番外編 3
「キュ、ァ」
かすかな鳴き声。普段は決して出さない弱弱しい声に、ぎゅっと抱きしめる。大丈夫だよとうわ言のように何度も告げる。こんなことで熱が下がるわけがない。そんなことはわかっている。薬を飲ませた方がいいに決まっている。それでも。
他人をそこまで信用することなんて僕にはできなかった。昔からそうだった。人を信じきれない僕は、だからテイカーになって魔物と心を合わせることでその差を埋めた。冒険でも常にソロ、人と接しなくていい道を選んだ。
だから、出会ったばかりの少女に、大事なテスターの命にかかわるかもしれない行為をさせるわけにはいかなかった。
「君が、ね」
「・・・?」
いつの間にかうつむいていた顔をあげる。ぼんやりとうつろに見た少女の目は黒く、青く点滅していた。その目の意味を考えるよりも早く、少女が言葉をつづけた。
「人を信じられないのはどうでもいい、の」
ただね。一拍おいて、少女は目を完全な青に染める。
雰囲気は生まれ変わるように、花が開く瞬間を見ているみたいにかわり、清浄な威圧の包容とでもいえばいいのだろうか。こわくはないけれど、ただ神々しい何かへと変化する存在感。
『自由の代名詞』と呼ばれる冒険者の僕が、膝をつかなければとその冴えない思考すら叫ぶ。重い身がそれを実行に移す前に、女の子がもう一度口が動く。そこからこぼれる言葉がなによりも尊い気がして、全ての行動は却下された。
「その考えで、唯一無二のテスターを殺すのは許せない」
自分が断罪されるその言葉すら尊いと思った。
その言葉に、ぐらりと身体が傾く。今まで意地で保っていたといってもいい体制は崩れて柔らかい布団の上へとなだれ込んだ。
あわてたように身体を支えようと伸ばしてきた少女に、必死の体で<当千>を差し出す。驚きに目を見開く少女に自分でも驚くくらいかすれた声が出た。
「薬、飲ませてあげて」
なんとか言い終わるのと同時に、意識は闇の中にのまれた。
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