「予言の娘」終わり

 (昔飼っていたマルに似ている……大きくなったものだ)


 王子を犬扱いである。


 王子にしてみれば心外であろう。


「しかし、王子、準備はいいのですか? あなたがそんな手間をかけずとも、家来にさせればいいのでは?」


「そこなんだ……ええと」


「アレキサンドラと申します」


「サンドラ。いやリックと呼ぼう。二人は特別な感じがするからな。うむ、リック! いい名だ」


「はあ……」


 どうしたものかと言いよどんでいたアレキサンドラだったが、言われてみれば男装だった。


(王子様とうちとけるのに、役にたったか……まあまあだな)


 と、彼女は長めのチュニックを払い、立ち上がった王子についてゆく。


 花乙女とはいえ、これならせいぜいが王子とお小姓くらいにしか見えないだろう。


(ルイと山遊びをしていた頃に似ているな……)


 つい思い馳せてしまったが。


 次の日、王子は後宮に来て朝一番に腹から声を上げた。


「リック! 街の人からいろいろもらったから、降りて来い!」


「すみません、眠いのですが」


 とは言えない。


 言えないかわりにあくびを噛み殺す。


「軍馬……どこの街の人がこのような立派な馬を貸してくれたのです?」


「それだけじゃないぞ。鍋にランプに、食べ物も! 毛皮まである!」


「王子、人目を避けているのではなかったのですか?」


「さあ行こう! その前にしたくしろ。早く」


(つまり……今日行くのか)


 覚悟を決めるとともに、廊下の飾り甲冑からチンクエディア(短剣)をとって服の下につけ、ついでに王子を蹴転がしてみたらな、と考えるアレキサンドラだった。

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