進みたいけど留まりたい
「ちーぃー、いるー?」
「はーい。あっ、あずさ。どうしたの?」
「えっと、これ。作ったからハルちゃんと食べて」
「わー、ありがとう。そうだ、上がってく?」
日曜日のお昼過ぎ、タッパーを抱えてお邪魔する大石家。ちーとは小さい頃からの付き合い。高校まではずっと一緒。大学はあたしが星ヶ丘でちーは星大って感じで離れちゃったけど、今もこんな感じで一緒にいる間柄。
ちーは
「あずさ、いつもありがとう」
「ううん、あたしが作りすぎちゃってるだけだしそんな別に全然っ」
――とは言うけど、ちーがあんまり美味しそうに食べてくれるからついつい作りすぎちゃうんだよなあ……バカちー、鈍感。でもそれがちーのいいところなんだよなあ、みんなに優しい。あたしだけじゃないんだけど。
ちーは自分なんて普通だよーなんて謙遜するけど、そもそも単に普通の人だったら難関国立大ーって言われてる星港大学になんてスパッと入れないからね。学部の偏差値はそんなにーとか言うけど星大は星大だもん。すごい。
あと、それだけじゃなくてスポーツマンなんだよね。運動全般まあまあ出来るし、特にすごいのは昔からずっとやってる水泳だよね。プールにいるちーはすっごくかっこいい! いつもがほわほわしてるから余計締まって見えるし体だよね体。肉体美!
それに力持ちだし優しいし、料理も出来るし実は結構スキがないんだよね。ちょっと周りの人に気を遣いすぎちゃうところがあったり、争いごとが苦手だったりするけど、それもちーらしいと言うか、理由がちゃんとしてるから。
「ちー、最近どう?」
「最近?」
「またバイト入れまくってないよね?」
「春休みほどは入れないよさすがに。それに、繁忙期は一応過ぎたから」
「いくら何でも朝7時半から日付変わるまで働いてるとかおかしいよ。いくらちーが体力に自信あってもそんなの続けてたら体壊しちゃうよ」
「でも日給1万5千円オーバーって大きいよね。それがたった1週間で10万円」
ちーがそんな風に働いているのは少しでも学費の足しにするため。学費は大学の制度でちょっと安くしてもらってるみたいだけど、ハルちゃんにあんまり甘えすぎてもいけないから少しくらいは自分で、という動機。
「兄さんには自分で稼いだお金は自分で好きなように使ってほしいし」
「……この部屋の惨状を見てたら十分好きに使ってると思うけど。ハルちゃんまた新しい美容機器買った?」
「うん、そうなんだよね。どこにしまおう」
「とにかく、ちーが体壊したらそれこそハルちゃんが悲しむし、怒ると思うよ。それに、あたしだって……」
「えっ?」
「ううん、何でもない! とにかく、ムチャな働き方はしないこと!」
「大丈夫。今はそんなに入ってないし。今はサークルの方で忙しいから。ファンフェスもあるし」
「えっ、何それー」
なかなかこれ以上のところに進まないのが歯がゆいけど、あんまり急に押せ押せになるのも何か違う気がするし。でも、もう何年こうしてると思って! それでもってあと何年こうしてればいいのって! うう、バカちー、鈍感!
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