♯1
ある人いわく、若者が抱く〈夢〉なるものには二種類あるのだそうだ。
一つは恋愛方面の〈夢〉。
彼氏彼女が欲しい、両想いになりたい。運命の恋人、生涯の伴侶となる人と出会いたい云々とかいうアレだ。
ふうふむ。
で、もう一つの〈夢〉はというと、それは職業方面の〈夢〉なのだそうな。
将来はパイロットになりたい。
女優になりたい。
プロスポーツ選手になりたい。
公務員になって堅実に暮らしたい。
……ラノベ作家になって印税暮らししたい!!!
――等々といったアレだ。
なるほど、確かに言えているかもしれない。私らが常日頃から抱いている〈夢〉なんてものは、大体この二つに集約できそうな気がする。
問題はだ……残念ながらこの二種類の〈夢〉なるものが、両方とも、この私めにはまったくもって叶えられそうな気配が無いっ! ってことだ。
この世に生まれ出でてもうすぐ十八年、私は恋愛どころか、初恋すらもロクに経験したことが無かった。
いや、これは初恋かも……と思い込んでいた経験ならば無くはない……のだけれど、その思い出は今や黒歴史フォルダに封印され、ノーカウントということにされている。
だから正直、恋愛方面はしばらくどうでもいい……。
断わっておくけれど、別に私がまったくモテないからってことは無い……はず……だと思う。
片手で数えられる程度にゃラブレターをもらった事もあるし、見た目だって伸長は高からず低からず、どっちかというと痩せ形な割に、おっぱいも下方視界を妨げない程度にはあるし、肌艶だって色白で綺麗に整ってるし、多少目つきが鋭いとか、黙ってれば良いのに、喋ると男のロマンチズムをぶち壊すとか、色々言われたりするけれどもさ!
まぁ、私の外見的特質はさておき、のこる職業方面の〈夢〉に関しても、これといって将来なりたいような職業は無かった。
何故かは分からない。ただピンと来るものが無かったのだ、この十八年の間。
まぁ恋愛方面の〈夢〉は若さを頼りに先送りにするとして、問題は職業方面の夢だ。
今や高校三年生……私は否応も無く、将来、自分が何者になるかについて向き合わなくてはならなくなっていた。
こと学業に関しては、これまでに無駄に良い成績を残してきたのだが、これがまったくといって言いほどに、どの科目も平均的に良い成績なのだ。せめてどれかに秀でていてくれてなら、将来就く職業を選ぶヒントになったのかもしれないのだが……。
私は自分が何になりたいのか、何に向いているのか、皆目見当がついていなかった。
もちろん進学という選択肢もあるにはある。が、21世紀も終わろうかという今のご時世では、高校が大学の役割の大半を担うようなり、大学への進学はあまり一般的ではない。
私の家庭環境の点からも、進学では無く、何がしかの職業に就かざる負えないようだ。
……というわけで、私は早急に、自分という人間が就くに相応しい職業を探さなくてはならなかった……のだが、高校生活最後の夏休み、私は目の前の問題から全力で逃避した。
そして……
そもそものきっかけは、高校生活最後の夏休みになっても、未だ卒業後の進路を決めない私を、とある中小企業の社長令嬢たる私の友人の一人が、気の早い卒業旅行の予行演習という謎の名目で、ちょっとしたバケーションに誘ってくれたことだった。
日本から飛行機と海上トラムで約7時間、オーストラリアまで行くのととほぼ同じ距離、ハワイよりもやや遠い位置にある太平洋上のど真ん中に浮かぶギガフロート、巨大人工海上都市【ザ・パシフィカ】、そこがその旅行の目的地であった。
私は目前の悩み事を全て先送りにして、その少々早めの卒業旅行の誘いに飛び付いた。
目的地のその巨大人工島は、今から約三十年前、ある建造物を繋留する為の土台として作りだされたものだった。
それは天候と視力さえ良ければ、理屈の上では太平洋が見渡せる海岸からなら、どこからでも見える天空へと延びる白い一本の糸だ。それは夜になると、表面に据え付けられた無数の航空障害灯によって赤い糸へと変わる。
それは【ザ・パシフィカ】へと向かう飛行機や高速フェリー、
「うはぁ~……」
それを見上げる度に、もう軽く三ケタは同じリアクションを繰り返しているはずなのだが、それでもついつい漏れ出る感嘆の声を、私は抑えられなかった。
私を誘ってくれた悪友のケイ、一緒に誘われた幼なじみのシズも同じだ。終いには三人とも首が痛くなってきたほどだ。
細い細い糸のようだったその白い線は、近づくにつれ、その太さを増していき、ようやく【パシフィカ】に到着した私の眼前には、赤道直下の強烈な日差しに照らされて白く輝く視界一杯の巨大な柱となってそびえ立っていた。
一番細い部分でさえ直径二百メートル、根元の太さは見える部分だけで三キロもあるらしい。そして高さは……それはもう高過ぎて視界の彼方で針のように細くなって天空へと溶けこむように消えていた……この柱の高さは地上5万キロもあるのだそうだ。
これは地上3万5千800キロの彼方にある静止衛星軌道、さらにその上5万キロの高軌道ステーションへと人や物を運ぶ為に建設された、巨大な昇降移送装置――いわゆる軌道エレベーターなのだ。
私達は、単なる観光目的で、この巨大海上都市に来たのではなかった。
投げたボールは地べたに落ちる……当たり前のことだよね。
このボールを水平に加速して投げて見る……ずっと遠くに落ちる。
さらにうーんと加速してボールを投げていくと、あるスピードに達した時、ボールは地球の丸みにそってずっと落っこち続けることになる。
これがいわゆる人工衛星だ。
ただこのスピードを成し遂げるには、大気の抵抗が邪魔なので、うんと高~いところまで放り投げてやらねばならい。
故に、昔の人々はとんでもない破壊力を秘めた燃料をド派手に燃やして、その勢いでロケットを遠く高くに打ち上げ、宇宙にまで人やら物を運んできたわけだ。
そして、そうやって打ちあげたこの人工衛星を、地球赤道上にて西から東へ向かって、うーんとさらにもっともっと高いところまで放り投げてやると、その高度が地上から3万5千800キロまで達した時、その人工衛星は地球の自転と同じスピードで回ることになる。
それが静止衛星軌道だ。
そしてそこに持っていった人工衛星を、地上に向けてちょっとずつ伸ばしてみる。
ただ地球にだけ向けて伸ばすと、重心が下がって地上に落っこちてしまう為、静止軌道の上に向かっても伸ばしていかねばならない。
静止衛星軌道は地上から見て静止しているので、地上にたどりついたその人工衛星の下端は、そのまま地上に固定してしまうことが出来る。
あとはその上下に恐ろしく長い人工衛星を伝って、人やら荷物やらを上げ下げさせれば、打ち上げの度にべらぼうな予算と危険が伴うロケット類とは桁違いの、超低コストで安全な宇宙を行き来する恒常的宇宙往還施設――軌道エレベーターの完成だ。
地上から天空に向かって築き上げたんじゃない。
天空から地上に向かって垂らしたのだ。
私はこの、地上から見た巨大な柱の、見た目とは裏腹な部分が結構気に入っていた。
そして、この時代の大勢の人間と同じように私もまた、少しばかり誇らしく、そして感謝していた……自分が軌道エレベーターが存在する時代に生まれたことに。
別に自分達が旅行で来ることになったから、慌てて旅行ガイドを読み込んで勉強したわけじゃないんだからねっ。
今から三十年ほど前、時に二十一世紀の半ば、人類は色々と行き詰っていたのだそうな。
資本主義的経済発展は限界に達し、国家間の関係は冷え切り、出生率は世界的に低下し、異常気象は続き、資源は枯渇し、人類全体の文明的な勢いというものが衰えてきていたらしい。
現人類の文明的エントロピーの増大が、限界に達しかけているのだと言う人もいた。
このまま人類は緩やかに衰退していくのではないか?
そう危惧されていた中、ほぼ同時期に世界中の様々な思想や立場、夢を持つ人々が、様々な利害や、数機な運命の交錯の果てに結集、この状況を打開する為のある一代プロジェクトを立ち上げたのだ。
CNM精製技術の確立により、技術面ではとっくの昔に可能とされていた、軌道エレベーターの建設だ。
なぜ他でもない軌道エレベーターなんて作ろうと思ったのかと言えば――ついに起きてしまったケスラー・シンドロームにより冷え切っていた宇宙開発を、再び活性化させることが、この行き詰った人類の未来を切り開く唯一の術だと考えていたから……らしい。
ある人曰く、人が生物としての生存権の拡大の為のフロンティアを必要としていたからだ……とも言っていた。
少なくとも今まで容易く行けなかったところに、何倍、何百倍も簡単に行けるようになる……それだけでもこのエレベーターには、充分な価値があるはずだと考えられた。
その人らは、きっと人間という生き物の可能性を信じていた……信じたかった人達なのだろうと私は思う。
ケスラー・シンドロームにより、地球軌道上の人工衛星事情が、一度リセットされたからという理由もある。
様々な技術的トラブル、色々な思想と事情を持つ人達の妨害、国際的、経済的、自然災害等々の苦難を乗り越え、着工から約十年で第一世代型軌道エレベーターは見事完成した。
完成したといっても、その直後はエレベーターというよりも、静止軌道から垂らされた文字通りのただの糸に近い代物だったそうだけど……。
それから二十年、エレベーターは様々なトラブルに見舞われながらも、多くの人々に利用されながら改装を続け、目の前にそびえる巨大な白い柱状の第二世代型・軌道エレベーター【パシフィカ
因みにこの軌道エレベーターが【パシフィカOEV】という名前に決まるまでに、〈ユグドラシル〉やら〈バベル〉やら〈天橋立〉やら〈カリン〉やら様々な命名案があったが、全人類共通の資産たるこの建造物に、特定の国家、宗教、思想等々を匂わせてはならないという理由から、この味も素っ気もない名称に決まったのだという。
この巨大な柱の中には、内壁に6本、中心部に高軌道行き用に1本のテザーケーブルが張られ、それを伝って縦にした太めの列車のようなゴンドラが上下し、途中で地上420キロの低軌道ステーションを経由しつつ、地上3万5千8000キロの静止衛星軌道ステーションとその上、地上5万キロの高軌道ステーションまで人や物を運んでいる。
人々は、この柱が薄く白い素材で出来ており、時々透けて見えることから、この軌道エレベーターには〈白いストッキング〉というあだ名を付けていた。
ここ太平洋の赤道直下にあるギガ・フロート【パシフィカ・アイランド】は、この軌道エレベーター【パシフィカOEV】を地上に繋ぎとめるために作られた島だ。
30年の間に増改築を繰り返し、OEV関連施設以外にも、各種学校施設、工場、市場、各種レジャーランドに農場牧場養殖場、病院に港湾施設等々が建てられ、今や最大長10キロにもなる超巨大人工海上都市となっている。
私達は【パシフィカ・アイランド】到着後、島の散策やら観光には目もくれず、たっぷり一日かけて、対テロ審査、健康診断、初歩的な宇宙滞在の訓練をし、翌早朝、いよいよ軌道エレベーターの旅客ゴンドラへと乗り込んだ。
最終目的地は地上3万5千800キロにある静止衛星軌道ステーション!
ここまで来ておいて、この柱をただ地上から眺めただけで、日本にさあ帰るだなんて出来るわけが無かった。
私達一介の女子高生ごときが宇宙に行くことに、どんな意味があるのかと問われたならば、せいぜい〈思い出作り〉としか答えられない。
……けれど、この思い出には何物にも代えがたい価値があるのだ! と、私達は信じていた。……というか、この機会を逃す奴がいたらバカだっての! ……と。
誰の為でも何かの為でも無く、思い出の為に、私達は地上から昇り始めた。
まるで切る前のバームクーヘン、さもなくばブッといチクワ、じゃなきゃ百年の歴史をもつ美味い棒状の駄菓子をでっかくしたような外観。
中身は旅客機と列車のグリーン車を足したような軌道エレベーターのゴンドラに乗り、僅か1時間半、リニアの滑らかな減速によるマイナスGと共に、私達はあれよあれよと言う間に、まずは地上420キロの低軌道ステーションへと到着した。
軌道エレベーターは、必ずここで一時停車する。
これは乗客の体調不良や機械トラブルによって引き返すチャンスを確保しておく為だ。なにせここから3万5千380キロ先――地球直径の約三倍の距離まで、止まる駅は無いのだ。
高度420キロと言えば、人工衛星が周回している高度だ。だが、重力は微かに弱くはなりはしたものの、私達の身体を宇宙ステーションの床へと吸いつけていた。
ここは確かに世間一般で言うところの宇宙空間ではあったが、地上に対して静止しているため、地上と大して重力が変わらないのだ。
重力が完全に無くなるのは、遥か上、地球の自転の遠心力と重力が丁度釣り合った高度3万5千800キロの静止衛星軌道ステーションなのだ。
ちなみにその上の高軌道ステーションへは、重力に勝った自転の遠心力で落ちるようにして行くことが出来るという。
私らがこの軌道エレベーターツアーに参加出来たのは、我が悪友のケイの父が社長を務める会社が、開発中の新型宇宙服のモニターを募集していたからだ。
いかに社長令嬢のコネクションがあったからといって、ただの女子高生がほいほいと遊び目的で軌道エレベーターに乗れるわけが無い。
その新開発の宇宙服というのが、これから増え続けるであろう、ただの民間人の宇宙旅行者が簡単に使えることを目指して開発されたものだった為、私達がケイのコネにより素人代表としてモニターに呼ばれたわけだ。
だが、ミス素人ズである私達が、いきなり0Gの中で宇宙服のテストなんてちと無茶だ。
というわけで、まずはちゃんと段階を踏んで、一端ここ低軌道ステーションの重力下で宇宙服を着て、軽くテストを済ませようという事になったのだった。
感覚的には超高層ビルの屋上に立っているような気分だろうか、下ろしたての宇宙服に身を包んだ私達は、低軌道ステーションの底、地球側部分にある下部展望エリアに出た。
――この一歩は一人の女子高生にとっては小さな一歩だが……人類にとっては――
…………うん、特に大したことの無いごく普通の一歩だったわ。
この場所はそうあるべき為に設けられた場所であり、主に富裕層であるとはいえ、すでに千人単位の人が観光目的に訪れているわけで、今さらそのカウントが三人増えたくらいで、人類の歴史に当たらな1ページが加わることはないだろう。
実際、肉体的にも多少軽めの重力中ではあったこと以外は、ごく普通の一歩だったよ。
だけどだけど私達三人にとっては、人生に一度あるかないかという一大イベントだ。
故に、0Gでは無いとはいえ、人生初の宇宙へと一歩に、私らは女子高生らしくはしゃぎまくった。
宇宙服開発チームのスタッフの方々に従ってテストをこなしつつ、無闇やたらと写真を撮りまくった。
今にして思えば、みっともなく、ガキっぽく迷惑な振る舞いだったかもしれない。
ミス素人ズ代表とはいえ、この軌道エレベーターに昇り、宇宙服を安全に使用する為に、結構な勉強と訓練をこなしてきた事からの開放感もあったかもしれない。
低軌道ステーションの底に、コーヒ―カップの皿みたいにくっ付いているこの場所は、間違い無く屋外の宇宙空間でありながら、確固たる重力が存在し、観光客として来た人間が安全に宇宙気分を満喫する為に設けられたエリアだ。
そこからは澄んだ宇宙と、地球の丸さを一望出来た。人生観が変わるというあの光景だ。
こればかりは、いかに言葉を尽くせども直接自分の目で見てもらうしか伝える術はない。
高度420キロ、ほぼ東京~大阪間と同じ距離から見下ろした地上に見えるのは、ほぼ海ばかりだったし、宇宙を見上げようとしても、太陽風や宇宙放射線から人体を守る為に低軌道ステーションの本体が覆っていて、ロクに星空も見えやしなかったのだけれど……でも、この場所でなければ見る事の出来ない景色が、確かに眼下には広がっていた。
眼下の視界の左、西の方角に、ゆっくりと、だが目で見てはっきりと分かるスピードで西へ西へと移動する夜明けの境界を見ることができた。
私達は今、地球上の誰よりも早く朝を迎え、誰よりも遅く夜を迎える場所にいるんだと、ふと気づいた。
途切れることなく一つ環となって私達を囲む水平線には、目を凝らせば、大気の層が巨大なシャボン玉の縁の様に薄く薄く見えた。
この地球上で、私達生物の住むエリアの、なんと薄っぺらいことだろう……。
私は一緒に来た三人の中でも、特にこの光景に心惹かれて仕方無かったらしい。こんな私にも宇宙へのフロンティア・スピリッツ的な感情があったということだろうか。
宇宙服の一応のテストが済み、他の二人が気が済んで低軌道ステーション屋内に戻った後も、ほんの少しだけ、この地上420キロからの景色の全てを心に焼き付けておこうと、私はその場に残っていた。
それが運命の分かれ道だった。
さて、私も屋内に戻ろうかと振り返った瞬間、それは起きた。
……いや、何が起きたのかは、その時の私にはさっぱり分からなかったのだけれど……。
ともかくこうして私は――「なんてこった!」ループへと突入したのである。
私、何かドジっちゃったの!? ようやく思い至ったのはそんな事ぐらいだった。
なにしろこのエレベーターは操業して二十年も経っているのだからして、私たちは全幅の信頼を置いていた。
ぶっちゃけ、それはもう超大げさな遊園地のアトラクション位の感覚であった。
確かに人類史上初の軌道エレベーターということもあり、数多のトラブル、事故が過去にはあったけれど、少なくともここ数年は無かったし、それになんといっても、宇宙へ行けるということに何物にも変えがたい魅力があったのだ。
……が、宇宙に行くというのは、やはりそんなお気楽な所業では無いらしい。
私に出来ることは何もなかった。
突然、それまで立っていた展望エリアの床が崩落したかと思うと、ヘルメットにガ~ンと恐ろしい程の衝撃を受け、私は一時、気を失っていたらしい。気が付くと重力に惹かれるまま下へ下へと、地上へ向かってただひたすらに、私は落下し続けていた。
一体なにが!? ひょっとしてひょっとすると、これが宇宙で最も恐れられるという例のスペース・デブリの衝突ってヤツか!?
真相を知る術などあるはずも無く、また真相がどうあれ自分にできることなど無かった。
ただ落ち続けて……落ち続けた。
ドッキリでも夢や幻でもない……ベッドから落っこちて『なんだ夢か……ふぅ』となる気配は一向に無かった。
――ああ、これは死ぬわ。完全に死ぬパターンやわ……どうやら私はここで死ぬらしい。
そんな現実が、なんの実感も感じられぬまま、じわじわと突きつけられる。
まだ十八なのに、職業方面も恋愛方面の夢も叶えていないどころか見つけてもないのに!
信じられなかった。でも同じくらい、助からない、助かるわけ無いと悟ってしまった。
このシュチュエーションから助かる術が、もしもあるとしたら……。
古の時代より受け継ぎし呪われた血脈により、突如、異能の力が隔世的に発現し、
……だとか、突然、人類の覚醒を即すべく、外宇宙より来訪せし地球外知生体によって、
……だとか、過去の過ちを正すべく、遠未来からやって来た時空旅行者の超絶化学力により、
などと言う現実逃避的な想像しかできなかった。
だから私は、盛大にパニクり、泣き喚くことを自分に許そうと思った。
――――と、その時、
『――あ~――るさい! やかま――ってば! いい加減に静――ろぃ!』
空耳か、誰かに怒鳴られたような気がした。
『――から、静かに―――くれ、今そっ――っているんだ――、もう!!』
ノイズが多くて良く聞き取れない。が、その声は確かに聞こえる。
ヘルメットから響く無線通信機の声だ。宇宙服を着て外に出たなら、無線は基本付けっぱなしなのだった。
……というか、それまで自分に許すまでも無く、私がこれ以上と無いくらい無様に、赤子のごとく大声で泣き喚きまくっていたらしい。お陰で呼びかけてきた声に今まで気づかなかったのだ。自分で思ってる程、私は冷静では無かったらしい。
「あ……、えぇ? な、なにぃ? だれぇ? どちらさまぁ?」
『お、よ~し、やっ――たか。どうやら生きてたみ―――――ヴァリス隊の――ルラ。ゼルラ・イキュイナーだ。今そっちに向かってるから、そのま――線は繋げ―――』
半ベソで訊き返す私に、ヘルメットの無線から聞こえるその声は、私の心中などお構い無しに、迷子になった子を相手にしているかのような口調でそう言って来た。
「は、はいぃ? む、向かうぅ? あの……向かうって何しに?」
『何言って―――、助けに行くのに決ま――るじゃないか』
しゃくりあげながら問う私に、その声はあっさりとそう答えた。
「助けに………来て……くれるのぉ?」
『その通りだ!』
いつしか無線のノイズは晴れ、その声が明瞭に聞こえてくる。それはつまり、その声の主が私に近づいて来てくれているということなのか!?
「ほ、ホントにぃ?」
私は問い返さずにはいられなかった。だってだって、どうやって助けるつもりなのさ? と。
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