第四十二首 匠等の 工夫と努力 重なりて 八島穣に 稔り結ばん
[おおおおおおおおお!]
ドガァッ!
[どうだあっ!]
壊しても壊しても再生する形象埴輪に対して、杉森は怯むことなくキャベツ玉の巨体で挑みかかる。
今回の突撃も見事に成功。
必殺のポワロホーンチャージで再び形象埴輪の右半身を打ち砕いた。ぽっかりと開いた穴から、剥き出しになった骨格と背後の様子が見て取れた。
だが、しかしである。
この攻撃もまた、形象埴輪の致命傷には至らなかった。
またしても砂のリングに落下した破片と、配下である円筒埴輪が傷口に集まり、ゴワゴワゴワゴワッと再融合して穴を塞いでしまう。
必殺技無効化の完全回復!
そして、完全回復した巨大形象埴輪が、疲弊したキャベツ玉に再び襲い掛かるというパターンが完成されていた。
いくら友情の糖度パワーで強化されたキャベツ玉といえど、この繰り返されるパターンに対処が追い付かず、更なる疲弊を余儀なくされていた。
[諦めるな杉森ぃ! 俺の光の力さ受け取るだよ!]
そんなキャベツ玉を支えようと、声援と共に自ら生み出した光を送る米川。
生み出された光がキャベツ玉の光合成とパワー維持を助け、何とか形象埴輪の攻勢を凌ぐ結果となっていた。
[はあ…はあ…解ってるげど…辛えわ…さすがに米川の糖度も残り少なくなってきただよ…ハートのカードさ早ぐ見付けねぇど…]
だが、米川の後方支援も、キャベツ玉の現状維持の助けとはなっても、現状打破には繋がらなかった。
なぜなら、いまだに米川杉森組は、形象埴輪の完全再生のカギとなる、破壊すべきモノの在処を見付けられていないからだ。
(まずいな…)
私は、仮本部で洞窟内での戦いの様子を観察しながら、じりじりと焦りを感じていた。
敵が完全再生を実現するためには、心臓をカードに移して隠した魔女のように、どこかにキーパーツとなる術法具が必要なはず。
そうでなければ不死身にはなれない。
そう察して二人に伝えた私は、先程まで目を皿のようにして、二人から送られてくる映像を観察していた。
しかし、それらしき物品は、依然として見つけることができていなかった。
(ここまで探して見付からないとなると………敵は不死身化の術法具を、鬼神塚に置いているのか?)
(…いや、この場を無理矢理に突破されて鬼神塚と一緒に破壊されたら…不死身化は消失してしまう…合理的ではないな…敵は、そんなデメリットを敢えて受け入れているのか…?)
(それよりは…鬼神塚が破壊されてもすぐに再生できるように…別の場所に術法具を置いておいた方が、リスクの軽減が図れるはずだが…)
焦る私はそんな考えばかりをループさせていた。
[グゥララララッ!]
一方、砂のリングでは足の止まったキャベツ玉を両腕で捕まえ、形象埴輪が滑空式パワーボムの態勢へと移行する。
グワッ! ズッド―――ン!
ガシィ! ズドンッ! ズドンッ! ズドンッ!
空中で溜めを作って投げ落とした後、形象埴輪は再びキャベツ玉から伸びる短い脚を掴み、キャベツ玉を振り上げては連続で砂のリングへと叩きつける。
青々と繁った葉によってキャベツ玉ジャケットはダメージを吸収してはいるのだろうが、わずかな衝撃は本体に伝わっているのだろう。
まずい流れだ。
(ここは、関東の総領として、私が何とかしな………?)
何か…何かが奇妙だ。
(何がおかしい?)
私の灰色の脳細胞が、これまでの流れが何かおかしいと、私自身に注意を促してきた。
そこに、この状況を覆す何かがあるのか?
ざっと、これまでの形象埴輪との戦いを思い出す私。
時間がない。
急いで冷静になって考えろ!
ブンッ! ドオオオオオオオンッ!
バッ! ガシィ!
ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ!
ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ!
ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ!
形象埴輪はその間にも攻撃を続ける。連続でキャベツ玉を砂のリングに叩きつけた後、洞窟の先へとぶん投げ少ジャンプ。ひょいっと馬乗りになってマウントを取ると、両拳でのパンチ攻撃に移行する。
杉森は巨大な両手で防御するが、連続パンチの衝撃は、キャベツ玉、本体の人間へと少しづつ確実に伝わっているよう………!!!
この瞬間、私の脳細胞の中を閃光が迸った。
………くくくっ、なるほど。そういう仕組みか。
[おい、米川]
[総領さまか! 大変だあっ、杉森が負けちまうっぺよ!]
[解った。それよりも後ろを向いて映像を送ってくれ]
[何言ってるだ総領さまっ! そんただことより………後?]
[そうだ]
[了解です。そういや前さばがり気になって、俺も後さ見ていなかっだ]
そう。だから仮本部で観戦中の私も、米川杉森組が進んできた洞窟の先ばかり見ていて、通ってきた洞窟の通路の後側はノーマークだった。
[まさが裏に何がいるってことはねえっぺが………⁉]
おお…よく映っている映っている。
くるりと後を振り向いた米川。そのカメラから送られてきた映像に、一体の小さな埴輪が映っていた。円筒埴輪や形象埴輪とはまた一風違った、現代風の埴輪であった。
具体的には、広島辺りで自由に製造しているような一品だ。
[…あの、総領さま、こりゃあ…]
[よくやった米川。そいつだ! お前が倒すんだ!]
[了解だ! サーフィンボード・ブゥゥーメラン!]
カアアアアアッ! ヒュウゥゥゥゥゥンンン!
バッ!
[逃がすかや!]
キュピィィィ―――ンンン、バッ!
投げ付けられたボードを跳び上がって躱す現代風埴輪。しかし、その動きは米川も先読みしていた。必殺のサーファーキックが現代風埴輪の未来位置に向かって放たれた!
パッキィィィ―――――ンンン!
果たして。現代風埴輪を蹴り砕く米川!
[オオオ…グルオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!]
砂のリングの外れでキャベツ玉を押さえ込んでいた形象埴輪が、突然立ち上がって苦しみの叫びを上げた。
[い・ま・だべー!!!]
カアッ!
輝きと共にキャベツ玉の葉が一枚一枚剥がれ落ちて、内部から農夫姿の杉森本体が現れた!
キュピィ――――ン(必殺技前決めポーズ)!
[とうぅ―――!]
ベジタブルジャケットパージからの、ジャンピングキックのコンボが放たれた!
[ファーマーキック!]
ズガァァァァァァァ―――ンンン!!!
たんっ!
形象埴輪の胴体を見事に貫き、杉森がその胴体の背後へと着地した。
…ピキピキピキ…ピキピキピキピキピキ…ザアアアアアアア…………
…ガンッ…ガガンッ
胴体を貫かれた形象埴輪は再生することなく、ひび割れて砕け、砂に帰って流れ落ちていった。四方を柵になって囲っていた円筒埴輪も同様だ。
最後に、頭部に被っていた青銅の兜が崩れた砂の上に落下した。その後、勢いのままに砂地より外れて転がり、洞窟の床に激突して鈍い音を立て止まった。
〇トロピカル&サーファー米川、ベジタブル&ファーマー杉森○
VS
●形象埴輪将軍 & 円筒埴輪軍団 & 現代風埴輪 混合軍団●
試合時間8分49秒
決勝必殺技:ジャンピングファーマーキック
米川杉森組…つまりお見方側による勝利であった。
[勝てたか…しかしよぉ米川、敵はどういう仕掛けでオラたちの眼を欺いていたんだ?]
[んだなぁ~、総領さま、説明お願いします]
[それはだな…]
結論から言うと、敵は術法を使わない単純な視線誘導をしていた訳だ。それに米川杉森は長時間幻惑されてしまっていた。
敵は、敢えて不要な術法は使わないようにして、洞窟の奥側で技を放ち、また、杉森の攻撃も受けていた。
それで米川杉森は奥側だけに注意を向け、後方に注意を向けることを忘れてしまった。その死角に現代風埴輪を潜ませることで、敵の仕掛けは完成した訳だ。
[なんで総領さまだけは、それに気付いただ?]
[私は第三者的に映像を視聴していたからな。共にその場にいたら、お前たち同様に仕掛けに引っかかっていた]
[そっが。しかし、頭さ良い敵だったっぺよ。敵は敢えて事実誤認や視線誘導の術さ使わなかった。完全にしてやられてたっぺよ]
[そぉだぁ。術さ使ってくれていたら、一発で身破れただ。でも、それを先読みして単純なトリックさ使ってきた。そんな仕掛けさ考えた奴は、侮れん相手だ]
[本当に総領さまがいでくれて助かったです]
[確かに侮れんな…しかし、今は鬼神塚破壊が任務だ。奥を目指そう]
[そうでした。行ぎます]
[米川ぁ、最後の最後に罠さあるかもしれん。気をつげろ]
[解っとる、杉森もなぁ。鬼神塚は慎重に破壊すっぞ]
[おお]
こうして、渓谷の洞窟奥での戦いは終了した。
幸い、洞窟の奥の鬼神塚破壊時に、生き埋めなどの仕掛けはなく、米川杉森組は、無事に洞窟から退避したのだった
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