6
転移陣に向かう途中、ふと咲也子がくんくんとティオヴァルトの黒い服を下からひいた。
「ここね、<虹蛇>が出るんだ、よ」
「そんなボスいたか?」
「隠し通路、に」
「そんなんあるのか」
強敵の気配とストレスの発散相手発見の予感に舌なめずりをせんばかりに空気を変えたティオヴァルトだった。
が、アーシュに突きをとされて攻略した旨を伝えると、微妙な顔つきになった。わずかに持ち上がったティオヴァルトの右手は一体何をしようとしていたのか。
「・・・大丈夫か」
「平気、よー」
行ってみたいが小さな主人を危険にさらすわけにも。もしトラウマになっていたらと戸惑っているティオヴァルトに咲也子は雰囲気を緩め、ティオヴァルトの手を取って一緒に行こうと誘った。誘われたのならと、ティオヴァルトは頷いた。
そうして2階層。あの隠し通路がある壁の前に咲也子たちは立っていた。転移陣で2階まで戻ってきたのだ。
ひんが寄りかかったところを、‘暴食‘が教えるがままに寸分の狂いもなく押す。と、やはりあの時と同じように床が一切消えて、隠し通路というか隠し穴が姿を現したのとともに。咲也子たちを飲み込んで、また元通りの床に戻った。
「早い、ね」
「そんだけ落ちるスピードが速いんだな」
「楽し、ね」
「・・・そうだな」
2回目である今回は真っ逆さまに落ちるような無様をさらすわけもなく、【アイテムボックス】の中に入っていた【空飛ぶ絨毯】に乗りながらの優雅な空中降下である。緊張感は全く感じられなかった。
ちなみに万が一壊れたらどうするのかとティオヴァルトは咲也子に尋ねたものの、なんてことはないかのように物はいつか壊れるしと返ってきた。
5分ほど落ちたとき、絨毯の隙間から‘怠惰‘で下を見下げた咲也子に黄色い瞳が見えた。ゆっくりと音もなくとぐろを巻いて獲物が落ちてくるのを待ち構えているその存在について、ティオヴァルトに伝えたところ
「行ってくる」
あっさり絨毯から身を投げた。
ぱちくりと目を瞬かせる咲也子と、一つだけ飛び出してきた獲物からまずは丸飲みにしようと口を開けた蛇がティオヴァルトの持った大剣に口端から真っ2つにされたのは暫時の差だった。
以前、咲也子を弄ぶかのように甚振っていたものと同じ存在があっさりと倒されるのを見て、咲也子は若干納得がいかないような気もしたが、とりあえずはティオヴァルトの勝利に喜んだ。
「すごい、ね!」
「不意打ちだったらやばかったけどな」
「頑張った、ね」
「・・・最初からどんな敵かはわかってたから。それに、希少種じゃねえし」
えらいねすごいねと無邪気に褒める咲也子に、照れたようにそっぽを向きながら返事をするティオヴァルトは照れているのを全く隠せていなかった。
そんなほほえましい空気にさっそく耐えきれなくなったティオヴァルトは自分のマジックバッグから解体道具を出してさっさと解体し始める。
その間咲也子は水路にひんを出して朝市で購入した毬を使って一緒に遊んでいた。むしろ、咲也子が遊んでもらっていたというべきか。
「お昼は焼、肉?」
「いいと思う」
「ふぃぃぃん!」
解体が終わり、鱗と肉がドロップしたのを遊びながら見ていた咲也子が昼食の提案をすると満場一致で可決された。内心、1番喜んでいたのは1番反応が薄いように見られたティオヴァルトだった。
こうして、咲也子の人生2度目の迷宮探索は終わった。
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