第4話後編(完)

;ここから後編

*0408

;◇Wito View

;[演出]

;ブラック

  ここではない、どこか遠くに僕は行ってしまった。

  けれど、僕はそこから戻ることを懇願された。だから僕は、ここへ戻ってきた。

  何故懇願された?……それは、不思議な縁によるものなのかもしれない。

  きっと誰かが、僕を求めているのだろう。嬉しい、そう僕は思った。

  そんな僕の立ち位置は、大きく変わろうとしていた。

声 「――先生」

  どこかで聞いた、声がする。視界は真っ暗?

声 「初人先生、起きてください」

  身体が石鹸にでもなったかのように、しばらく動けなかった。

  しかし声の主と思われるものに肩を揺らされ、心臓がどくんと音を立てた。

  そうか、僕はいつの間にか倒れてしまったのだ、と気付く。

  やがて身体が温まってくる。歯車がぎしぎしと音を立てながら、ゆっくり回り始める。

  ぐっと力を込め、大空に向けて解き放つ。眩しいほどの光で視界が灰色に変わる。

  眼をゆっくりと開け、白い息を吐いた後、驚くべき状況であることに気づいた。

;□背景:標家初人私室

;[演出]

;1人表示 璞

璞 「起きた……」

  そこに居たのは、他ならぬ涙を流した璞さんであった。

  璞さんが涙を流している。そんな璞さんを、僕は初めて見た。

  璞さんにとって、僕が生死をさまようことはよほど辛いものだったのだろうか?

  しかし僕は璞さんのことを心配せずには居られない。

  僕は僕の身体がどうなっているかなどよりも、璞さんのことが心配だったのだ。

;立ち絵消し

;[演出]

;通常ADV表示 初人&標

初人 「璞さん、その涙は!?」

  しかし、僕が璞さんに触れようとした時、璞さんは後退し、そして部屋を出て行ってしまった。

  どうしたのだろう、一体璞さんにどんな心境の変化があれば、涙をながすようになるのだろうか。

  慌てて追いかけようとして、全身がずきりと傷んだ。すぐ側に居た標さんに止められる。

標 「大丈夫ですか、初人さん」

  標さんに止められて自覚する。僕は、怪我人だったのだと。

  けれど、璞さんが心配だったのは本当だ。

初人 「えぇ、何とか」

標 「初人さん、元気そうで良かったです」

初人 「はぁ、しかし璞さんに何かあったのですか?」

  僕の質問に対し、標さんは微笑むだけであった。

標 「これも本の1つなのでしょうね」

初人 「そう、ですか」

  あの時の『高い希』をいつしか見失ってしまった僕のように。

  璞さんも、繰り返し言うが、変わってしまったのだろうと思う。

  だからこそ。璞さんは、僕みたいになってほしくないのに。

  僕は璞さんの今後を心配しながら、すぐに璞さんを追いかけるべく部屋を出たのだった。

;[演出]

;ブラックフェードアウト


*0409

;◇Wito View

;[演出]

;□背景:標家廊下

  廊下に出てすぐに、窓の外の、遠くの海を見ていた櫂と出会った。

  どうやら櫂も心配して、部屋の外で僕の回復を待っていたようだ。

  櫂は僕の姿を見て一瞬喜んだものの、すぐに事態の重さに気づいたらしい。

  僕が正気かどうか疑うような目を向けてきた。

櫂 「ちょっと初人、キミ傷が深いはずだよね?璞さんを追うのは無理だと思うよ?」

初人 「そうなの?」

櫂 「いやいやいや、今歩いているのが奇跡だって。とにかく今のキミは寝るべきだと思う」

  櫂がこういうのだから、どうやら相当傷が深かったようだ。

  僕が死ぬまでには至らなかったものの、やはり犠牲というのは大きかったようだ。

  でも。今は寝るわけには行かない。璞さんの元へ行くべきだろう。

初人 「櫂、璞さんがどこに行ったか分かる?」

櫂 「さっき泣きながら外に出てきて走って行った、まさか初人、キミは追いかけるつもりなの?」

初人 「あの璞さんが泣いているんだよ!?走るのはやめておくけれど、追いかけるよ」

櫂 「初人、キミは生命が有限であることを知らないの?」

初人 「10年前に失った生命だ、今は無いに等しい」

櫂 「そう、それなら止めないよ。璞さんはたぶん山の方へ行ったよ」

  山へ?それはまた一体どうしてだろうか。山と街・海方面は標塾から見ると真逆の方向にある。

  いつもの璞さんなら街を通って海へ行くと思うのだけれど……

櫂 「私は海の方をずっと見ていた。璞さんが海へ行ったのなら、私の視界に入っているはずだよ」

  確かに窓の外に広がる景色には、標塾から海へ向かう道も見えている。

  璞さんがもしその道を通っているなら、櫂もそれを見ていたに違いない。

  でも櫂がそう言うということは、まだその道を通っている姿を見ていないということだろう。

初人 「そう、ありがとう」

;立ち絵消し

  けれど、僕には半ば信じられなかった。あの璞さんが、山へ行く?

  かと言って、櫂の言葉を信じないというのもどうかと思う。

  僕は一体、海と山、どちらを選択するべきなのだろうか?

;選択肢「海へ探しに行く」or「山へ探しに行く」

;[演出]

;ブラックフェードアウト


;ここはあえて選択肢を残しました。さて、どちらが正しい道だと思いますか?










;▼「山へ行く」場合


*0410B

;◇Wito View

;[演出]

;□背景:山道(夕)

;1人表示 初人

;○カラスの鳴き声

  あれからどれだけ探しただろうか、璞さんは見つからなかった。

  やはり璞さんは海へ行っていたに違いない。僕は櫂に、騙されたのだった。

初人 「櫂……どうして」

  体力的に限界に近づいているのが分かった。僕は璞さんの捜索を諦め、標家に戻ったのだった。

;[演出]

;□背景:標家私室

;立ち絵なし状態

;○小鳥の鳴き声

;通常ADV表示 標&初人

  気がつけば、朝だった。どうやら昨日は疲れで帰ってすぐに寝込んでしまったらしい。

標 「あ、初人さん、おはようございます」

  起きてすぐに、標さんの姿が見えた。どうやら僕が起きるのを待っていてくれたようだ。

初人 「あの、標さん。璞さんは、帰ってきましたか?」

標 「ええ、今朝、星のヒト達に届けられましたよ」

初人 「届けられた?それはどういうことですか」

  まさか。僕は嫌な予感がした。だらり、と汗が流れ始めるのが分かる。

標 「璞は海岸で、櫂さんに殺されたそうです。星のヒト達が教えてくれました」

;♪危機

初人 「櫂が、殺した……」

  僕は半ば信じられなかった。櫂

標 「悪気が無いのは分かっています、これが初人さんの希むセカイだったのですよね?」

標 「璞さんの苦しまない道、櫂さんの居ない道、そして初人さんの苦しむ道」

標 「それら全てが揃ったセカイがこれなのですよね?」

標 「櫂さんもそれが分かっていて、初人さんの為に行ったのでしょう」

標 「けれど初人さん、本当にこれで良かったのですか?本当に、これで……」

;立ち絵消し

  標さんが黙ってしまう。標さんも、璞さんが亡くなって辛いのだろう。僕も辛い。

  けれどそうか、これが僕のかつて希んで居たセカイなのか。

  いや、例えそうだったとしても、今はこんなセカイ、希んでなんか居ない。

  僕は、櫂を信じ続けていた。それが仇となって、こんなことになるなんて。

  璞さんの生命を奪ってしまったのも。櫂をこんな道に進ませてしまったのも。

  標さんをこんな風に悲しませてしまったのも。みんな、僕のせいなのではないか?

  ああ、そうか。こうやって苦しみ続けることが、僕にとっての希だったのか。

  僕は拳をベッドに打ち付けて、泣き続けたのだった。

;BGMOFF

;[演出]

;ブラックフェードアウト

;アンハッピーエンド「苦しみ続ける初人」

;[シーン終了]


;ここまで山へ探しに行った場合

;▼ここから海へ探しに行った場合


*0410A

;◇Wito View

;[演出]

;□背景:海へ続く道

;前奥表示 師&初人

  僕は海へ行くことを選んだ。例えそれが、真実を知ってしまうことになったとしても。

  真実を知るということは、時にヒトを喜ばせ、時にヒトを恐怖させる。

  僕はそのどちらになる覚悟も、決めた。だから海へ向かっているのだ。

  ふと前方を見ると、木にもたれ掛かっている人影が居ることに気づいた。

  その人影は、僕の足音に気づくと、行く手を塞いだ。

;♪不安

初人

師 「やあ初人、こんな時間に奇遇だな」

  それは他ならぬ、師だった。どうしてこんな時間にこの場所に居るのだろうか?

  僕を待っていたのだろう、ということまでは推測できる。しかしその目的が分からなかった。

  が、目的が何であれ、僕は行かなければならないだろう。

;[演出]

;前奥切替

初人 「邪魔だからどいてもらえないかな」

  やや苛立ちながら、僕は師に答えた。無理矢理先を行こうとしたが、師に止められる。

;[演出]

;前奥切替

師 「初人、お前はもうこの道を進むべきではない、いずれお前は後悔するだろう」

師 「それでも、行くのか?」

  師がそう言う理由が分からなかった。師は祝の正体を掴んだのだろうか?

  その上で、僕が行けば後悔すると言っているのだろうか?

  もしそうだとしても、僕は行かなければならない。僕は選択したのだ。

;[演出]

;前奥切替

初人 「行くに決まっている、行かなければ璞さんが危ない」

  璞さんが危ない、ということに、特に疑問を持たない顔のままの師が居た。

  璞さんが誰かということは、師は知らないはずだ。しかし、心当たりがあるのだろう。

  例えば、1人の純穢がこの道を先程通ったのを見た、とかだろう。

  もしそうなら、師はその純穢が璞さんなのだろうと理解したに違いない。

  でなければ、師は何か反応するはずだ。ということは、やはり璞さんはこの道を?

  そんなことを考えていると、師が僕に問いかけてきた。

;[演出]

;前奥切替

師 「本当にそうか?お前が行くから、祝が現れるんじゃないのか?」

  師が言いたいのは、僕が行かなければ祝は現れず璞さんも救われるだろう、ということだろうか。

  確かに、祝は僕の居る時以外現れないのかもしれない。

  仮にそうだとしても、僕は行かないといけない。

  璞さんは確かに強力な自我を持つ。でも、璞さん1人で祝に立ち向かえるだろうか?

  璞さんは、そのことを分かって僕に選択を求めているのだろう。

  僕が生命をかけて璞さんを救いに行くか、それをしないかどうか。

  恐らく僕が行かなくても、祝は璞さんを襲うだろう。確証はない。

  僕が行けば、僕は改札を超えられる。璞さんを救うことが出来るだろう。

  そして、あわよくば。祝の正体を確かめられるに違いない。

  僕の推測が正しければ、祝は――

;[演出]

;前奥切替

初人 「僕は、イルカを信じている」

;立ち絵消し

  師に向き直り、ただそれだけを僕は伝えた。師は少し驚き、やがて納得した顔を見せた。

  師にとって、僕の答えは予想していたものだったのかもしれない。

  そして、師と僕の導いている結論が同じなのだということも、お互い把握した。

  やがて師が道を退き、僕に早く通れと促す。僕は、頷いた。

;[演出]

;ブラックフェードアウト



*0411

;◇Wito View

;[演出]

;□背景:海岸(夜)

;通常ADV演出 初人&璞

  海辺の森を抜け、景色が広がる――最も暗かったので、あまりそれは分からなかったが。

  そんな暗がりの中、砂浜に岩のようなものがぽつりとあった。

  僕はその正体を知っている。ゆっくりとその岩に近づいていく。

  そこには、璞さんが砂浜に座り込んでいた。

初人 「璞さん!」

  璞さんは僕を見るなり、僕を睨みつけてきた。そんなこと、してほしくないのに。

璞 「どうして、来たの」

初人 「璞さんが心配だったからね」

  そう言って、璞さんの視線を無視して隣に座り、一緒に海を眺めた。

  こうして海を璞さんと眺めることは、またあるのだろうか?

  いや、僕が璞さんを危険から守らなくてはならない、そう決意した。

初人 「璞さんは、何か希はあるの?」

  少しして、ふと。僕はそんなことを呟いた。

  そしてすぐに気づいた。この言葉は、璞さんを傷つけてしまうかもしれないと。

  慌てて璞さんの方を見たが、真剣に悩んでいる様子で僕は驚いた。

  しばらく悩んでいた璞さんから出された結論は、驚くべきものだった。

璞 「最近、できた」

  どうやら、それが何かは教えてくれなさそうだ。

  けれど、最近まで無かったにも関わらずできたのならば。

  僕は少し、役に立っているのかもしれない。

初人 「因みに、その内容を聞いても良い?」

  とは言え。きっと言ってくれないだろうが、璞さんの希が何なのか気になるところだった。

  ダメでもともと、僕は聞いてみることにした。

璞 「教えない」

  予想通りであったので、僕は特に何も思わなかった。

  璞さんの希が何であれ、僕は璞さんを精一杯、応援するべきだろう。

初人 「そう、叶うと良いね。僕は応援しているよ」

璞 「ありがとう」

;立ち絵消し

  この言葉を聞いて、僕は驚かないわけがなかった。

  まさか、璞さんから感謝される時が来るとは!

  今まで『分からない』『……』など、短い台詞でしか答えてくれなかった璞さん。

  それは今も変わらないが、ただ単なる受け答え以上の『ありがとう』を頂いてしまった。

  これは祝の正体が分かる日が近いのかもしれない、とココロの中で冗談を言う。

  そしていつの間にかココロの中の僕が舞い踊っていることに気づき、恥ずかしくなる。

  璞さんが進歩したのだ、このくらいの歳だと当たり前のことだ。

  それを喜びすぎるのはどうかと思う。僕は少し反省したのだった。

  その刹那、僕は嫌な気配を感じた。

  それは狂気、憎しみ、嫉妬――どれだろうか、どれでもあるのかもしれない。

  ただ1つ確かなことは、僕はこの気配を知っているということだ。

;[演出]

;1人表示 初人

初人 「祝!」

  璞さんを庇いながら振り向くと、森から姿を現そうとしていた祝が、そこに居たのだった。

;立ち絵消し?

;[演出]

;ブラックフェードアウト


*0412

;◇Wito View

;[演出]

;ブラック

  『僕が行くから、祝が現れる』という師の言葉。

  それはあながち間違っていないのかもしれなかった、これまでは。

  でも、何故だろう、今回は違う気がするのだ。

  今まで祝にとって僕とは、居なければ目的が達成されないような存在であったと思う。

  そう、今までは、だ。

;□背景:海岸(夜)

;前奥表示 祝&初人

;♪危機

初人

祝 「ワガナハ、ハフリ。アラタマ、オマエヲ、マッサツスル」

  いつも通りの不快な声と共に、祝が森から姿を現す。

  月の光に照らされているが、外套を深く被っている為、正体は分からない存在。

  どうやら、次の目的は璞さんの抹殺のようだ。

  僕は璞さんを庇いながら、祝を睨みつけ、叫んだ。

;[演出]

;前奥切替

初人 「璞さんを抹殺してどうするつもりだ」

  璞さんをこのセカイから消し去っても。僕が残る、師が残る、櫂が残る。

  璞さんを消し去る利点なんて、一体何があるというのだろうか?

  単なる1人の純穢――いや自由だろうが――を消して何になるというのだろうか?

  僕の疑問に、祝は少し黙りこんだが、やがていつもの不快な声で答えてくれた。

;[演出]

;前奥切替

祝 「ウラミヲ、ハラス」

  恨みを晴らす?その言葉に疑問を感じた。

  最初、祝は『希を叶える』と言っていた。次も、『希を手にする』と似たようなことを言っていた。

  ここまでは、まだ分かる。しかし前回は終始無言であった。ここでも不自然な気がするのだ。

  一貫して希について成し遂げていくものだとばかり、僕は思っていたから。

  そして今回は『恨みを晴らす』だ。どうもおかしいように感じられる。

  今までやっていたことがうまく行かなくて、恨みを持ったのだろうか?

  しかしその恨みを持った対象は、僕では無く、何故か璞さんである。どういうことだろう?

  祝は璞さんが改札員を務めていることを知っているのだろうか?

;[演出]

;前奥切替

初人 「祝、僕はどうしてその恨みの対象が僕ではなく、璞さんなのか知りたい」

  それは僕の純粋な疑問であった。璞さんを恨む理由なんて、あるのだろうか?

  この質問に対する祝の答えは、さらに僕にとって疑問を感じる発言であった。

;[演出]

;前奥切替

祝 「ワレハ、シッテイル。アラタマハ、ワレラノセカイニ、ユウガイダ」

  璞さんが、このセカイに有害な存在――?

  いや、待って欲しい。我らのセカイ?それは、祝と僕が、まるで仲間のような台詞だ。

  祝と僕が、璞さんを有害だとみなしているような言い方。

  でも、実際には、僕はそう思っていない。これはどういうことだろうか?

  分からない、祝の狙いが。そして毎回のように、『初人、希を手に入れる時だ』と言うのだろう。

  そう、まるで僕が――希んでいるかのような台詞?

  ここまで考えて、1つの、考えたくない道筋を考えてしまった。

  今まで考えないようにしていた、1つの結論。

  けれど、これを回避するのは難しいだろう。僕は、やらなければならないことがある。

;立ち絵消し

;[演出]

;1人表示 祝

祝 「トキハキタ。ウイト、ノゾミヲテニイレルトキダ」

;立ち絵消し

  祝が璞さんに向かって急接近するのが分かる。

  僕のやることはただ1つ、璞さんの前に立ち塞がることだ。

  この身を持って、璞さんを、守る。それは僕のやるべきことではないが、そうする他無い。

;[演出]

;1人表示 初人

初人 「祝!璞さんを傷つける前に、僕を傷つけると良い」

;立ち絵消し

  それが、祝の正体を暴く最善の道だ、と僕は考えていたから。

  現実は非情である。不条理で満ち溢れているのだ。僕は抵抗し、現実を変えようとしたのだ。

;========== ========== ==========

;以下改札シーン。各話同じ文章を使い回すが、一部分は変更する

;BGMOFF

;[演出]

;身体を切り裂く演出

;立ち絵なし

  祝のモノと思われる自我と穢れが、僕の身体を切り裂く。

  僕の身体は後ろに倒れてしまう。良い、これで僕は構わない。

  そう思った刹那、脳内に奇妙な音楽が鳴り響く。

璞 「扉、閉める」

;[演出]

;立ち絵なし

;□背景:市街電車

  この奇妙な音楽は、星の目の前を走る『市街電車』のものだ。

  僕は気づけば、『市街電車』の乗り場から電車の中に突き飛ばされていたのだ。

  しかし気づいた時には、目の前で『市街電車』の扉は閉まっていた。

  また僕は、璞さんの協力を頼るのだな、と理解する。

  僕は『市街電車』でどうすれば扉が開くのか知っている。

  非常ドア開閉装置を作動させればいいだけの話だ。

  閉ざされた扉。出ようとするには開ける他あるまい。

初人 「僕に、扉を開けるペンを!」

;[演出]

;ホワイトフェードアウト

  周囲が白い光で包まれ始めていた。

  そして意識を失ってしまうのだろう。その前に、やるべきことがある。

  僕は倒れかかった身体を起こしながら、必死に光の中へ手をのばす。

  すると、何かを掴む確かな感触がそこにあった。それを思いっきり僕に引き寄せる。

;BGMOFF

;[演出]

;ブラックフェードアウト

;立ち絵なし

;□初人落下EG

  そして。慣れてしまった感覚を僕は全身で感じることになる。

  奈落への垂直落下。例え一時的に希から遠ざかるとしても。

  正しい本、ペン、希を選べば。希へ大きく近づくことができる。

  僕は成長した僕を想像しながら、ゆっくりと目を閉じようとした。

初人 (僕はいつまで改札を使い続けるのだろうか――)

  もしかしたらこれが最後になるのかもしれない。そう、僕が完全な自由になったならば。

  そう考えながら、僕の意識は、奈落へ向かっていったのだった。

;[演出]

;ブラックフェードアウト


*0413

;◇Wito View

;[演出]

;ブラック

  頬のむず痒い感覚によって、僕は起こされた。いつものように起き上がり、あたりを見渡す。

;[演出]

;□背景:駅舎

;もやエフェクト

;通常ADV表示 璞&初人

;♪幻想

  するとそこは、何度も見ている駅舎であった。僕はもう、希が分かっている。

  僕は璞さんがやってくるより前に、駅舎へ歩んでいった。

璞 「待っていた」

  少し進んだ所で、僕は璞さんと出会った。璞さんは今まで、こんな近くに居たのだ。

  それなのに僕は、毎回気づかなかった。璞さんが近寄ってくるまで、ずっと待っていたのだ。

  でも今は違う。僕は、やるべきことがある。

璞 「ここは改札。あなたが希へ向かう切符を出札し、入鋏(にゅうきょう)する場所」

  それは何度も聞いた台詞であった。僕は僕の決意を璞さんに話す。

初人 「璞さん、僕にはやるべきことがある」

璞 「知っている」

  璞さんが無言で空中に手を差し伸べようとして、それを僕は止めた。

初人 「でもその前に、1つ聞かせて欲しいんだ」

璞 「……」

初人 「璞さんの求めていた答えは、これが正解?」

  それは僕が1番、璞さんに聞きたかったことであった。

璞 「あなたは、変わった」

  璞さんは、ただそれだけ答えてくれた。僕が、変わった?確かにそうだろう。

  最初の僕はどうだっただろうか。

  ただ嫌なことから逃げて、苦しみ続けなければならないと呟いていた。

  今は、立ち向かって居る。それだけでも、大きな進歩だと思う。

  けれど。本当に変わったのは、僕だけだろうか?

初人 「璞さんも、ね?」

  それに対し、璞さんは答えてくれなかった。

;BGMOFF

;[演出]

;璞さん変身演出

;♪改札

;1人表示 璞

;制服差分

璞 「これより出札を始めます」

璞 「あなたが列車に乗りたいと希む時、改札員によって改札は開かれます」

璞 「改札を通る為には、本とペン、そして希が必要です」

璞 「改札を通った暁には、その代償として、あなたのどこかに穴が開けられます」

璞 「では、問いましょう。あなたの本は、何ですか?」

初人 「僕の本は、櫂という存在だ。今まで、櫂が全てを導いてくれた」

初人 「最も、最後には……いや、やめておこう」

璞 「あなたのペンは、何ですか?」

初人 「僕のペンは、自我だ。僕は今まで自我をうまく使いこなせていなかった」

初人 「でも、今なら分かる。僕は強力な自我を持つ。穢れをうまく操れる!」

璞 「ならば、あなたの希は何ですか?」

初人 「僕のペンは――祝の存在を、消すことだ」

璞 「理解しました。あなたを、入鋏します」

;立ち絵消し

;[演出]

;はさみをカチカチする

;[演出]

;第4話:足に穴が開く

;立ち絵なし状態

璞 「あなたの足に穴は開いた。さあ、入場しなさい。バブルリングへ!」

;BGMOFF

;[演出]

;立ち絵なし

;ブラックフェードアウト

  僕には、見えた。僕が何をするべきで、僕がどうしなければならないのか。

;[演出]

;□海岸

;1人表示 初人

初人 「確かに僕は、祝の考えているセカイを希んでいたのかもしれない」

  分かる。今の僕には、祝の考えていることも、祝がどうするのかも。

  僕はそれに従って、やるべきことをやればいい。

初人 「でも、今は違う」

;立ち絵消し

;○ムチ効果音?

  僕は強力な光で1本のムチを作り、それを祝に向け、放った。

  祝はそれに気づき攻撃をやめ、かわそうとした。しかし曲がるムチをかわしきれなかった。

;[演出]

;□燃える外套EG

;立ち絵なし状態

;○燃える効果音

  ムチがかすった祝の外套はやがて一部が焦げ、次第に全体が焼け始めた。

  それに気づいた祝は、慌てて外套の火を消そうとするも、間に合わないと悟ったのか、脱ぎ始めた。

初人 「これが、僕の力だ」

  攻撃力など大したことはない。けれど、確かに攻撃をやめさせるもの。

  それが、外套を脱がせることだと僕は考えた。確かに攻撃は止んだ。

;EGOFF

  やがて、祝の正体が現れると共に、ぽつりぽつりと雨が降り始めた。

;[演出]

;雨エフェクト

;□海岸

;[演出]

;□櫂イルカEG

;立ち絵なし状態

;以下第4話加筆部。演出指定手抜き

櫂 「やぁ、初人」

  そこに立っていたのは、いや、浮いていたのは、イルカの姿の櫂であった。

  それは普段他人に見せることのない、本来の櫂の姿。

  櫂は僕と璞さんに、これまでに見せたことのない笑顔を向けた。

  僕はその笑顔の意味を、知っている。

初人 「櫂」

  僕は、半ば知っていた。こういう結論に至ること。こういう結末になること。

  それでも、僕は行動しないわけには行かなかったのだ。

  そして。こうなってしまったことを、僕は反省しなければならない。

櫂 「私は、罪を犯した」

櫂 「私は璞さんを殺そうとした、初人の為ではなく、私の思いで」

  僕の為?櫂の思い?……駄目だ、よく分からない。でも。確実に言えることがあった。

  僕ははっきり言ってしまうべきか迷った。言えば、櫂は多少なりとも傷つくだろう。

  けれど、今言わなくていつ言うというのだろうか。

  もう、この関係に終止符を打つべきなのではないか?

  僕は悩んだ末に今までの僕を脱ぎ捨て、決断した。

初人 「櫂、そんなことは、僕は求めていないよ」

櫂 「知ってる。だから、私は罰が欲しい」

初人 「罰?」

櫂 「そう、私は罰が欲しい、罰が欲しいんだ!」

  櫂の強い思いを、僕は受け取る。

  もしかしたら、僕が辛い思いをしていたように、櫂も辛い思いをしていたのかもしれない。

  今こそ、櫂を解放してあげるべきだろう、鎖を外さなければならない。

初人 「分かった、罰を与えよう」

  僕は懐から、櫂から預かっていた花冠の欠片が入った、ガラスケースをゆっくりと取り出した。

  ガラスケースごしに、櫂と見つめ合う。櫂はまさかという表情で、僕を見つめていた。

  僕は今、そのまさかをしようとしている。勿論どういうことを意味するか、僕はよく知っている。

  けれど、やるべき時は今だ。

  櫂と出会った時に交換したそれを。あの時誓った物を、今こそ!

  僕は少し眼を瞑り、海へ祈りを捧げた。そして。

  勢い良く、ガラスケースを地面に叩きつけたのだった。

  ぱりん、とガラスケースが割れ、中身とガラスが辺りに飛び散る。

  ついに、僕はやってしまった。櫂と僕をつなぎとめるもの。それを、壊してしまったのだ。

  これが櫂を繋ぎ止める鎖であり、櫂をこうさせてしまったこと、そのものであった。

  僕は櫂に罰を与えたのだ。例え櫂がこういうことを希んでいなかったとしても。

初人 「もう櫂は自由だ、飛び立ってくれ。これで純穢ではないことを認める」

  櫂は半ば受け入れられないと言った表情で、僕を見つめた。

  僕も分かっている、こんなことはするべきではないと。

  でも、お互いの為には、これが1番だと思った。

初人 「さぁ、早く」

  僕が1歩、櫂へ踏み出す。櫂は驚き、1歩下がる。それが何度か繰り返される。

  櫂はまだ諦めきれないのか、僕と海を交互に見ていた。

  きっと櫂も、海へ帰るということがどういうことか、よく分かっているはずなのだ。

  僕は残酷なことをしていると思う。あの時も、今も。

  でも、これが間違っているとは思わない。

  櫂をこうさせてしまった僕は、一生このことで苦しまなければならないのだ。

  僕は最後に、大声で叫んだ。

初人 「さあ!」

  櫂が少し震え、俯き、やがて決意した表情で僕を見つめた。

  そして。僕が2度と忘れられない、あの笑顔を見せたのだった。

櫂 「さようなら、初人」

;立ち絵消し

  そう呟くと、櫂は僕から1度視線を逸らし、忘れない為かもう1度僕を見て、やがて海へ帰った。

  僕には何となく、分かった。きっと櫂は、まだ高い希へ向かうことを諦めていないのだと。

  いつか海の向こうで、共に高い希へ向かう時が来るかもしれない。

  その時には、また今までのような関係で居られるのだろうか?僕には分からなかった。

  ふと、ずっと隣に居た璞さんを見た。

  璞さんは少しばかり大きくなった気がする。気のせいだろうか?気のせいなのかもしれない。

  じっと璞さんを見つめていると、璞さんが首を傾げた。その些細な仕草に、僕は驚く。

;[演出]

;通常ADV表示 璞&初人

璞 「これで、良かったの?」

  璞さんがそんなことを聞いてきた。璞さんにとっては、この結末は不満のあるものなのだろうか?

  僕には不満は無い。これで良かった、そう思えるものだった。迷わず僕は答える。

初人 「ああ、これで良いんだ。帰ろうか、僕らのセカイへ」

  璞さんに僕は手を差し出した。きっと、このセカイは……

璞 「うん」

;立ち絵消し

  璞さんの手をとって、僕らは森へ帰っていく。

  僕らのセカイの物語は、まだ終わりではない。これからも、まだ続いていくのだった。

;[演出]

;ブラックフェードアウト




;第4話終了


;【作者から】

;この物語は全6話構成の予定でした。しかし自分は終盤2話の展開に自信をなくし、

;結果伏線を数多く置いてきてしまいましたが第4話で打ち切りました。

;ここまでお読みいただき、ありがとうございました。またどこかでお会いしましょう。

;読了された方へ

; 2016.03.23ことづ





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純穢改札-星とイルカと希む人々- ことづ @kotodu

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