◆Comedy END◆   我ら騎士団第三部隊!

「私には、どっちも選べないです」


 二人とも大切な友人だから。……ううん、友達だって、思ってもいい、よね?

 比べることなんてできないよ。


「……そう。なら、仕方ないね。私は退散するよ。ここに居ても、リオンに気を遣わせてしまうだろうから」

「あ……」

「またね、リオン」


 フワリと微笑んで、アルは去っていった。謝罪の言葉も受け取らないつもりだったのかな。

 強気な態度なんて初めからなかったみたいに、あっさりした対応。……アルは、最初からからかってただけなのかな。


 それにしても……。


「……」

「……」


 その場に残ってるハーヴェイさんとは、気まずい空気になっちゃった。


「あ、あの」

「あーあ、フラれたな。残念だ」

「……ご――」

「謝んのはナシ。余計にみじめになるっつの」

「……」


 まるで先を読んだみたいに、釘を刺されちゃった。

 だったら、なんて言えばいいの?


「やーい、フラれてるとか! 超ダサいっす!」

「!」


 明るい声が入ってきたかと思ったら、スクワイアさん?

 それに……第三部隊の隊員さん達まで、こっちをマジマジ見てる。


 ……いつから見てたの?


「副隊長をフルなんて……やはり彼女は天使」

「俺達にも希望があると思わせてくれる、貴重な存在だな。おがむか」

「どうか俺にも彼女ができますように……!」

「男は嫌だ男は嫌だ男は嫌だ……」

「おい、あんたら。喧嘩売ってんのか、この野郎」


 隊員さん達の言葉に、ハーヴェイさんは口元をひくつかせた。

 ガヤガヤしてる隊員さん達に囲まれると、さっきまでのハーヴェイさんとの微妙な空気がうやむやになる。


 ちょっと、安心。あのままだと、何を話したらいいのか困ってたはずだから。


「ッハ!?  そうっす、副隊長をフルってことは、俺にもチャンスが!」

「? え?」

「クガさん! 俺と……花祭りに行きましょう! 屋台のおやつをもれなくつけるっすよ!」

「はぁ!?」

「スクワイア、さん?」


 唐突に何を言い出すの?

 腰を90度ピッタリに曲げて、手を差し出されても困るよ。


「なに誘ってんだ、チェスター!?」

「ズルいぞおい! 俺も! 俺もどうだ、クガさん!」

「いーや、こんな奴らより俺がいいぞ! そうだ、俺ならおやつだけでなく花飾りもつける!」

「テッメェ、ズリィぞ!? じゃあ俺はメシもつける!」

「あ、あの……」


 ワイワイ盛り上がってるけど、私、誰とも行く気ないんですけど……。


「おい! 全員で誘ってんじゃねぇ! クガが困ってんだろ」

「負け犬副隊長は黙ってくださいっす!」

「ハァ!?」


 スクワイアさんの返しに、ハーヴェイさんの表情が強ばった。明らかに、今の一言にカチンときてるよ。


「……良い度胸だ、テメェら。全員イチから鍛え直してやるよ! 剣を抜け、一斉に相手をしてやる!」

「望むところっす! いつまでも俺達がやられっぱなしだと思ったら大間違いっすよ!」

「やるぜ野郎共ぉぉおおお! 男の敵をぶっ潰すぞ!!」

「そして女の子達を、俺達の元に!」

「クガさんとのデート件は、俺のモンだぁぁぁああああ!!!」

「「「うぉぉぉおおおおおおおおっっ!!」」」


 あ、暑苦しいよ……! それに、戦ったとしても誰とも行かないからね、私!

 こんな大事になるなんて……この事態、どうすれば収まるの!?


 一触即発って感じの雰囲気を壊したのは、地獄の底から聞こえてくるみたいな、低く恐ろしい声。


「このアホ共ぉぉぉおおおおおお!!!! なにを職務放棄してやがる!! そこに並べぇぇええええええっっ!!」

「「「!?」」」


 こめかみに青筋を浮かべて、眉間にしわを深く刻んだ隊長さんが怒鳴りつけてきた。


「うげぇぇえええええっっ!! た、隊長!?」

「おい逃げようぜ!」

「隊長、すんません! けど女子の方が俺達は大事っす!」


 その泣く子も黙るような怒鳴り声に、隊員の人達はクモの子を散らすみたいに散り散りになって逃げだす。

 乱闘騒ぎになりそうだった緊迫した空間がなくなったけど、かわりに殺気立った隊長さんが君臨した。


 どっちがマシって言えないくらい、両方とも危機を感じるよ。


「やっばいな、マジギレモードかよ……おいクガ、俺達も逃げるぞ!」

「……え?」

「何ボケッとしてんだよ、ほら!」


 手をつかまれて、そのまま私も他の隊員みたいに逃げ出す。

 先導するハーヴェイさんは、さっきの私とのやり取りを気にしてる素振りもない。


 あの、そもそもだけどハーヴェイさん。


「私が逃げる必要は、なかったんじゃないですか?」

「そうだな」

「!?」


 即答!? しかもわかっててやったの、ハーヴェイさん!

 ここで混じって逃げたほうが巻き込まれるのに! ついとっさに手を引かれて走り出したけど、ここは絶対に流される場面じゃなかったよ。


 後ろからせまってこようとする隊長さんのうなり声が、ホラー映画の怪物並みに怖い雰囲気を出してるんだけど。


「ま、べつにいいだろ」

「よ、よくないですよ! 皆さんと違って、私は足が速くないんですからね!?」

「あんたなら、追いつかれても怒られるだけだろ。俺達の場合は、生死に関わるけどな!」


 だったら、どうして楽しそうなんですか!?

 背中しか見えないけど、声のトーンで笑ってることくらい察してるけど納得できない!


 きっと、明るく陽気に、心底楽しんでるんだろうけど。


 こんなハラハラ、私は楽しめそうにないよ!


「怒られるのだって、嫌、です!」

「だからって今更後に引けないだろ? なら、楽しむしかない」

「わ、私には……無理、ですっ!」


 第一、会話しながら走ってるせいで、息切れまでしてきたのに。

 そんな余裕なんて生まれるはずないよ。


「じゃあ、あんたがつかまりそうになったら、腕に抱えて逃げてやるよ」

「え……ええ!?」


 それって……まさか…………。


「おんぶとかです、よね?」

「は? んなわけないだろ? 女の子の抱え方といったら、一つに決まってるだろ」

「!?」


 やっぱりそうだ! 間違いなくハーヴェイさんは、お姫様抱っこをしようとしてる!?


「ぜ、絶対に……お断り、です!」


 息絶え絶えになりながらも拒否をした。こんなところでされちゃっても平気な心臓なんて、私は持ってないよ。


 恥ずかしすぎて、顔が発火しちゃうくらい熱くなるに決まってる。

 そもそも、職場だって通いづらくなるはず。


「断られても、そうなりそうなときは強制的にするからな。いやー、楽しみだな☆」

「!?」


 嫌だって言ってるのに!

 ハーヴェイさんってばさっきの仕返しのつもりなの!? 聞く耳を持とうとしないよ。


 顔だけ振り向いて、ハーヴェイさんは不敵な笑みを浮かべた。 

 意地悪そうな光を宿す空色の瞳が、私をすくめた。


「つかまらないように、せいぜい足掻あがけよ?」

「……絶対に、逃げ切ってみせます、からね!」

「ハハッ期待しとくな!」


 にらみ返すと、ハーヴェイさんが明るく笑ってみせた。


 彼には、まるで私を抱えて逃げる未来が見えてるみたい。

 だけど、そう簡単にさせる気はないよ。


 恥ずかしいし、その時の周りの反応だって大変なことになりそうだからね。


「根性きたえ直してやるぞ、テメェらぁああああああ!!」

「「「遠慮します!!」」」


 声のそろった隊員達の即答に、ますます苛立ってる気配が背後からする。


「こんの……クソ野郎共ぉぉおおおおお!!」


 隊長さんの怒り狂った叫び声が訓練場に響き渡った。



 ◇◇◇



 いつか、このにぎやかな生活も過去になってしまう。

 でも、私が元の世界に帰れるまでは。



 それまでここで、皆と過ごしていきたい。



「うぉぉぉおおおおおお!!!」

「グハッ!?」

「隊長が人をいたぞっ!? おい大丈夫か……ぁああああああっ!?」

「あいつまで犠牲に……お、俺は助かるんだぁぁああ!!」

「犠牲を無駄にするな! 振り返ったら死ぬぞ!」


 ひ、悲鳴がスゴいことになってるよ。

 振り返りたいけど、その瞬間にスピードが下がるからできそうもないし。


「うわっ! 隊長がスピード速めてきた!? ほら急げよ、クガ!」

「! もちろん、です!」


 うなずいてみせると、満足そうにハーヴェイさんは笑い声を上げた。


「待てぇぇぇええええっっ!! バカ隊員共ぉぉぉぉぉおおおおおっっ」

「待てと言われて待つ奴はいないですって、隊長!」

あおってどうするんですか、ハーヴェイさん!」


 笑いながら返す彼に手を引かれて、走り続ける。


 ――『その手を放さないでほしい』なんて想いには、フタをして。


 

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