第26話    「っや、やめてください!」

 空きの今日は、私は市場に行くことにした。

 アルの様子だとまたご飯を作ることになりそうなのに、食材とかわからなかったら料理を他にも考えにくくなるから。


 トマトスパゲッティーを作ったときは、アルに材料の味とか触感を聞いて、元の世界での何なのかを予想してなんとかなったけど。

 あれは、結構賭けだったかなって終わった後から気づいたよ。

 次においしい味になるかどうかなんて、わからないからね。


 市場に寄る前に、少しだけ裏通りをのぞくことにした。

 ジョシュアさん達に行かないって約束してるけど、でも、そうしないとセオドールさんには会えない気がして。


 セオドールさんにはきちんとしたお礼がしたい。お礼の物を大通りの雑貨屋で購入もして、準備も万端したよ。

 だけど、会えるかどうかはわからないけど。でも、そこくらいしかセオドールさんとのつながりなんてないよね。


 あと手掛かりなんて、見た目と名前くらい?

 あの見た目は目立つとは思うけど……でもだからって、王都って広そうだから一人を見つけ出すのは骨が折れると思うよ。そんなに時間をかけちゃったら、お礼を渡すのもいつになるのかな。


「ここ……かな?」


 ハーヴィンさんにもらった地図をたよりに、裏通りに来た。

 ちなみに裏通りは、地図上では追記で「※自己責任」って書いてあって、やっぱり危険みたい。

 あと、裏通りを抜けた先のところに「花街」って書いてあったんだけど……。花街って、なにかな? 植物園みたいなところ? それとも花屋が立ち並んでるとか?

 

「……」


 恐る恐る一歩踏み出してみた。ちょっとだけ入ったくらいだと、全然裏通りって感じがない。

 通りの先を見てみたけど……ダークグレーのローブを着た人はいない。むしろ、人が一人もいなくて……少し物悲しい気分。

 セオドールさんはいないのかな?


「……? あれ、何か聞こえる?」


 後ろの通りの人の声とは別のところで、喧騒が聞こえる。声がかすかにしか聞こえなくて、内容までわからないから離れてるのかな。


 本当なら、ここで引き返すべきだよね。ジョシュアさん達にも約束したから。


「……」


 でも、気になる。

 迷ったけど、行ってみよう。……ごめんなさい、ジョシュアさん、アンジェさん。


 最初の道は一本道だったけど、途中で曲がって二手とか三つに分かれたりしてた。

 ……来た道順を忘れないようにしなきゃ。


 そうしてるうちに声が大きくなってきた。


「この声って……」


 前に私に話しかけてきた、怖い人達の……?

 すぐそばで聞こえ始めて、思わず立ち止まった。私は今、曲がり角の近くにいるから、きっとこの曲がった先に彼らがいる。


 この人達が、騒いでたの?

 耳を澄ませてみると、その会話の内容が聞こえた。


「おいテメェ! いい加減に何か言えよ! それともなんだぁ? 今更怖がってんのかぁ?」

「そりゃ仕方ねぇ。前とは比べもんになんねぇほど、厚ぅーい接待を受けてんだぞ? ションベンがチビるのくらい多めに見てやろうぜ。俺達って、優しいからなぁ?」


 そっと角から少しだけ顔をのぞかせて、確認してみた。後ろ姿は……前の怖い二人組? だけど……それ以外の人もいかつい大男みたいな人が4人も。


「……!」


 二人組と対してる人が、あの、セオドールさんだった。

 さっきの会話の内容からすると、セオドールさんは今からあの人達にリンチに遭おうとしてるの?


 何でなんて、考える必要なんてない。

 絶対、私を助けたときの仕返しのためだよ。


 私の、せいで。


「っ!」


 気づいたら、私は角から飛び出していた。

 急に出てきた私に、全員が驚いた表情になってる。 


「っや、やめてください!」


 駄目だ、声が震えちゃう。

 情けないよね、私の今の姿って。助けたくて口を出したのに、表情が怖くってこわばってるなんて。


 でも、彼が私を前は助けてくれたの。だから今度は、私がなにかしたい。


「なんだぁ? って、テメェは前のガキじゃねぇか」

「うわ、わざわざ自分から来るなんて、バカじゃねぇの? ああ、それともやっぱり俺達と遊んでほしかったのかよ」


 ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべる二人に、足がすくみそう。近くにいる大男達のねっとりまとわりついてくるみたいな視線にさらされて、寒気もしてくる。


 でも、おびえてるなんて知られたら、きっともっとからかってくるに違いないから。

 それがバレたりしないように、私はジッと見つめ返した。


 そんな私の様子を、セオドールさんが観察するみたいに眺めてた。


「彼を、放してください……っ! か、彼は私をかばってくれただけです!」


 かすれた声で叫んで、私は彼らをにらみつけた。



 

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