ゲリラですっきり

「降られたー」

「あー」


 つまむ物を買いに駅前のコンビニにちょっと立ち寄ったらこうだ。さっきまでは、雲はちらほらあった程度だと思ったけど、雨が降るような感じでもなかったのに。

 シャワーのような雨に、さほど遠くない距離間の雷鳴。コンビニから部屋まで徒歩2分とは言え、少しの被害で済む規模の雨じゃない。


「エイジ、傘買う?」

「好きにしろっていう。つかお前の部屋、傘何本あるんだっていう」

「2、3本はあるんじゃないかなあ」

「降られる率が高いのか、お前が不用心なんかっつーヤツだな」


 一度は出たコンビニだったけど、いきなり降り出した雨だからまたいきなり止むかもしれない。その可能性に賭けて再び入ってみる。

 家と大学の往復は、電車とバスの乗り継ぎ。歩く時間は実質家と駅の間の2分だけ。それだけのために傘を持ち歩くのも気が引けて。

 確かに緑ヶ丘大学の敷地は広いし、外を歩く。山だから天気も変わりやすい。だけど、大学で降られたら降られたで傘を買えばいいかなとか出来るだけ濡れないルートを取ればいいかなと思うから。


「あ」

「どうした」

「洗濯物干しっぱなしだったなあ」

「あー、こりゃアウトだべ。朝洗濯してきたのか?」

「ううん、少なくとも昨日から干しっぱ」

「その言い方だと『覚えてる範囲では昨日からだけど、実はもっと前からかもしれない』って聞こえるべ」

「実際そうだからね」

「それ、干せたところで着るのかっていう」

「問題なくない?」

「大有りだべ」


 無事に帰れたらその洗濯物を洗い直せとエイジがチクリ。今着ている服もついでに洗っちまえと。でもなあ、伊東先輩の部屋と違ってうちはいつでも快適に洗濯が出来る環境でもないしなあ。

 除湿機がなければエアコンのドライを使えばいいじゃない、と伊東先輩は言うけどそれだって電気代がかかる。そもそもまだ本格的に暑くもなってないのにエアコンのコンセントを挿すなんて。


「止みそうにねーな」

「空も真っ暗だ。夜みたい。お酒買い足そう」

「それならついでに傘も買えよ」

「わかったよ」


 酒と傘を買って、再び軒先へ。傘を買ったまではよかったけど、やっぱり一歩を踏み出すにはなかなか勇気がいる。アスファルトにバチバチと打ち付ける雨はそのうち水深何センチと表されそうな、そんな。


「はいエイジ。入っていいよ」

「どーも」


 気持ちエイジが面積多め。俺はどうせ帰ったらエイジの監視下で洗濯をしなきゃいけないんだから。今濡らすのも、後で濡らすのも同じ。荷物だけ確実に守れればいい。

 先に買った惣菜の揚げ物も、濡らさないように。雨宿りした時間で少し温くなったかもしれない。せっかくの揚げ物をやわくするくらいなら早く傘を買ってればよかった。レンジにかけるのもめんどくさいし。


「靴もびちゃびちゃだ」

「クツは新聞突っ込んどきゃそのうち乾く」

「新聞なんてとってないよ」

「あー、それなら郵便受けにたまってるチラシとかでよくね、紙だ紙」

「そうだね。1足しかないからこの靴が乾かないことには外にも出れないよ」

「予備の靴を買えっていう」

「もうちょっと暑くなったらサンダルを買おうとは思ってるんだ」

「おー、いいじゃんサンダル」


 ああ、また傘を1本増やしてしまった。だけどこれからも荷物は最低限で行きたいと思ってしまう時点で傘立て代わりのバケツがすっきりすることはないんだろうなあ。


「あーやっとついたー」

「玄関で脱いで即洗濯な。そんなずぶ濡れで部屋に上がるとか悲惨だっていう」

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