難易度Xマインスイープ

「ロイ~、元気だった~?」

「ああ。チャリンコでコケて打撲以外は元気だった。ミッツ、そっちはどうだ」

「俺もね、元気元気」


 距離感は、ゼロ距離と言うのが適してる。ぴったりとくっついて、両の肩に置かれた手はもみもみと忙しなく動く。それを遠巻きに見ているアタシと洋平は言葉を奪われていた。あまりの恐怖に声を発することが出来なくなっていたのだ。


「はっ、目を奪われちゃってた~」

「無知って怖いな、洋平」

「ホント、それでしょでしょ……」


 あっちの方では、向島の三井サンが朝霞サンにベタベタくっついて回っている。スマホで何かいろいろ見せてるみたいだけど。ああ、やっぱり。朝霞サン、アレをかわしたがってるな。

 鬼のプロデューサーとしての朝霞サンを知っていれば、間違っても本番前に余計なことで話しかけたりは出来ない。本番前は基本的に集中して精神統一、もしくは目を閉じて、グーッと一点集中の休息をとる人だ。

 インターフェイスだからそれを知らなくたってしゃーないとは思うけど、アタシと洋平から見れば本番前の朝霞サンに不用意に絡みに行くとか自殺行為。怖すぎて遠巻きに見るしか出来なくなっていた。


「今日の朝霞クンは、いろいろ重なっちゃってるからいつもよりストレス溜まるの早いと思うんだよね~、あ~怖い」

「いろいろって?」

「まず、本番前でしょ? ステージならともかく慣れないラジオ。あと、朝霞クンの班の松江クンがまだ来てないデショ? 最悪の場合番組の構成自体を考え直さなきゃいけないからネ」

「あー、なるほど」

「三井クンのプレゼン、聞いてるようでひとっつも聞いてないネ」


 洋平によれば、興味があるときの朝霞サンは話にもっとガッツいてくるし、それを掘り下げるような質問をどんどん飛ばしてくる。それで話がもっと広がって、表情もコロコロ変わるそうだ。

 でも、今の朝霞サンは「ああ」とか「へー」とかいう相槌と、相手の言うことを繰り返すような返事だけ。顔も一定の表情で固まったまま。これは話を聞いているようで聞いていないときのポイントらしい。


「何より、集中したいときの朝霞クン相手にスキンシップって。俺がやってたら2、3発は殴られてるよねよね~」

「打撲どころじゃ済まなかったりしてな」

「冗談に聞こえないよつばちゃん!」


 朝霞サンの方を見れば、今度は三井サンが朝霞サンの腰に手を回していた。ぴったりとくっついて、きっとスマホで動画か何かを見せているのかもしれない。何だアレ。(一方的に)いちゃいちゃしすぎだろ。


「2年生の間でさ、三井サンてそっちの人なんじゃないかって言われてんだけどさ」

「え~? 天性の女好きでしょ~?」

「でもさ、これじゃあそう言われるわ」

「う~ん、まあね~。朝霞クン、拒否らないで適当に話を合わせちゃってるからエスカレートしてるよね~」

「言うなら“朝霞P”と“ロイ”の違いってヤツ?」

「でしょでしょ~。うん、三井クンには、ロイが拒否らないからって朝霞Pに下手なことをしたら死ぬヨって議長サンか誰かつてに教えてあげたいくらい」

「確かにな。三井サンが死んでも困らないけど朝霞サンが捕まると困るし」


 うん、逃げよう。何も見てない聞いてない。それを合言葉に、アタシと洋平は見るからに明らかな地雷から遠ざかることに。アタシらは、それを知っているからこそ地雷処理班にはなれないんだ。

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