陽の下のエンゲル
昼休みになると、どこもかしこも人だかり。緑ヶ丘大学に何箇所ある食堂や購買は人でいっぱい。ゴールデンウィークが明けるまではこんな感じなのを覚悟しなきゃいけないだろう。昼飯を確保するのも精一杯だ。
幸い2限が少し早く終わったのと、今週はまだイントロダクションの講義が多いということもあって終了時間がみんなまばら。思ったよりスムーズにテイクアウト丼を買うことが出来てよかった。
「どっこいせ」
そして俺の定位置は、教務課やら学生課のある建物の入り口に繋がる階段、それか学内の中心にある謎の池の周りに敷かれた芝生。その池の周りをラウンドアバウトのように道が出来ていて、それらは様々な施設へ繋がる道だ。
まあ、今日は階段か。秋冬はコンクリでケツが冷てえけど、この季節ならそんなこともないだろうし、程良く影もある。池の芝生も気持ちはいいが、春にそんなことをするのは自殺行為。眠くて死ぬ未来しかない。
「あっ、高ピー先輩!」
「おっ、果林」
「高ピー先輩ここでご飯ですか? 一緒に食べましょうよ」
「好きにしろ」
「わーいやったーおじゃましまーす!」
大きな買い物袋を提げた果林が隣に陣取る。しかしいつ見ても買い物の量が尋常じゃない。確かに慣れてはいるが、一般的な常識の範疇に収まる昼食の量ではないのは紛れもない事実。
「高ピー先輩と言えばやっぱりソースカツ丼ですよねー。あー、アタシも丼にすればよかったかなあ」
「お前ならそれ全部食ってもまだ食えるだろ」
「まあ、そうなんですけどー」
「つかお前飯どこで買ってきたんだ? どこもすごい並んでるだろ」
「外のコンビニです、原付で。そっちの方が早いですし」
「一理ある」
袋の中からは菓子パンやサンドイッチ、それにサラダなんかが大量に出てくる。果林はとにかく食べる量が尋常ではない。身長は確か153。正直に言ってチビだ。燃費が悪いとしか言いようがない四次元胃袋。
ファミレスに行ったら定食を2~3人前の注文は当然。学食でも丼がご飯で麺類が汁物。それと別にまたおかずを注文してデザートも食べて、という食いっぷり。バイト代はほとんど食費に消える。
「って言うか高ピー先輩の場合家に帰ってもいいんじゃないですか?」
「まあ、歩いても5分だしな。でも帰ったら3限もねえし寝ちまうっつーな。せめて1発目のゼミくらいはまともに出とかねえと後がマズい」
「高ピー先輩って基本真面目なのにゼミだけはテキトーですよね。安部さんてそんなゆるいんですか?」
「去年は出席1コ足りなくなったけど、黒糖かりんとう渡して何とかしてもらった」
「うわっゆるっ! ヒゲは一人一人名前呼んで出席とるんですよねー、めんどくさいったらもう」
すぐ側にあるスピーカーからは、佐藤ゼミがやっている昼の番組が流れてくる。ヒゲゼミの番組とMBCCでは目的とか方向性が違うからうだうだ言うこと自体ナンセンスだが、聞かせるならもうちょっとなんか、こう。
実践型学習とか学術的番組と銘打ってあれば不特定多数の耳に暴力的に入ってくることになる番組の内容なんかが問われないっつーのか、と。コイツらマイクの距離さっきから近すぎだ。いや、ゲインの上がり過ぎか? 鼻息うるせえ。
「でも、青空ランチっていいもんですね。空の下でご飯食べてたら気持ちよくってどれだけ食べても足りないですもん」
「いや、それはお前だけだ。まあ、ビールでもありゃ言うことはないんだけどな」
「ですよねー。高ピー先輩丼買ってください、ソースカツ丼」
「自分で買え」
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