第37話    「お前の幸せは、どこにある?」

「はぁ……」


 就寝前の時間。

 私はため息を吐きつつ、ベットに力なく横たわった。やわらかいベットが、とっても快適。

 

 ……もう何もしたくない。考えたくない。

 でも、絶対に、今じゃないと決められないし、考えなきゃいけない。


 天井で淡くつく照明用の魔道具を見上げて、私はボンヤリとする。


「私は……どうしたいの?」


 自分への問いかけが、虚しく部屋中に響く。返す人がいないからこそ、言える。


 迷っているけど、いい加減に決めなきゃいけない。今後の身の振り方を、考えなきゃ。

 時間は限られてるんだから。


 ゴロゴロベットの上で何となく転がると、気が紛れる。……って、紛れちゃダメなんだっけ。


「……」


 頭の中がグチャグチャに散らかってて、全然整理できてない。

 ここ数日の出来事が、多くありすぎたせいもあるかも。


 やっと慣れてきたかなってときに、たくさん驚いたこととか悲しいことがあったから。


 レイモンドさんには、「早く出て行け」なんて言われて。

 ハーヴェイさんは、意外と面倒見が良くて、騎士舎の仕事を紹介してもらえた。

 アルは、初めて会った時より今の方が全然性格がつかめないし。

 セオドールさんには、「二度と会わない」って悲しそうな顔をさせちゃった。


「……これじゃ、ダメだよね」


 外の空気でも吸って、気分転換しようかな?


 立ち上がってバルコニーに通じる窓に近づいた。もう、すっかり月が空に上がりきってる時間だよね。

 カーテンを開けてみれば、それもわかるかな。


「……!」


 引いていたカーテンを開けると、バルコニーに人がいた。

 その人は手すりに腰掛けて、まるでここにいるのが当然、って感じで居座ってる。そんな彼は、以前一度だけ話したことがあった。


 窓を開けると、月を静かに見上げていた彼がこっちを向いた。

 水色の月が、彼の黒髪を淡い光で照らしている。


 私は自然と、彼の名前を口にしていた。


「クロウ?」

「……」


 無言!?

 『久しぶり』なんてあいさつが返ってくることも、期待しなかったけど。せめて一言くらいほしいよ!


「あの……久しぶり」

「……そうだな」

「……」

「……」


 え、それだけ!?

 せめてもうちょっと、何か言って!?


 ……待ってみても、きっと変わらないよね。

 そもそも、前も思ったけど、クロウは何のためにここに来てるのかな?


「あの……クロウは、どうしてここに来たの? 前も、来てたけど……」

「俺は、見届ける義務がある」

「義務?」


 堅苦しい言葉。

 それに、見届けるって?


「あの……何を? 何を、見届けるの?」

「お前がもたらす終焉しゅうえんを」

「……前も、それ言ってたよね。終焉って、何?」


 不穏な言葉だったから、妙に耳に残ってたんだよね。

 聞く前に結局、クロウがバルコニーから飛び降りちゃったから詳しく聞けなかったけど。今なら答えが聞けるかも。


「終焉は終焉でしかない」

「……それがわからないんだけど」

「時がくればいずれわかる」

「……」


 無機質に言うなんて、まるで定められたセリフみたい。

 掘り下げても、かたくなに同じ答えしか戻ってこなさそうな気がする。


 要領がつかめないことばかり言われて、もやもやするのに。クロウは、私が落ち着くのを待ってなんかくれない。


「そのために、お前は選択しなければならない」

「え……」


 なんか、今の私の状況を知ってるみたい。

 ……まさか、そんなはずないよね。


 戸惑って思わず声を上げちゃった私を、クロウはただ闇のような瞳で見ていた。


 吸い込まれそうな瞳。それは、彼の感情が読み取れないってせいもあるのかも。……ううん、もしかしたらクロウは、何も考えていないのかな。 


 ……そういえば、元の世界では見慣れた黒なのに、どうしてこの世界ではないの?


 外れてしまった私の思考を、クロウの問いが現実に引き戻した。


「お前の幸せは、どこにある?」

「…………私の、幸せ?」


 そんなの……わからないよ。


 困って黙ってしまった私に、クロウは問い続けた。


「お前は、この世界で何をしたい。全ては、ここに集約する」

「ナシ……?」


 つい、食べるナシが浮かんじゃったけど、そんなはずないよね。きっと、『成す』って言いたいのかな。

 何をしたいか、なんて……。


「帰る方法を探すだけ、だけど」

「……それすらも、答えることが困難なのか」


 クロウが険しい顔になったってことは、答えを間違えた? それとも、彼の欲しい言葉じゃなかったのかな。


「わかった。では、お前が一番、そばにいたい相手は誰だ」

「……え?」


 何? その質問。

 冗談かな? ……でも、とっても真剣にクロウが聞いてるから、きっと、彼にとっては重要なことなのかな。

 でも、私の答えに何の意味があるの?


「傍にいたい相手?」

「そうだ」


 聞き返すと、クロウはゆっくりと頷いてみせる。


「この世界で、今、誰と共にいたいと願う?」

「……」


 ――この世界で、誰と?


 たぶん、『この世界で会った人たちの中で』ってことだよね?

 あっという間みたいに感じた2週間だけど、色んな人たちと会って私なりに彼らと少しづつ関わってきた。


 でも、もしも。その中で一人ってことだと……。


「私が、一緒にいたいのは――」




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