「痛みの対価」その3

「なぜです」



「なぜ、と問うのか? あんな目にあったのだ、彼なら腐っているかもしれないだろう」



 思いもしない返答に、アレキサンドラの心は大きく揺らぎ、思わずくすっと笑ってしまった。



「もしかしたら、冥府の王になるべく、勇ましく君臨しているかもしれません」



「そちらの方が良いのか、君にとって彼は」



 王子はにやり、として言った。



「どちらにしろ、意気消沈している姿は、見たくありません。あの宰相殿の弟君ですから」



「イヤミのキレは兄弟そろって良いんだがな」



「よっぽどきついことを言われてるんですね」



「ああ、一介の詩人風情に身を変えたいくらいな……それもここ最近はさっぱりなのだ」



 わけがわからん、拍子抜けだ、と一人前の顔をして、王子がこぼす。 



「それでは家出王子の汚名返上ですね」



「そうありたいものだ」



 王子はものものしく頷いた。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る