間章~みなそこの澱みの龍~其の三

 草薙の剣を求め、一路、壇ノ浦へと仙閣の船首を向けた道士、劉黒龍。


 その正体は、中国共産党内部の神秘主義者たちをパトロンとする、偽りない本物の道士の一人であった。


 「…先の東日本大震災の折は、米軍のトモダチ作戦により上陸は阻止された…今回はかならず成功させるのだ…よいな、劉黒龍よ!」


 「尊命!」


 そんな命令に従い、黒龍は一路、本心を隠して日本へと赴いた。



 (だが見ていろよ共産党の屑共! 遠からず俺が貴様等の主となるのだ!)


 彼は、工業の拠点である瀬戸内海付近を大津波により麻痺状態にした後、偽装漁船に乗り込んでいた民兵たちを市民ボランティアとして上陸させ、西日本を占領するという特殊作戦の実行責任者であった。


 という理由は、彼が大陸の人間の例に漏れず、パトロン、上司であるはずの神秘主義者たちを、当初から裏切っていたからだ。

 大陸の人間は基本、身内以外は出世のための道具…そうでなければ、炉端の石程度にしか思わない。

 劉黒龍もそれは同様で、相応の力を得れば裏切ることは当然だった。


 ただ、命令を受けた当時は、まだその素振りを見せる段階ではないというだけだった。


 当初、黒龍が受けた命令は、かねてから使役していた澱みの龍の能力を利用し、瀬戸内海沿岸に大津波を発生させるというシンプルなものであった。


 その混乱の隙に、示し合わせていた大量の偽装漁船で民兵たちが西日本に上陸。そのまま、なし崩し的に西日本を占領するというものだった。

  


 だが、黒龍はその命令に、巧みに自分の計画を織り込んでいった。配下の五星道士たちを引き連れ、日本近海に到達すると、平家の怨霊鎮護のために沈められた草薙の剣奪取と、その他、諸々の計画を配下たちに打ち明けた。


 それを配下たちには、計画をより完璧なものとするため。また、米国と経済戦争に突入し、経済的に血反吐を吐き続け、弱体化する本国から自分たちが孤立しても計画を実行し、かならず勝利するためだ。そう説明した。


 そう説明して納得させて、懐柔していった。


 その結果、次第に配下たちは共産党の極東の尖兵ではなく、黒龍の忠実な配下へと変化していった。

 中央から遠く離れた異国の空気、開放感が、そうなる余地を一般兵に与えていたのかもしれない。


 また、人間は基本、勝負事の勝利が大好きである。


 小さな策を次々に成功させ、小さな勝利を重ね、日本の霊的防衛網を弱体化させていく劉黒龍に、配下たちは感心と共に憧れ、次第に心酔していったのだ。


 それは、個人崇拝と言ってよいレベルであった。

 

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