第40話 サウジ戦
パタパタと、靴音が響く。まだ早いのに元気な奴もいたものだ。
俺は机にもたれ、半分は寝ていた。力士の腕の中で思う存分甘える夢を見ていた。
これはいい夢だ。いつまでも
「勝ちましたよ!」
と、跳ねた声が俺を揺り動かした。俺はまぶたの裏で
「く……!」
俺は突然、しゃっきり伸び上がった。俺の脇腹を何かがつついたのだ。
ああ、力士が軽快に逃げていく!
俺は呆然と目を開けた。
フランは口角を上げ俺の視界に入り込む。
「ああそうかいそりゃよかったね」
俺は寝返りを打った。ぴょいんと弾んでフランが俺の視界を奪う。
俺は今日も朝からさんざんサッカーを
反対側を向く。フランがついてくる。ソバージュがかった青白いロングヘアが俺の鼻先をくすぐった。ぴょい、ぴょいっ。何度逃げても俺の顔の前にフランの顔がついてくる。
どうやらフランは俺の悔しがる顔が見たいようだった。スマホを取り出す。十一月十六日、午後四時半。やっぱりまだ早い。
最悪。
フランの顔を見たくないので俺は下を向いて机に鼻をつけ、話し始めた。
「お前の言うとおりだ。どうやらハリルはようやく速攻を軸にするのを諦めたようだ。日本人にはパスサッカーが合うことを痛感したのだろう。今月、ようやく日本はスタートラインに立った。たくさんの時間を無駄にしてな」
「原口が素晴らしい働きをしました」
いてえ。ダメだ。鼻がつぶれる。仕方なく顔を上げた。
「岡崎と似ているところがある。労苦を惜しまずプレッシングし続ける。加えて恵まれた身体能力とまずまずの突破力がある。現状、不動の左SHだ。
翻って右SHはパッとしなかった。改めて俺は岡崎を推す。ザックジャパンでの経験値もある。なんならツ-トップで起用してもいいだろう。大迫と組むことでどんな
アジア相手だったら清武を起用しても構わない。どことやろうが日本は五分以上にやれるからな。だが強いチームと当たったとき、おそらく通用しない。守備力がないため足かせになる。トップ下も岡崎なら問題なくこなせる。
現状、日本は右サイドが穴だ。右SHは岡崎に任せるのがベストな選択だと思う。サイドに張っていなくても構わない。ガンガンゴール前に進出して得点を狙ってもらう。サウジ戦の二点目も各選手のアドリブが効いてサウジディフェンスの混乱によりもたらされた。右サイドの本田は左サイドから長友にパス。長友のクロス、左サイドの原口は右サイドに移っておりマークがずれてフリー。香川の触ったボールを押し込んだ。
日本人には流動的にポジションチェンジできる連携力がある。
サウジのパスワークは余りにイノセントで、日本はパスを受けた選手にプレスをかけ特に前半は幾度もボールを奪った。後ろから前に走ってボールを奪えるとその推進力を活かしそのままショートカウンターへつなげられる。サウジには修正力がなく
だから嫌なんだよ。フランのこういう顔を見ると、俺が世話になった教師達に次々とビンタを食らった気分になる。
「日本は低いハードルを何とか飛び越えたにすぎない。一点目のPKの判定は微妙だった。サウジにPKを取られかねないアフタータックルもあった。
アウェーでは審判の判定がサウジ寄りになるだろう。日本はUAE、イラク、サウジ。対中東の
ハリルの理想と選手のサッカー観にズレがあるのも気になるところだ。選手達が日本が勝つためにパスサッカーを選択しようと意思統一し、何とかサウジに勝った。この先、日本にどこまで発展性があるか。端的に言えば選手は監督を無視しているとも言えるのだから。果たしてハリルが日本代表に何か与えられるものがあるのだろうか?」
安心する。
徐々に目尻が落ちるフランを見ると、ようやくこいつは十四歳のガキにすぎないと実感する。
「もし今年セレッソが昇格できないなら山口蛍は移籍するべきだ。香川、清武、本田、宇佐美もできるだけ早く移籍しなければならない。宇佐美も料理人なので体を張った守備を免除してもらえるチームを探すべきだ。日本人はMFをやりたがるが能力的に難しい。やはり1.5列目で使われた方がいいだろう。
さ、練習を始めるぞ。着替えてこい」
俺はサングラスを掛け、立ち上がった。
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