガネを新しく買おうと思って」


 沙都子は目を気遣っているのか、調べものなどでスマートフォンを触る時間が長くなりそうだと思ったらブルーライトをカットするメガネをかけている。

 その姿がまるで縁側のように見えるのか、サークルの1年生たちからは「さとかーさん」と親しみを込めて(?)呼ばれている。ただ、老けて見えているのかと沙都子はその呼び名を気にしている。


「でも、今のも割と最近買ったんじゃなかったっけ」

「そうなんだけど、うたちゃんが気に入っちゃったみたくて。今じゃあたしよりうたちゃんの方がメガネかけてる時間長いくらい。うたちゃんスマホもパソコンもあたしよりするしね」

「うたちゃんがメガネかけてたら、才女っぷりに拍車がかかってるんだろうな」

「でも、メガネかけてるとき大体ゲームしてる気がするから、そんなでもないかも」


 沙都子には高校3年生の妹がいる。姉妹とても仲が良くて、ボクも何回か会ったことがあるけど綺麗でかわいらしいお嬢さんだ。それで勉強も出来るって反則だね。

 始めはメガネを頻繁に借りられることに困っていたそうだ。だけど、自分よりもうたちゃんの方がスマホやパソコンの画面を見る時間は長いし、受験生はなかなかアルバイトも出来ない。だからメガネはプレゼントすることにしたらしい。


「でも、まだちょっと悩んでて」

「何を?」

「妹にお下がりをあげて、自分は新しいのにするってどうなのかなあと思って。うたちゃんに新しいのをあげた方がいいような気もするし」

「なるほど。でも、ボクは1人っ子だからお下がりについてはよくわからないんだ。ゴメン、力になれなくて」

「ううん」


 沙都子はやさしいお姉ちゃんだなあと思う。自分の買い物なんだから自分が優先でもいいような気もするけど、うたちゃんを思う気持ちの強さがすごい。

 ブルーライトカット用レンズのサンプルに青い光を照射しながら、沙都子は誰の好みでメガネを選べばいいんだろうと困り顔。


「沙都子の好みで選んでいいと思うよ。前のはシンプルだし、誰にでも似合う感じだろうから」

「そうかな」

「それに、ある程度気に入ってるから沙都子の手元に返って来ないんだろうし。大丈夫。うたちゃんは沙都子が新品のメガネかけてたって責めるような子じゃないと思うよ」


 そうだよねと一呼吸おいて沙都子はフレームを選び始めた。これなんてどうかな、と時々見せてくれる様はほんわかしていてとてもかわいらしい。ボクはそれにおかーさんぽいとか、フレームが太すぎないかななどとアドバイスを送りながら寄り添うのだ。


「買っちゃった」

「よかったね沙都子。知らなかったけど、メガネを買うとケースまでもらえるんだね」

「そうだよ。浴衣の端切れでケースデコっちゃおうかなあ」


 そうやってウキウキしている沙都子を見て思う。やっぱり女の子の買い物について行くのは幸せなことだと。メガネ屋さんの袋は沙都子本人が提げていて、これからどうしようかと夢が膨らんでいる。


「でも、結構な値段するんだね。雑貨屋さんとかならもうちょっと安い気が」

「ダメダメ直クン。安かろう悪かろうじゃ!」

「あ、はい、すみません」

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