第24話 戦闘準備
「頼もう!」
奥から出てきたのはエプロンを掛けたおねいさんだった。
「はい! ……お子さんのご入園ですか? 何歳のお子さんでしょう」
「24歳です。が……」
俺はつい弾みで虚偽の報告をしそうになってお口をチャック。
「……あの、それって、お子さんではなくぅ、あなたですよね?」おねいさんの様子がちょっとおかしい。「……はい。……ですがおそらく無理です」
「ショタと触れ合いたいんです」
イライラが
おねいさんは頑迷に俺を拒絶し、ついには同僚に応援を呼んで警察にまで電話をかけて俺を追い出しにかかった。
ありえない。
暴れようかとも思ったが余罪を洗われて面倒なことになっても困る、俺は撤退を余儀なくされた。
「あ~るぅ晴れた~ひ~る下がりぃい~ち~ばへ続く道~
荷~馬~車がぁゴ~ト~ゴ~ト~子牛を乗せていくぅ
か……」
トイレットを出てふと見ると、事務室の前で、フランがおっさんAに何度も頭を下げていた。
さてはフランのやつ、何かやらかしたな。ざまあみやがれ。聞き出そうと近づく。
「フラン、次の試合はどことやるんだ?」
「エレメント横浜です」
「まじですか」
なでしこジャパンのメンバーを多数抱える強豪。
「下部組織は強いのか」
「環境が違いますからね。中でもGKソリッド、CBオー・ド・ヴィ、SHヴェンティラトゥールの3人は別格です」
「どんなサッカーをするんだ?」
「強烈なプレッシング、前線でボールを奪ってからの速攻、テクニックと知性を重視した攻撃的なサッカーです。徹底的にパスを繋ぎ、ピンチになってもボールを
そして俺は仕方なく本格的な指導に入った。ミーティングルームに集合。
「前回の試合、突破の際にフリーランニングを心がけろと言ったはずなのにお前らは止まったままだった。どうしてだ?」
カットラスが手を挙げた。
「向こうがリトリートしてスペースがなかった。ただ闇雲に走っても体力を消費するだけだ。意味がない」
「スペースがなかったとしても走らなければチャンスを作れない。むやみにでも走っていればマークがずれるかもしれない。ディフェンスラインにギャップができるかもしれない。とはいえ、無策よりは意図があることが望ましい。たとえば……」
前線の赤いおはじきを左サイドに集めていく。
「こうするとDFも左サイドに引っ張られていく。こうして右サイドを空ける。後ろから走り込んで数的有利を作る。相手の中盤が下がって右サイドを埋めたら、バイタルが空くから今度はミドルシュートが狙える。もちろん逆に右サイドに密集を作るのも手だ。色々動いているうちにマークがずれる可能性があるから見逃さないように。相手を揺さぶって突破する引き出しを増やしていこう。
サッカーは身体能力とテクニックだけでは名選手になれない。様々な種類の知性も重要だ。ゲームと名のつくものに歴史や文学は不要かもしれないが、数学的な感覚は必要だ。特に確率論だ。心理学も
もうなんでも気になった。走っているククリを引き留める。
「お前さ、どうして前傾姿勢で走るんだ」
「うん? その方が速く走れるから」
「あのさ、メッシ、クリロナ、マラドーナ。走ってる時の姿勢を思い出してみろ。胸を張って背筋はぴんと伸びている。お前みたいな姿勢じゃ重心が前になりすぎて方向転換がスムーズにいかなくなる。なんならウサイン・ボルトでもいいぞ。スピードも前傾姿勢じゃ出ない。アニメとか見てると影響受けちまうけどな。前に進むのは上半身じゃなくて下半身だぞ。日本の低レベルな指導が浮き彫りだ」
ああ、こいつもか。
「弓! 内股でしか走れんのか?」
「これは無理なのぁ~」
ふと今朝の幼稚園での一件を思い出す。
怒りに、我を忘れていた。
俺は何をやってるんだ。
このままじゃ、俺は鉄格子越しの空を眺める日々を迎えるだろう。確実に、獄吏の慰みものに……。
……だからッ、違う!
ボールを蹴りつけ、ゴールに突き刺さる。ティンベーがびくっとしてボールを避けた。
俺は本当に駄目だ。
初志貫徹だ。行動に出よう。
まともな人間になるんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます