Episode-5.麗しき幼なじみ達

 

達也たつや!」


「達也君!」




 廊下を歩く達也の背後から響く聞き慣れた声。振り返ると十数年を共に過ごした幼馴染み、姫宮ひめみやかえで水樹みずき麗奈れなの姿があった。




「………あー、お前らか」


「なーにー、その態度。なんか最近素っ気ないなー達也君」




 達也のぶっきらぼうな態度に、楓はぷぅと頬を膨らませる。

 彼女は怒った時に頬を膨らませる癖がある、この時点で見事にさくらと被ってしまっていた。




「………色々あるんだよ、俺にも。GW《ゴールデンウィーク》が終わったらバイトもしなきゃなんねーし………はぁ………」




 達也はがっくりと項垂れる。そんな彼に合点がいかないのか、麗奈は疑問符のついた言葉を彼に発した。




「………終わったら?GWに何か予定でもあるの?」


「………野暮用だ、五日間家を開ける」




 五日間、この言葉に幼馴染み二人は落胆したような表情を浮かべた。楓の方は心なしか、涙目になっているように見える。




「そ、そっか、用事ならしょうがない、よね………」


「え、ええ、そうね。家を開けるぐらい重要な用事だものね………」




 酷い落ち込みぶりに、達也は思わずたじろいでしまう。


 決して良い顔はしないと思っていたが、まさかここまでとは思っていなかった。長年一緒だった筈のクラス割りで離れてしまったことも影響しているのか、酷い落胆ぶりを見せている。

 想定以上の反応に心を痛めながらも、納得させる為に必死で言い訳を口にする。




「し、親戚の家に行ってくるだけだ!ほ、ほら、あれだ、たまには顔を見せないと悪いと思ってだな………」




 あたふたと二人に説明を続ける達也、訥弁気味な彼であるため、言葉を探して繋ぎ合わせるだけでも精一杯だ。




「い、五日間と言っても早めに帰ってくるかもしれないし、別にもう会えなくなるってわけじゃないんだぞ!?」




 この数十秒後、二人は小刻みに震え口元を押さえ出す。とうとう泣かせてしまった、と達也が平常心を失いかけた、その時。




「………ふふっ」


「くくくっ………」




 前方から突然聞こえてきた笑い声、達也は呆然としながら声を発した二人を見捉える。そんな彼を見て我慢が効かなくなったのか、楓と麗奈はそれぞれ思い思いに笑い始めた。


 暫くの間立ち尽くしていた達也は、彼女達の行動の真意を察し、不機嫌そうにしかめっ面を浮かべる。




「お前ら………芝居打ちやがったな」


「あははっ、ご、ごめん達也君、ついからかってみたくなっちゃって………」


「あの焦り具合、堪えた甲斐があったわ………ぷっ………」




 二人は達也に言い訳を述べる。が、笑いの余韻が抜けぬまま話している限り、彼からは納得は得られないだろう。


 完全に堪忍袋の緒が切れた彼は、くるりと踵を返し下駄箱へと走っていった。




「………帰る!お前ら付いてくんなよ!」


「ちょ、ちょっと待ってよ達也君!ごめんってばぁ!!」


「少しやり過ぎたわ!謝るから待って!!」


「付いてくんなっつの!」




 こうして、『走って逃げる少年と、それを必死で追いかける少女二人』、という何ともシュールな光景が、校外に出るその時まで繰り広げられたのだった。




 ーーーーーーーーーーーー





「………何で付いてきた、付いてくるなって言った筈だが」


「はぁ………はぁ………ただ、さっきの事を謝りたかっただけよ………」


「………そ、それに、GWってことは、明日から家開けちゃうんでしょ?だから一緒に帰ろうと思ったのに、達也君逃げちゃうから………ふぅ………」




 幼馴染み二人は息を切らしながらも反論する。一方達也は、暫く苦しそうな二人を見詰めた後、全く荒くならない自身の呼吸の代わりに溜め池を一つ漏らした。




「………分かった分かった、呼吸が整ったらお前らの謝罪を聞いてやる。歩きながら整えろ」




 ぶっきらぼうに言いつつも、さりげなく一緒の帰宅を許可する達也。楓と麗奈はそんな彼の不器用さに呆れつつも、嬉しさに顔を綻ばせた。


 強情な達也の照れ隠し、それこそ長年ずっと一緒にいた彼女達だからこそ、彼の思いを理解してやれたのだろう。




「ふふっ、本当に達也君は素直じゃないんだから」


「それが達也でしょう、素直な達也なんて面白くないじゃない」


「………やっぱ一人で帰っとけば良かった………」




 倦怠感を盛大に滲ませた達也の呟きが、楓と麗奈の笑いのツボを押したのか、二人は先程のよりも大きな声で笑い始めた。


 笑うところじゃない、と目尻を吊り上げて怒る達也。そんな彼などお構いなしに、彼女達は涙を浮かべながら笑い続ける。





 そこには先程のシュールな光景は無く、少年少女が楽しそうに歩く学生特有の青春に満ち溢れた光景が広がっていた。


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