あと、もうちょっと「不吉の星」
アドラシオーの城門の前に人だかりを作っているのは、緑のローヴを着た赤毛の女性。
「この国の王をしいしたのは宰相閣下ではありません。いいえ、むしろ逆。祈りなさい。今すぐ唯一神の加護のもとに……」
悲しみに濡れた緑の瞳。
リッキーと同じ色。
「お母さん! どうしたっていうの?」
「アレキサンドラ。おまえはすぐに支度をなさい。この国を出るのです……魔が来る……」
おおお、と人々の悲しみの声が広がる。
「説明は後です。わたくしは人々の心を休める必要と、責任と義務があります」
硬い石畳を駆ける足音がして、衛兵たちがあたりを睥睨する。
「これはどうしたことだ!」
「は! リリア殿が説明を始めております」
「リリア……知らんな! 世を乱した罰とし、牢へぶちこめ!」
リリアはきっと前を向き、唇を引き結んだ。
「だまりなさい。王が何のためにわたくしを残していったか、それを知らしめるのです」
「ええい、だまれ! 王はご寝所にてお休みになられている。こんなところで説教など、はなはだ迷惑!」
「信じられないなら信じなくていい。けれど、この国の民が不審に満ちているというのに、どうして王はなにもしてはくださらない?」
リリアは腕を縄にかけられながらも、人々に訴えかけた。
「唯一神にすがりなさい。王が新たにあなた方にもたらした信仰を、絶やしてはいけない。魔術の世界を終わらせなければ!」
リッキーは集まる人々を押しのけて、母の前へ出た。
「お母さん!」
「アレキサンドラ! あなたのその瞳を……封印しなければ!」
「何を言うの、お母さん。どうかしてしまったの? ボクの目は普通だよ」
リリアは慰めるように娘に説いた。
そんなことは、初めてだった。
「この国の王はね、英雄だったの。神々にも等しい力を持っていた、それゆえに多くを失い、多くから虐げられ、また多くを救ったの。あなたにそんな思いをさせたくない。同じ瞳をした、あなたにだけは」
「はやくこい!」
衛兵が縄を強く引いたとき、リリアの緑の目が輝いた。
「不吉の星が見える……この血を受け継ぎし娘、アレキサンドラ。今、母の名において、いいえ、星見の巫女リリアの名において、その力を封印します!」
あたりは急に暗くなり、群雲がたちこめ、稲光が走った。
「なにが起こったの? ねえ、お母さん! おかあさん……!」
リッキーは人払いのされた門前で、雨に打たれ濡れそぼって泣いた。
その肩をルイが抱き、いななく馬の背に乗せた。
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