第13話 見えるもの
ある休日の午後、私は久しぶりに友人のSとドライブに出かけた。
「おっ、あの海岸って学生の頃、よく遊びに行った場所じゃん!」
Sが窓の外を見ながらはしゃいでいた。
「
Sは昔から言い出したら後に引かない。私は仕方なく、その海岸へと車を走らせた。
「おいおい、誰もいねーじゃんか。何だよ、せっかく水着姿のねーちゃんが達が見られると思ったのによ~」
海岸に到着し、車を降りたSの第一声がそれだった。やはり目的はそれか・・・。私は呆れて溜息を吐いた。そして、嘆くSを尻目に辺りを見渡してみる。確かにSの言うとおり、ここには私達以外に誰もいないようだ。
眼前に広がる海は荒々しく波音を立て、その存在を主張している。空には薄暗い雲が広がり、今にも
私は妙な肌寒さを覚え、そろそろ車に戻ろうとSに声をかけた。しかし、なぜかSは無反応だ。
私はSを見た。すると、彼の視線はここから少し離れた場所にある
「おい、さっきから何を見てるんだ?」
私が尋ねると、Sはゆっくりと防波堤の先端を指差した。しかし、そこに目を引くようなものはない。もう一度、Sを見た。
すると、突然Sはふらふらと歩き出した。それはまるで、何かに取り
「おいS!戻って来い!!」
私の声が聞こえないのか、どんどんハンカチへと近づいて行くS。そして、彼がハンカチを手に取った瞬間、その姿は
私は怖くなり、その場を逃げ出した。
* * *
あれから数年が経った。Sは今現在も行方不明のままである。
今日私は、再びあの海岸へとやって来た。辺りにはあの時と同様で他に人はいない。私はSが消え去った海を見据える。
もしあの時、私が意地でもSを止めていれば、逃げ出したりしなければ、彼は助かったかもしれない。それなのに私は――。
すると突然、首筋に冷たいものが落ちてきた。何かと思い見上げると、それは空に広がる薄暗い雲から、いくつもいくつも降って来た。その様子はまるで、私に助けを求めてSが泣いているようだった。
私は何気なく、あの日のSがそうしていたように防波堤を見た。先端に、女の子が立っていた。赤い服を着た女の子だ。
女の子は何かを叫んでいる。私はその声に耳を傾けた。
『ワタシノ、ハンカチ取ッテ』
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