第146話 今日も明日もボールに大地は回って歌って ④

「オーストラリアは不適なサッカーにこだわり、中東の笛はAFCが叩き折った。

ハリルは海外組の力でレベルの低いアジアW杯予選を通過したに過ぎない。


 こんなに海外組が多かった時代はない。ハリルのおかげで弱体化させられているが今の日本代表はなかなかのポテンシャルを秘めている。まともな監督であればGL突破も十分に可能だ。


 ここに来て中島翔哉の活躍がめざましい。中島は五輪監督時代の手倉森に『どんなチームにでも入れたい』と言わしめた選手だ。ここまで手倉森が激賞した選手が今日まで呼ばれていないのは違和感を感じる。ハリルはコーチ陣が推挙する選手を信用していないのではないだろうか。飽くまで自分の目を信じているのだろう。


 ほんの一年半前、中島は主にJ3でプレーしていた。FC東京でも大活躍していたわけではない。しかし日本よりレベルの高いポルトガルに移ってから却って伸び伸びプレーしている。サッカーでは化学反応ケミストリーが重要だと示す好例だ。

 

 武器はドリブルと戦術眼。思い切りのいいシュートも悪くない。164cmしかないが筋トレに熱心で守備も嫌がらない。

 先発でなくとも切り札としてベンチには入れておきたい。久保や浅野よりも実力は上と見る。

 

 香川も同様だ。俺だって先発で使おうとは思わない。日本代表には合わない。だがどうしても点が欲しいとき、相手がリトリートした時に投入すればリスク少なく、そのテクニックが活きる可能性がある。


 香川は少し大人になった。アウェーのオーストラリア戦など、指示された仕事を最後まで全うした。若い時分であれば前線に飛び出し、守備をサボっていただろう。コンディション次第でもう一度チャンスを与えるべきだ。


 本田はパチューカでどこかで見たことあるようなプレーをしている。

 ザックJapanだ。


 本田はザックJapanの心臓だった。ポジションを自由に変えてボールを受け、DFを引きつけ、フリーの選手に渡す。アンドレア・ピルロのスタイルに似ている。パチューカでもその役割に収まった。ロシアに連れて行ってもいいかもしれない。


 浅野と久保は使わない方がいい。W杯で対戦するのがタイなら構わないが。

 試合勘に不安を残すのが井手口だ。スペインに馴染めずにいる。保有権を持つリーズはアジア人はスペイン、イタリアへのレンタルは避けるように配慮して欲しかった。柴崎だって、スペインに適応するまでは大変だった。

 でも井手口の代わりを見つけるのは大変だ。おそらく無理、なので親善試合で試合勘を取り戻すしかあるまい。

 結局、吉田の相棒は最後まで守備陣のネックになるだろう。鈴木大輔を試さなかったのが心残りだ。


 

 ロシアW杯。

 組み合わせは上々。

 去年のU-20W杯を思い出して欲しい。あれと同様、日本に対する国はリトリートして来るだろう。理由もやっぱりU-20W杯の時と同じで日本のテクニックを警戒し、日本のスピードに乏しい守備を衝いて点を取るためだ。

 よってセネガルとポーランドはプレスに来ない。プレスとフィジカルに強みのあるコロンビアもリードすればリトリート。いや、同点でもそうしてくるかもしれない。


 これがハリルJapanの泣き所で、リトリートされるとひどく攻撃力が落ちる。日本が狙っているのはショートカウンターだがそこをはずされる。日本に世界レベルのミドルシュートが撃てる選手はいない。ボールを保持しているとかえって点が取れない。逆に失点につながる。

 中盤を守備的な構成にするとこんな状況に陥る。テクニシャンを起用しても守備的なサッカーはできることは前述した通りだ。


 ショートカウンターを狙うためにはアタッキングサードにボールを持ち込んでボールを失う必要がある。コロンビアが本気でプレスに来たらそこまでボールを運べるのか疑わしい。前進しすぎてカウンター返しを食う可能性もある。速攻にこだわらず慎重にパス回しをすべきだ。日本は南米を苦手にしている。守備的に行って引き分けなら上々だ。


 コロンビア戦が19日。セネガル戦が24日。ポーランド戦が28日。

 結構タイト。必ずターンオーバーするべきだ。



 さて、今日ももう遅い。

 最後に、俺の妄想を聞いて欲しい。



 ハリルが腹案を忍ばせ、裏を掻こうとしている。

 

 特に対セネガルがそうなのだが、彼らがショートカウンター対策をしてきたら何も出来ずに敗北するだろう。セネガルがショートパスを繋がずに、対角線にロングボールを入れる、ドリブル突破メイン、フィジカルでごりごりと、キック&ラッシュ。などで来たらもう日本は専守防衛に徹する他ない。そうしたら大迫のキープ力次第になる。だがクリバリ相手に競り勝てというのは余りに荷が重い。大迫はポストできる場所を探して下りてきて……ゼロトップになるだろう。機動力が必要だ。現状の攻撃陣では点を取るのが困難。


 セネガル戦はポゼッションで戦う。セネガルがプレスに来たらパス回しでかわす。そこで耐え切れば体力で優位に立てる。ショートカウンターをしようとプレスに行くのは危険だ。ボールが取れずに裏のスペースを与えれば彼らのスピードを活用する機会を与える。マネは長友が大体抑えてくれるだろうが過信は禁物。ボールを取られたら大人しくリトリートしてスピードを殺すべきだ。打ち合いにして勝てるとは思えない。


 おそらくポーランド戦では勝ち点3が欲しい状況になっているだろう。この試合ではショートカウンターを狙ってもいい。ポーランドがGL突破を決めていたら話は別だが……。

 リスクは当然ある。そのときに活躍するのがハリルが干したように見せかけていた岡崎だ。

 

 岡崎はレスターでショートカウンターの旗手だ。不意打ちにポーランドは混乱することだろう。いや、コロンビア戦で早くも登場するかもしれない。

 だってショートカウンターやりたい監督が岡崎を使わないなんて、まったく意味が解らない。


 レヴァンドフスキは別格だ。とにかくそこに入るボールは寸断する。クロスには吉田がマンマークでへばりついて競り合う。

 リードを奪うまでは真っ向勝負。


 ハリルはCFはポスト、WGには足の速い選手、IHインサイドハーフにはボール奪取力のある選手……などと決めてしまっている……が、これも情報戦だ。実際には岡崎や武藤嘉紀を起用するために2トップも採用する。SHは原口と乾。守備力が欲しいサイドには原口を、反対サイドからは乾が守備時には最終ラインに圧力をかけながら前目にポジションを取って個人技で守備をこじ開けたい。現状、日本代表ではぱっとしないが乾を活かせないと勝利は難しい。



 以上が俺の妄想だ。

 ハリルがカウンター以外の攻めを考えているだろうか……少し無理があるような気もしてきた。

 

 ハリルは守備的だと言われるがむしろ、たくさん点を取られる可能性もある。

 もし、ハリルの言うがままに縦に速い攻撃をしかけそれが拙攻に終わったら、ボール保持率は当然下がる。守備の時間が増える。

 日本は耐え切れるのだろうか。



 W杯が終われば、日本は反省と総括に入る。

 惨敗に終われば、JFAもまな板に載せられるべきだ。監督に責任を押しつけて自分は悪くないです、を許していてはまたひどい選択をする可能性が残る。


 西部謙司いわく、JFAは勝利至上主義なのだという。

 勝てれば戦術はなんでもいい。勝つための手法を選ぶ。

           ……まあ、それで韓国に惨敗しているけど。

 

 ザックで失敗した。だから弱者は弱者らしく守りを固めてカウンターしよう。

 反動だ。よくあるパターン。

 トルシエの厳しい規律の反動からジーコの自由で個を活かすサッカーへ。岡田武史の守備的なサッカーからザックの攻撃的なサッカーへ。極端に振れる。なるほど、西部の言う通りポリシーがない。

 だとしたら、次はパスサッカーに振れてくれればいいのだがね。というか日本に適したサッカーをするべきだ。勝ちたいから、勝つためのパスサッカーだ。


 日本のサッカーのアイデンティティを確立するべきだ。

 バルサはそれが伝統になりつつある。それが人々に愛されて、だから収入も増えて高価な選手を獲得できて、また勝利する。リスキーだがそこを越えると見返りがある。好循環に至る。

 勝利triumphbeautyも。両方手に入れる。


 ハリルJapanの視聴率が低いのも、これと無関係ではあるまい。勝利至上主義なら勝利するしかないが、負けた上につまらないサッカーをされたら悲劇だ。

 わくわくするようなサッカー。親善試合ではあるがザックJapanのベルギー戦なんか、面白い試合だった。コンフェデのイタリア戦も痺れた。

 日本のサッカーのスタイルを定め、何年もかけて積み上げるべきだ。それで新しく見えてくるものもあるはずだ。 

 

 

 フットボーラーの旬は短い。10年間活躍する者などほとんどいない。

 今、日本代表で力のある選手は年齢が高い。4年後、力が落ちている可能性が高い。カタールW杯は厳しくなりそうだ。


 昔、アテネ五輪に出場した世代は谷間の世代と呼ばれた。北京五輪に出場した世代は谷底の世代と呼ばれている。


 東アジア選手権を観ても、Jリーグを観ても、こいつはすげえと思うような20代が見当たらない。リーズに移籍した井手口ぐらいだ。五輪戦士達も選手のレベルは低かった。

 余りにひどすぎてマスコミも口をつぐんだ。リオデジャネイロ五輪世代はどん底の世代だった。


 日本ぐらい少子化が急速に進行している先進国を探すのは難しい。日本の指導者はそれ以上に進化しないといけない。幸い、サッカー人気は上昇しており、サッカー部員も減ってはいないけど。

 ここから伸びてくる選手が現れることを祈る。


 女子サッカーの未来は少し明るい。

 特にヨーロッパで力を入れる国が増えてきた。おかげでなでしこJapanも勝てなくなってきた。名門クラブに女子チームが次々と花開く。お前らも、海外に出ることを考えてみてもいいだろう。

 サッカーでメシが食えるぞ!


 レベルを上げよう。

 俺のやりたいサッカーをできるぐらい、技術も精神面も成長して貰いたい。


 さて。俺も明日から練習に参加する。

 さっさと寝ておけよ」


 剣はログアウトした。

「じゃ、わたくしも落ちるね」

 フランもログアウト。



「ね、聞こえまして?」

 レイピアが濡れそぼった声を出す。

「うん、聞こえた」

 トマホークが突き放すように。

「……フランちゃんの声がダブって聞こえたね」

 と、ハルバード。

「え? マジで?」

 カットラスのように気付かなかった者もいる。

「面妖な。如何いかなる絡繰からくりじゃ?」

 刀がつぶやく。


「剣とフランが……一つ所に居る」

 溜めて、モーニングスターが答えた。

「こんな時間に……?」

 と、薙刀。


「……あのね、コーチの家に、フランちゃんがいたの」

 訥々とつとつと、弓が声を絞り出す。

「どういうこと?」

「弓ちゃんさ、もしかして……コーチの家、知ってる?」

 ショーテルが柔らかく訊いた。

 ……しまった。弓が息を呑む。

 打ちひしがれて、冷静さを失って、つい口が出た。

「……うん」


「いやー困っちゃうなあ、これさ、間違いなくコーチのホモが直っちゃうよ」

 胸が重りがのっかったみたいにずぅうんと重い。でも明るく努めようとして、無理をして、くすぐったくなって、みんな笑う。

 みんな解っている。黙っていても、みんな剣を狙っている。口数の少ないティンベーや錫杖、鎖鎌だって。


 物語。よくあるハーレムものなら、みんなで剣をシェアしましょうとか言い出す子がいて、大団円ハッピーエンドを迎えるかもしれない。

 でも、みんな剣の肉一切れでも譲る気はない。

 剣を丸ごと頬張りたい。


「織田がつき羽柴がこねし天下餅すわりしままに食うは徳川」

 手裏剣がポツリと。

「何それ」

「フランちゃん、もちついてるの?」

 ククリが笑う。

「で、誰かがこねると」

 スタッフはちょっと真剣な顔をしている。

「誰かが食べ、るッ……!」

「弓ちゃんさ! コーチの家教えて!」

「……うん」

「明日は日曜日。練習は午前中だ。終わったらみんなでコーチの家押しかけよう!」

 欲張りに、両方、手に入れるんだ。

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