【R15】人生は彼女の物語のなかに(今風タイトル:生真面目JKの魂が異世界の絶世の美人王女の肉体に?!運命の恋?逆ハーレム?それどころじゃありません!)
―38― ”まだ”穏やかな船内にて起こったある事件(20)~レイナ、そしてルーク~
―38― ”まだ”穏やかな船内にて起こったある事件(20)~レイナ、そしてルーク~
無防備で無警戒すぎる……
ディランから自分に対しての言葉。
穏やかな性質で優しい物の言い方をするディランのその言葉に、レイナの頬はカアッと熱くなり、胸が少し”ツキンと”痛んだ。
だが、レイナも理解はしていた。
ディランは自分を傷つけようと思って、今の言葉を言ったわけでは決してないだろう。実際、彼はこの場で自分に言っておくべきか、それとも言わないでおこうか、と迷っていたようであったのだから……
それでも、これからともに旅をしていく自分のことを思って言ってくれたのは、彼の優しさであるのだろう。
ディランが言葉を続ける。
「世の中は、いい人たちばかりじゃないんだし……ね。あのガイガーとちょっと話をしただけでも、あいつが”(マイルドな言い方をすると)変わった奴”なのは、君も感じ取れたとは思うし。こんな”単なる口実にしか過ぎない鍵”をスミスに渡すことを頼まれたとしても、まあ……俺たちは下のフロアで訓練をしているけど、君と同じフロアにはダニエルだって働いているんだ。誰にも言わずに、一人でこんなところに来ちゃダメだよ。自衛できるところは、ちゃんと自衛しなきゃ……」
ディランが続けて言った言葉も、やはり最もなことであった。
あの陰険な女性蔑視の船医ガイガーから鍵を渡され――いや、服の中に入れられ、”無理矢理に押し付けられた”。
ガイガーにセクハラというか強制猥褻まがいのことをされた恥ずかしさもあってか、レイナ自身は、誰にも心配をかけたくない、誰にも迷惑をかけたくない、自分が兵士スミスに鍵を渡せばそれで終わりだ――と、誰にも告げずに男の匂いの充満するこのフロアまで1人で下りてきた。
だが結局……レイナが誰にも言わずに、下の船室フロアまで下りてきたこと自体が、大きな選択ミスであり、あまりにも甘い考えであったのだ。
そして、ディランは今、はっきりと”単なる口実にしか過ぎない鍵”とも言った。
そのことよりレイナはガイガーの、そしてまだ顔もはっきりとは分からない兵士スミス――ガイガーと似たり寄ったりの女性観を持っているだろうスミスの”狙い”が分かった。
――まさか、こんな船内という限られた空間で、”そんなこと”を企む男の人がいるなんて……もし、ここで私がディランさんとトレヴァーさんに出会わなかったら……私は一体、”どうなっていたんだろう”??
レイナの背中は、氷水を流し込まれたように冷たくなっていった。
「……ほ、本当にディランさんの言う通りです。迂闊でした……ごめんなさい……」
レイナは俯いたまま、ディランに言葉を返した。
誰かの役に立ちたい、自分にも何かできることがあるのでは……なんて思い、この船に”希望の光を運ぶ者たち”とともに同船したのだが結局のところ、自分はこうしてディランにもトレヴァーにも迷惑をかけ、足を引っ張っている。
彼らとともに旅に出るなら、まず自分の身は自分で守ることを第一に考えなければ……と、レイナは唇を強く噛みしめ、決意した。
「……分かってもらえたなら、それでいいんだ」
ディランが言う。
ディランの後ろで黙って、話を聞いていたトレヴァーも頷いた。
「レイナ……俺たち、今は開いている時間だし……ディランと一緒に上まで送っていくよ」
優しいトレヴァーの声に、ディランも「そうだね」と同意した。
この場所から上の船室フロアまでは、送ってもらうほど大層な距離ではない。だが、彼らの申し出をレイナはそのまま、受けることにした。
この”マリア王女”はやはり、目立ち過ぎる。ほんの少しの距離とはいえ、ガイガーやスミスと同一の企みを引き起こす兵士にすれ違う可能性が全くないとは言い切れないのだから……
「さ、行こうか」とディランが、上へと続く階段の方向へと一歩踏み出した時――
廊下の先から、複数の兵士だと思われる声と足音が聞こえてきた。
レイナがこの船室フロアに下りてきたのは今日が初めてだったのだが、どうやらこの船室フロアにはレイナが使った階段(おそらくこの船室フロアの中央部ぐらいに設置されている?)の他にも、廊下の先にも階段があるらしかった。
「まずい。レイナ、俺たちの部屋に隠れろ……」
トレヴァーに手招きされ、レイナは慌てて、上手い具合に近くにあった彼らの部屋へと身を滑り込ませた。
「誰だか分からないけど、とりあえずあの足音が聞こえなくなったら、外へ出よう」と、ディランが呟く。
レイナが”黙って”身を潜めているこの部屋――”希望の光を運ぶ者たち”が寝泊まりをしている、この部屋もやはり男の匂いは漂っていた。
だが、この部屋の中を見渡したレイナは「?」と感じた。
ルーク、ディラン、トレヴァー、ヴィンセント、ダニエル(頭脳派のダニエルはこの船内においては事務的な役割を果たしているも、寝泊まりは肉体派の他の者たちと一緒であった)、フレディ、ピーターの7人が寝泊まりをしている部屋にしては狭すぎる。
第一、ベッドもシーツもない。ミザリーと同じく、熱にうなされて寝込んでいるはずの魔導士ピーター・ザック・マッキンタイヤーの姿もない。
シャワーの設備はないと思うが、シャワーカーテンを思わせる布が部屋の奥にかかっていた。そして、室内干しで乾かしている最中であるだろうしわしわの幾つかの服が、室内に複雑にはりめぐらされているロープにかかっていた。
もしかして――と、この”小部屋”の壁にそっと目を滑らせたレイナ。
やはり、そこには扉があった。この小部屋は単に彼らが着替えなどに利用しているだけで、彼らの寝室なるものは、あの扉を開けた先にあるのだと……
と、その時――
「ディラン? トレヴァー?」
この部屋の中からルークの声が響いてきた。
ルークが、この部屋の中にいたのだ。
レイナはルークの声を聞くのは、すごく久しぶりな気がした。”久しぶり”と言っても、実際はほんの数日ぶりではあるが……
おそらく、彼はあのシャワーカーテンもどきの大きな布の後ろにいるのだろう。
「ようやく昨日、頭に巻いていた包帯は外せたけどよ。やっぱり、訓練で動き回ると頭痛え気するぜ。しかも、さっきの訓練中、スミスの取り巻きの1人に脳天狙われそうになったしよ。まあ……間一髪、かわしたけど」
うんざりしたようなルークの声。
やはり、ルークもディランも、今は亡きティモシ―に酒瓶で殴られた頭の傷は治りかけているとはいえ、まだまだ本調子ではないのだろう。
しかも、レイナをさらに震え上がらせたのは、ルークがスミスの取り巻きの1人に訓練中(刃を光らせている剣ではなく木刀を使った訓練か?)に脳天を狙われそうになったと――
ガイガーは、”希望の光を運ぶ者たち”に表立って暴力を奮ったりする考えの足らない兵士はまずいないだろうと言っていた。
だが、訓練との名目で、彼らににきつい風当たりをする者(しかもスミスの取り巻き)がいるのだと、レイナは思わずにはいられなかった。
「まあ、俺もお前と同じく、実はまだちょっと頭痛くなる時あるんだ。でも、ガイガーのところへ行くより、トレヴァーの持っている薬の方がよく効くと思うよ」
そう言ったディランは、トレヴァーを顔を見合わせた。
トレヴァーが、布のカーテンの向こう側にいるルークに問う。
「ルーク……ヒンズリー隊長って、訓練場にまだいたか? ちょっと隊長に報告しておかなければいけないことができたんだ」
サミュエル・メイナード・ヘルキャット襲撃の夜には、全く影がなかったが、首都シャノンからともにやってきた兵士のトップであるパトリック・イアン・ヒンズリー。
30代半ばの彼は、兵士たちの統率ならび管理責任がある。もちろん、港町で合流した兵士たちも彼の管轄に含まれる。
その彼に、ディランとトレヴァーは、船医ガイガーと兵士スミスの企み(その企みは完遂されなかったため、彼らは言い逃れをするかもしれないが)を報告する義務があるのだ。
これから先の船路はまだ20日以上ある。当のディランたちも船旅における不穏な芽は摘み取っておこうと、考えているに違いなかった。
”この部屋に足を踏み入れてから、ずっと黙ったまま”のレイナは、思わずスカートの裾をギュっと掴んでいた。
「……ヒンズリー隊長なら、俺が部屋に戻る時、ヴィンセントと何か話をしてたような気ィするけどよ…………」
そういったルークがシャワーカーテンもどきの布の向こう側で、ゴソゴソと動いているのがレイナにも分かった。
そして――
「どうしたんだよ? 何かあったのか?」
問いかけとほぼ同時に、ルークはカーテンを開ける様に、布をシャッと横に引っ張った。
さらにいうなら、ルークのその動きとほぼ同時に、レイナ、ディラン、トレヴァーの瞳にルークの姿が飛び込んできた。
そう、”何も身に着けていない”ルークの姿が……
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