感覚は惰性にあらず
キュッキュッと、コートで足の動く音。バスケットシューズの擦れるあの音や、ダァンと響くドリブルの音。シュートがリングに吸い込まれれば、パツンとネットの跳ねる音。いろいろな人のそれが重なって、
「はーい、それじゃあ一回休けーい」
緑ヶ丘大学バスケサークルGREENsは、大学近くの小学校を借りて活動している大学公認サークル。日曜日も隔週くらいの頻度でやってて、今日はやる方の日曜日。男子も女子も関係なくとにかく入り乱れる感じ。
他にあるバスケサークルと何が違うのかって言ったら、ちゃんとバスケやってることかな。あ、ほら、名目はバスケサークルだけど実際は単なる飲みサーとかってよくある話だし。あと、実力者も多いよね。
「
「わかりますか、さすが美弥子サン」
「こないだより指先気にしてない感じだし」
うちがGREENsでよくしてもらってるのは、4年生の
この美弥子サンはとにかく押せ押せのフォワード。カットインが物凄く鋭いし、当たり負けしないパワーもある。ファウルはもらうものじゃなくて取りに行くものという認識。プレースタイルだけじゃなくて実際の性格も結構勝ち気に強気。
「爪切らないとどうなるんすか」
「お、いい質問だね鵠っち」
「あたしも気になるっす!」
「よーしわかった、かわいい1年生のために説明しよう!」
ありがたいことに、GREENsにも何人かの1年生が入ってくれた。送迎の関係で仲良くなったのが、顔つきとか見た目はちょっと厳ついフォワードの
もうひとりがさっちゃんこと
そんな2人に、爪の長さに関する話を始める。これはうちが個人的に気になるってだけの話でみんながみんなそうじゃないとは思うけど、という前置きをしつつ。単に、ボールに爪が引っかかってシュートの軌道がずれるってだけなんだけど。
「こう、指先まで持ってきた力が、爪が引っかかって意図しない感じにズレたりする。すると、外れるのよシュートが」
「へー! そーなんですねー!」
「慧梨夏サンほどのシューターでもちょっとのことで変わるんすね」
「それにね鵠ちゃんサッチー、あんまり爪長いと人引っかいちゃうかもしんないから。たまにいるんだよねー、引っかかれて流血沙汰なんてのがさー」
「あー、ありますよね美弥子サン」
「慧梨夏サンあたしの爪はどうですか!」
「これくらいなら大丈夫じゃない? ねえ美弥子サン」
「そうだね」
「あっ、鵠沼クン爪長い!」
さっちゃんの声にみんなで鵠っちの爪を覗き込むと、確かにちょっと長い。ほほーう、これはいけませんねえ。美弥子サンと目を合わせて、せーのの合図で。
「捕獲ー!」
「イエッサー!」
ぎゃー、と悲鳴が響けば、そろそろ休憩が終わる合図が出されるはずだったのも取りやめになって。今度はみんなでそれを眺めて楽しんでる。
「鵠っち、お姉さんが爪を切ってあげよう。その長さで食品扱うのはダメでしょ」
「あ、いや……自分でやるっす! ホント自分でやるんで!」
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