第16話 交通事故

 4月中旬、昨日の雨で桜の花も散ってしまった。

 道は、落ちた桜の花で薄いピンク色。

 桜の時期が終わってしまうと、なぜか少し寂しく感じてしまう。


 だけとよく見ると花があった場所には青々とした葉っぱが出てきている。

 本格的に暖かくなって植物が芽吹いてくる。綺麗な花も咲いてくるだろう。

 新しい季節が始まった。

 変化があるのは木々や植物だけではない。人間もそう、入学式も終わり新学期が始まった。

 この時期はピカピカのランドセルを背負った小学一年生がよく集団で登校しているのを見かける。

 慣れない学校生活が始まって、おっかなびっくりでも友達と楽しそうに歩いているのを見ると、ほっこりする。


 私、浅上夜子も今年、高校2年生。貴重な学生生活、悔いのないように過ごしていきたいものだ。

 だけど人間いろいろ決意してみても、本質的な所はなかなか変わらない。

 例えば好きな食べ物とか、趣味とかね。


 という訳で、私は夜の散歩に出ていた。

 散歩は趣味に伴う運動のようなもの。なにせ、移動しなければ死体など見つからないから。


 夜の田舎道は暗い。街灯なんて殆どない。道を照らすものといえばお月様か、偶に道を通る車のヘッドライト位。

 だけど大丈夫、私は夜目が効くほうで多少暗くても不便なことはない。


 今日は国道沿いの道をフラフラと歩いていたんだけど、はい、もう発見してしまいました。

 でもそれを見つけた時私は、少し悲しくなってしまった。


 死んでいたのはまだ子供。


 国道の中央車線を跨ぐように横たわっている。

 倒れている付近には少量の血。

 血は、口から出ている。

 交通事故、それもひき逃げの類か。

 ぷくぷくとした子供特有の体はもう動かない。


 運転手は戻ってくる様子はない。警察とか病院にも連絡していないだろう。つまり、この子は暫くはこのまま道路で放置される。

 それは、悲しい。

 今回ばかりは私も手を出してあげるべきではないか?

 うーん、悩むな。




「お。ウリ坊じゃん」

 一緒に散歩していたアイちゃんもこの子を見つけたみたいだ。

 そうだ、今日はアイちゃんがいる。私一人では少し重いけど二人なら大丈夫だろう。

 この子を、これ以上轢かれないようにしてあげたい。

「アイちゃん、この子ちょっと道路脇にでも移動してあげようよ~」  

「はあ? いいじゃん、ほっとけば。この時期多いよね、最初はタヌキかと思ったけど」 

「カワイソウだよ。もし、このままにしてたらまた他の車に轢かれちゃうよ?」

「いいって、いいって」

 アイちゃんは右手をひらひら振って、ほっとけアピールをしてくる。


「他の車に轢かれちゃったら、この子もっとグチャグチャになっちゃうよ?」

「う。ちょっと、そういうこと言う?」

「アイちゃん、考えてみて? グチャグチャになったこの子をもっと車が轢いたりしたら。……この子グチャグチャで、ベチャベチャになるかも。そしたらこの子を轢いた車がスリップするかも。それで、その車が、対向車線にでもはみ出たら対向車と正面衝突して運転手さんはグチャグ……」

「ストップ、ストップ! やめてよ! ……ああ、わかったわよ。今のうちに脇にどけるわよ、てかアンタやっぱりあいつに似てるわ。イヤなこと想像させるなっての」

「ありがとう~アイちゃん。じゃあ私、後ろ足持つから。前足お願いね~」

 田舎で車の通行量が少ないとはいえ、国道だ。手早く済ませなければ私たちが轢かれてしまう。

 私はウリ坊の後ろ足二本、足首辺りを掴む。

「うへー。ちょっと、頭の方、血が出てるじゃあん。私も後ろが良かったわ」

「まあまあ。そう言わず」



 この子も少し前までは、お母さんの後ろをカルガモみたいに兄弟で付いて行っていたんだろう。

 春は新しい命が生まれる時期。

 でも、生まれた命はいずれ死ぬ。

 遅いか早いかだけ。

 それを忘れず、できるだけ精一杯生きていきたいな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る