第四十三首 東風止みて 大地鳴動 鎮まりて 東の尾根に 静けさ戻る  

 [キュアアアアアッ!]


  グワッ! ガキィッ!


 スッ、パシャンッ! チャッ、ズパアッ!


 [キュアオオオオオッ!]


 まるでナイフが整然と並んでいるようなモドキの顎を、頭を逸らすことでスッと躱した八雲和歌やくものわかちゃん。

 和歌ちゃんの頭を噛み砕くはずだった顎が虚しく閉じられて、噛み合わされた牙の閉じた音のみが響きました。

 和歌ちゃんは、その態勢から後方一回転捻りで後退。

 長巻の刀身を逆流れに閃かせ、モドキの顎下をパックリと切り裂いていきます。

 後退とカウンターを同時に実現させる動作は、まるで半神半人の英雄か、悪鬼羅刹を切り伏せる神将のようでした。


 クルンッ、パシャッ! チャッ!


 そして見事な着地を果たし、空中で血と油を振って払った長巻を、再び構え直します。 


 [やだ………この長巻を持っていると、モドキの攻撃にどう反撃すれば良いか頭に流れ込んできますの]


 自分の動きの凄まじさに、ちょっと困惑気味の和歌ちゃんの声が聞こえてきました。

 私こと草壁水脈も、これはかなりの驚きでした。

 和歌ちゃんの動きは剣鬼をも超えて、おとぎ話の領域に突入していたと思います。

 

 どうやら、あの長巻の百人切り伝説は本当のようです。コワイ!


 [まったく負ける気がしませんの。それに…]


 [八艘飛びラピットラビットキィイ―――ク!]


 パシャン!


 ドンッ! ズドドーン! タッ! ドンッ! ズドドーン! タッ!ドンッ……


 …チョロチョロチョロ…ゴバァッ! バシャアアアアアアアアアアアアアッ……


 和歌ちゃんとモドキが殺し合う外周部。そこでは唄ちゃんが、湧き水を塞き止める堤を連続キックで破壊していきます。

 これでモドキは激流攻撃に必要な水量を集められません。特殊攻撃は完全に封じました。

 もはやモドキに肉弾戦以外の対抗手段はありません。


 […これで詰み…参りますの!]


 チャッ! グッ! パシャッ、パシャパシャッ!


 和歌ちゃんが、達人を超えた動作で多くのことを一瞬でやってのけました。腰と両足には力を溜め、代わりに上半身の力を抜きます。長巻を持つ両腕も、力を抜いてあくまで軽やかに。

 そうして後、ぬかるんだ泥沼の底を蹴り、和歌ちゃんが鋭く打ち込みます。


 [キュアアアアアアアアア―――ッ!]


 それを、咆哮するモドキが受けて立ちました……… 

 

 


………その後の展開は、もはや正確に語る必要もないものでした。


 実際、勝負の行方は見えていた通り、お見方の大勝利でした。


 百人切りの長巻を持って強化された和歌ちゃんと、弱体化して水上での接近戦以外できなくなっていたモドキでは、前提が違い過ぎるのです。

 それに、和歌ちゃんには唄ちゃんという強い味方がいました。


 一方的な戦いでした。


 多様な攻撃法を封じられたソロのモドキは、和歌ちゃんに頭部と頸をズタズタに切り裂かれて疲弊していきます。

 無論、反撃はすべて躱されました。 

 血の海で踠くモドキが隙だらけになったところを、唄ちゃんのラピットラビットキックが無慈悲に胴体を狙います。

 その狙いすました必殺キックを受けて、強敵であったスズキリュウモドキは消滅したのでした。



 その後。


 [こちら唄。水脈さん、ここの奥ですね?]


 [そうです。その中洲の中央付近に鬼神塚の反応があります。破壊してください]


 [私は強燃焼夷弾を使用します]


 ジャキッ!


 [私は、この長巻と霊力を併用して、抜刀霊撃波を使ってみますの]


 チャッ!


 [! その長巻、そんなことも可能なの?]


 [この長巻、私と相性が悪くないようですの。やり方が頭に流れ込んできますの]


 [まあ………それは興味深いですね。和歌ちゃん、後で一緒に研究してもよいでしょうか?]


 [ええ、もちろんですの。本来の持ち主の方が納得すれば…の話ですが]


 [それは楽しみです]


 […それじゃ、先に撃つね]


 [ちょっと話が逸れたようですの。続きます]


 [あら、脱線してしまいすいません。やってください唄ちゃん]


 [了解]


 唱さんが、ビーバーの巣のような中洲ににゃんコード・ライフルのを準を付け、引金を引きました。


 ダンッ! パアッ! ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!


 [そこですの!]


 続いて、鬼神塚に集まった霊力の中心点に向けて、和歌ちゃんが長巻を振います。


 シュザッ! シュドォオオオ――――ンンン!


 カァッ! バシュゥゥゥ――――――――ゥゥゥン!


 パアアアアアアアアアアア………………………………


 こうして鬼神塚が破壊され、そこに祀られていた…いえ、捕らわれていた霊魂と龍脈地脈の力が開放され、空へと放出されていきました。


 …ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………パアアアアアアア………


 ほぼ同時刻。山向うの渓谷からも地響きと共に龍脈地脈の力が空へと開放されたことが目視できました。

 

 […向こうも終わったようですね…疲れましたの]



 […それは同感…]


 […お二人とも御苦労様です。直近のデータを回収したら任務終了です。それまでもう少しですので油断なくお待ちください]


 [頼みますの…水脈さん]


 [頼みます]


 [気象、地表、水質、龍脈、地脈データ良し。ジャケットデータ、お二人の身体データ、敵神霊データ…良し………終了です]


 [はあ。これで帰れますの。米川さんたちと合流しましょう]


 [任務は帰還するまでが任務。この唄、それまで気は抜かない]


 [はいはい…唄ちゃんは元気ですのね…私はこの長巻を振り回したので疲れましたの]


 シュンッ、ビュッ! スッ…チン!


 和歌ちゃんは、唄ちゃんから貰った木葉数枚で長巻の血と油を拭き取ると、一振りて残りを散らすと、鞘に納めました。


 ピピピ…ピピピ…ピピ…


 [こちらてるだ。渓谷の地下の鬼神塚破壊は成功だ。そちらの鬼神塚破壊も確認した。二人とも息災か?]


 [総領さま、こちらは問題ないですの]


 [すごいよぉ、このジャケット。ファンネル的なドロイドの操作も問題なかったよぉ。我が世の春が来た!]


 [唄よ。何の真似をしているか解らんが正確に報告しろ]


 [了解。ジャケットの生命維持機能は相変わらず良好。これがなければ敵が放つ冷気攻撃にやられて、二人とも死亡していたと判断します]


 [そうか。二人とも任務御苦労であった。流石は13人衆である]


 [それでは総領さま、お二人とも。米川さんたちと合流して帰還してください。ドロイドを残してのデータ収集は、私が担当しますので]


 [うむ、頼むぞ水脈。お前も御苦労だった。後を頼む。今、米川たちを呼ぶ]


 [ふう…カラスは啼いていませんけど帰りますの]


 [カァカァ]


 [唄は啼かんでよい。せめてジャケットに合わせて兎の鳴き声にして…いや、やめろ]


 [フンフン、プゥプゥ、クゥクゥ]


 […はは…唄ちゃんは元気ですのね]


 [ふざけていないで二人とも私の指示にも従ってくれ。直に他の地域に向かった仲間からも連絡が入る。もう式神航空隊は別の場所に合力に向かったぞ]


 [あら、私たちもどこか援軍に入った方が良いですの?]


 [いや。それぞれ順調なようだ。それはやらんでよろしい。問題は…]


 [問題は?]


 [地脈龍脈の流れを元に戻しても、拡がる病の抑え込みができない場合だ。先の折り媛の情報にあったサキガケの件が真実であった場合、敵の力の源は他にも存在した。そう言うことになる]


 [囮…いえ、始めから強力な術を行使するための力の源を、複数用意していた?]


 [ああ。もしかすると病を広める作戦事態、何か大きな計画の一部に過ぎないということだ]


 [我々は、後手に回って敵の良いように踊らされていますの?]


 戦略的に負けているパターン? 


 [でも、それを判断するために必要なことはやり遂げた。一歩前進]


 [それは…唄の言う通りだな。そう言ってくれると救われるよ…]


 [後は、敵の思惑に追い付いて、その計画を潰す。そこまでが勝負な気がする]


 [唄ちゃん、メンタル強いです]


 […そうだな…そうしなければな…それはそれとして、今はまず二人とも戻ってこい。その頃には、すみれの奴も起きてくる]


 [敵が様々な手段を用意しているなら、我々は人海戦術で、それを一つゞ潰していくしかあるまい]


 [そうですの。総領さま、情報収集と次の作戦の準備をお願いしますの]


 [私も、微力ながらお手伝いします]


 [すまんな水脈。さあ二人とも米川杉森と合流して、四人で元気に帰ってこい!]


 [はいですの!]


 [了解!]


 そんな話を終えた後、EX13人衆の中核である、八雲、八重垣、米川、杉森の四人は帰還し、任務を完了したのです。


 ですが、やはり四人の働きは、徒労とまでは言えませんが、それに近いものだったのです。

 敵の狡猾さは尋常のものではなく、我々はさらなる厳しい戦いに晒されることに

なるのでした。 

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