「おはようございます。昨日はありがとうございました。クッキーもマカロンもおいしかったです。ごちそうさまでした。」

「よかった、のー」

「今日は早起きなんですね」

「昨日、いっぱい寝た、のー」

「そうですか、よかったですね。・・・あら、髪がとてもお綺麗ですね」


 せっかくだから初依頼を受けてみようとやってきた2人にさっそく絡んできたのはミリーだった。

 今日は冒険者ギルドのほうの担当らしく、扉を開けると同時に窓口から笑顔のまま競歩の勢いでやってきた。

 早朝の、割の良い依頼目当ての冒険者たちはもうすっかりいなくなっていて、3つある受付口のうちの受付嬢が1人いなくなっても問題はないらしかった。


「ティオにもらった櫛のおかげな、の」

「櫛ですか? ああ、昨日の。人魚の櫛ですね。・・・短期間に2つも戦略迷宮を踏破という偉業をなし遂げてくれたおかげで、こちらは事務処理が大変でしたよ」

「人魚の櫛? 偉、業?」

「ええ、魔力の入った水を含ませると髪が潤って、清潔に保たれるというお話でした。なるほど、納得ですね。はい、迷宮は本来数日から数週間で踏破するものですからこんな短期間で何回も、というのがおかしいんですよ。あのマッチョ」

「そうな、の。納得、ティオえらいの、ねー」


 朝からのプレゼントとたっぷりの睡眠でフードをかぶっていてもわかるくらいご機嫌な咲也子に、にこにことミリーは笑っていた。

 ティオヴァルトのそでを引っ張り屈むように促すと、咲也子はティオヴァルトの頭を優しくなでた。咲也子に褒められティオヴァルトは耳を赤く染めてそっぽ向いていた。ミリーのマッチョ発言には顔をしかめていたが。


「迷宮の依頼、いいのあります、か?」

「迷宮ですか? ・・・そうですね、これなんかはさっき出されたばかりなのですが。良さそうだと思いますよ。危険も少ないですし」

「『結晶塔の迷宮の最深部で、湧き出る赤い水の採取』・・・湖、の?」

「はい。依頼者が研究者らしくて」

「遊戯迷宮か、いいんじゃねえの」


 早朝組によく取られなかったものだと感心していると、さっきギルドを通して発行されたらしかった。報酬は金貨1枚。冒険者で一か月に金貨5枚を稼げれば良い方なこのご時世で、随分気前のいい依頼だった。


「じゃ、これお願いしま、す」

「はい、お願いされました。今日も気を付けて、いってらっしゃいませ。危なかったらすぐに後ろのマッチョを盾にして逃げるんですよ?」

「誰がマッチョだ」


 ちなみにこういうのを神依頼という。それを咲也子に伝えようとしたが、そういえば本物の神様だったと思いなおして伝えるのをやめた。なにか言いかけてやめてしまったティオヴァルトに、首を傾げながらも咲也子はミリーに受領印を押してもらう。


 ミリーは相変わらずマッチョに何かしら思うところがあるようだった。心配そうな顔つきではあったが難易度の低い依頼に、手を振りながら咲也子を送り出してくれた。

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