望まない神様6

 アンドレアフが自社へ戻ると言って家を出てからしばらく経ち、オットーが外を見ると、陽が大分傾き始めていた。


「アンジェラ、そろそろ帰らないと」


 霧が出てきては帰りづらくなる。それどころか場合によっては本当に無事帰られるか怪しくなる。あの霧の深さと夜の暗さの中を歩くのは実に無謀なのだ。いくら慣れた道を歩こうと目隠ししていては歩行もままならないのと同じだ。

 アンジェラは外と、その外をずっと見続けているハンスを交互に見遣ってから「いいえ」と返事をした。オットーは軽く驚く。


「そういう気がしたけど、ここは帰らないと君のご両親が心配するだろう」

「けど、ハンスをこのままにしておけない」


 アンジェラは純粋な少女だ。およそモノを疑うとか誰かを忌み嫌うといった負の感情からは遠い場所で生きている──とはいえまさか本当にマイナス面が無いとはオットーも思ってはいない──そんな彼女が好きな少年がこんな状態なのだ。とてもじゃないが放ってはおけないのだろう。オットー自身だってこのまま放置しておくのは多少心苦しいものがある。


「しかし」


 このままここに居るわけにはいかないだろう。両親にはなんて説明するつもりなんだ。一端家に戻り、明日学校が終わってからまた来るべきだと説明する。しかしアンジェラは横へ首を振っただけだった。


「お父様とお母様には友達の家で勉強会を開くことにしたといって連絡を入れるわ。──リカちゃん、ここには電話機があったよね」


 どんなに離れていても音声が届く電話機も、まだ一般家庭にはあまり広まっていない。ある程度の階級や、仕事上設置せざるをえない会社などには置いてあるし、アンジェラとオットーの家にも電話機はあった。ハンスの家は見た目大して裕福とはいえないが、ハンスの部屋へ来る際、電話機が玄関先に設置してあったのをアンジェラは覚えていた。


「使っても良い?」

「泊まるの?」


 無邪気に聞き返えしてくる。アンジェラはにこりと笑って「そうよ」と応えた。するとリカの顔が明るく輝いた。


「アンジェラ……」

「オットー、ありがとう。でも大丈夫よ。きっとお父様とお母様は理解してくれるから」


 笑顔のまま、アンジェラはそう言った。

 オットーはしばし無言のまま黙考し、そうしてから諦めたように頭を振った。


「まぁ、アンジェラの問題だ、俺は何も出来ない……けど、看病するのはいいけどきちんと睡眠はとれよ。そうしないとハンスも浮かばれないぜ」

「もう」


 アンジェラは少しだけ拗ねたように、


「ハンスは死んでないわ」

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