階層と3DX

「あっ、こっしーさ~ん」

「よう洋平。昼はさすがに時間あるのか」

「そうですね~、夜よりは昼の方が時間はありますよ~」


 ぷらぷらと本屋に出かけたら、そこで見かけたのは部活の先輩。こっしーさんと顔を合わせるなんていつぶりだろ。俺が居酒屋でバイトしてて捕まりにくいんだってよく言われるけど、言うほど仕事ばかりしてるワケでもないのになあ。

 それはともかく、ここで会ったが百年目。俺も時間はまだあるし、こっしーさんはお休みだから久々にご飯でも食べるかとかそんなようなノリと勢いで。星港市の郊外に位置するこの辺りは、食事処もまあまあある。


「どうだ、ステージは」

「朝霞クンが例によって台本と格闘中で~す」

「そうか、そういやそういう時期か。じゃああんま急にアイツの部屋に押しかけたら殺されるな」

「雄平さんでもそう思うんですか?」

「――って言うのは?」


 どうしてそんなことを思ったのかと言えば、去年までの光景を思えばこそ。台本を書いている朝霞クンを傍でずっと見守っていたのは他でもない雄平さんで。

 だから、雄平さんなら台本を書いている朝霞クンのパーソナルスペースに入れそうだと思った。俺はうろちょろするなとか静かにしてろって言われて摘み出されたりするけど、こっしーさんならって。


「それはお前、去年だから許されたんだ。越谷班の班長とプロデューサーだったからだ。今の俺は朝霞の先輩ではあるかもしれないけど、朝霞班に口出しできる存在じゃない」

「そ~ゆ~モンですかね~」


 目の前に運び込まれた生姜焼き定食の香りが食欲を掻き立てる。先に食っていいぞとこっしーさん。こっしーさんが頼んだのはおろしポン酢ハンバーグ定食。曰くあっさりめにしたとのこと。

 いただきま~すと手を合わせると、こっしーさんのハンバーグも届く。2人して改めていただきますと手を合わせる。じーっと視線を感じれば、言われるより、盗られるより早く一切れの肉をこっしーさんの方にのっけた。


「こっしーさんどっちにしても横取りしますもんね~」

「俺を何だと思ってるんだ」

「でも、朝霞クンがいればよかったですね~」

「この時期のアイツは呼んでも出てこないだろ」

「それなんですよ。俺は朝霞クンにご飯を食べてほしいんですよ。最近少しずつ、見るからに細くなってる気がするんですよね」

「そりゃお前、食わないから痩せるんだろ。筋肉から消費してんだ」

「なるほど、さすが筋肉と言えば雄平さんですね~」


 去年はこっしーさんがいてくれたけど、今年の朝霞クンは1人で台本と格闘している。もう少し時間が迫ってくると、レッドブルとゼリーしか口にしなくなるのかもしれない。

 それで、よっぽど体が悲鳴を上げると本人の意識から離れたところで足がふらふらと俺がバイトしてる店に向かうのかもしれない。それで、じゃこ卵かけごはんを虚ろな目で食べる。


「でも、俺は今の朝霞クンに何が出来るんですかね~。台本書くサポートが出来るワケでもないですし~」

「洋平、誰もお前に書くことのサポートなんか期待しちゃいないだろ」

「あはは~、ですよね~」

「お前が期待されてんのは、平面のモノにいかに厚みを持たすか。だろ?」

「はい、知ってます」

「なら言わすな」

「すみませ~ん。確認したかったんです~」


 パクパクと定食を食べ進めていると、向かいから大根おろしの乗った一口大のハンバーグがひょいっと乗っかってくる。俺はそれをありがたくいただきま~すとパクリ。


「朝霞クン、夜ご飯誘ったら来てくれるかな~」

「店で食わす的なことか?」

「雄平さん、朝霞クンに声かけてみてくれます~?」

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