第3話後編

;ここから後編


*0309

;◆標さんが廊下で石と割れた窓を発見する

;◇Tsukushi View

;[演出]

;□背景:標家廊下

;1人表示 標

;♪不安

  私は珍しく考え込みながら、廊下を歩いていた。璞のことだ。

  あの子は、自由になっている。今はまだ、それで構わない。

  けれど、あの子にはまだ希は無さそうだ。

  最終的には、希を決めて完全な自由になるか、そうしない何かになるかを決める必要がある。

  本来、この時期に自我が芽生えることなどありえないことであった。

  けれど、璞は違う。普通のヒトでは、ない。

  璞に転換期がまもなく訪れようとしていることを、私は感じ取っていた。

  そう考えている中、私の足に違和感があった。

  よく見ると、廊下に石が落ちていて、それを踏みつけてしまっていたようだ。

  まさかと思い顔をあげると、予想通りそこには割れた窓があった。

;悲しい表情

標 「また、純穢からの挑戦……」

;立ち絵消し

  こういう被害、そしてこの標塾をやめるヒトが最近増えてきていた。

  それらはいずれも些細なものであったが、やがて些細ではないものが来ると私は予測していた。

  私は石や窓ガラスの破片で新たな窓の一部を作り、それを割れた窓にはめ込んだ。

  今はこうしてごまかすことができる。けれど、やがてごまかせなくなる時が来る。

  私にはそれが分かった。そしてその日が近いことも。

  純穢からの挑戦は至ってシンプルだ。シンプルだからこそ、突き刺さりやすい。

  さらに。純穢は集うとより大きな純穢に膨れ上がる。

  純穢を調整するのは星の役目だが、最近星の方でもうまい策が無く、困っているのかもしれない。

  いずれかの段階で、純穢は飽和し、世界は崩壊する。

  その前に、星は大きな転換期を迎えるだろう。迎えなければ死である。

  最も、あまりヒトのことは言えない。なぜなら。私も――

;BGMOFF

;[演出]

;ブラックフェードアウト


*0310

;◇Wito View

;ブラック

  ここ近日で。僕の櫂に対するイメージが、少し変わり始めていた。

  なんだろう、僕にもあまり良くわからないけれど、櫂が変わったことにより僕も変わった気がする。

  そして、お互いがお互いに対して抱く印象もまた、変わり始めているような気がした。

  もし、自由の烙印を僕が受けなかったら。僕らはこうして過ごしていたのだろうか。

  ふと疑問に思った。そんな疑問に、意味など無いのだけれど。


;[演出]

;□背景:街の中心部

;○賑やかな声

;♪日常

  気が付くと僕らは、街の中心部にやってきていた。賑やかな声が僕らを包み込んでくれる。

  雪がまだ残る道を気をつけて進みながら、僕らは街の雰囲気を楽しんでいた。

櫂 「賑やかだね、こういう空気、私的には好きかな」

初人 「そうだね」

  何気ない会話。深い意味など無い。僕が求めていたのは、こういうことだったのかもしれない。

  思えばいつも、僕は何事にも意味を探し求めていた。

  ある時は自由の意味を。ある時は教育の意味を。ある時は希の意味を。

  そうして僕は、いつの間にか僕自身を追い込んでいたのだと気づく。

  櫂が僕を散歩に誘うようになった訳は、もしかしたらそんな僕への思いやりなのかもしれない。

  だから、櫂には感謝しなくてはならないな、と今日の僕は思う。

初人 「櫂、いつもありがとう」

  隣を歩く櫂の頭を撫でる。櫂は少し驚き、僕をじっと見つめた。

櫂 「どうしたの急に」

初人 「いいや、なんでもないかな」

  何だか僕は恥ずかしくなり、紛らわすかのように首を振った。

  こんな自分が、本当に嫌だと時々感じる。今も、そうだ。

;[演出]

;紙くしゃり

  街を歩く櫂が、1歩前に踏み出しながら、こちらを振り向いてくる。

  危ないと注意しようとしたが、やめた。櫂は、イルカだ。

櫂 「ねぇ初人、キミは、私のことが好き?」

  不意に。櫂がそんなことを聞いてくる。どうしてそんなことを聞くのだろうか。

初人 「さぁ、どうだろう」

  それは櫂を傷つけないようにするための言葉でもある。

  僕は櫂の思いを知っている。櫂と別れる前に、その言葉は聞いている。

櫂 「初人、キミがどう思っているかも知っている。それでも私は、初人が好き、かな」

  僕にはただ、頷くことしかできなかった。頷くこと以外に、僕には何ができるのだろうか?

  櫂の気持ちを受け止める?櫂に正直な気持ちを述べる?どちらも良い結果を生み出すとは思えない。

  僕の複雑な感情をあえて知らないふりをしているのか、櫂は言葉を続ける。

櫂 「初人、キミの為なら何だってするよ」

  何だって。例えば、僕を助けてくれること。例えば、僕の希を叶えてくれること。例えば……

初人 「死んで欲しい、と言ったら?」

;[演出]

;紙くしゃり

  僕は、この言葉を後悔し続けるに違いない。きっといつまでも、結びつけてしまうのだ。

  一種のバブルリングを送ってしまった、と僕は直感していた。けれど、呟いてしまった。

  櫂は少し震えたように見えたが、やがて僕の方へ向き直り、言った。

櫂 「死のうか?」

  その言葉が冗談で言ったものなのか本気で言ったものなのか、僕には判別できなかった。

  例え冗談だとしても、あまり言ってほしくない言葉だったが。

  しかしそれは僕にも同じことが言えるので、黙っておいた。

初人 「無理しなくていいよ」

  やっと紡ぎだすことができたのは、そんな言葉でしか無かった。

  度の過ぎる冗談、に対する冗談と思われるものへ、さらに冗談で返すような僕の性格ではなかった。

櫂 「そう、残念だなぁ」

  残念、という言葉に疑問を感じたが、黙った。やはり、櫂も変わったのだ。

  それにしても、櫂はどうして僕を満たそうとしてくれているのだろうか?

  単純な理由だけなのだろうか?あるいはもっと……

  しかしそれは同時に、僕が未だに満たされていないことでもある。

  僕に欠けているものがあり続ける限り。

  櫂はずっとこのようにして僕を満たし続けるのかもしれない。

  では、僕に足りないモノ――欠けているモノとは何なのだろうか?

  そこまで考えた時、ちょうど櫂が声をあげ、僕の思考は中断された。

櫂 「ねぇ初人、キミも分かる?何かいい香りがするよ!」

  最近の研究によれば、イルカは本来嗅覚が退化しているらしい。

;→出典どこだったか。ADV化時に要調査

  けれど櫂は長くヒトの世界に居る為か、ヒト並とは行かないまでも嗅覚が発達しているようだ。

  そして。櫂が嗅ぎつけたであろう、この乳製品がほどよく焼かれた香りは――

初人 「街のパン屋か、櫂もパンは食べたことがあると思うけれど」

  櫂は僕と長く居たことは、僕も櫂と長く居たことでもある。

  櫂が星でどんな食事をしていたか、僕は知っていた。

櫂 「パンか!初人、ちょっと寄ってみても良いかな」

  こういう時の櫂は意見を変えないこともまた、僕は知っている。

  パンの1つや2つの代金は消費されるだろうが、それで櫂の機嫌が良くなるのなら構わないだろう。

  微笑みながら、僕は櫂と共に店に入ったのだった。

;BGMOFF

;[演出]

;ブラックフェードアウト


*0311

;◇Wito View

;[演出]

;□背景:パン屋

;♪楽しいこと

;1人表示 櫂

櫂 「うわぁ、すごくいっぱいパンがあるね」

  そこは街の中でも比較的小さめパン屋のようだった。店の中は麦の良い香りで充満されている。

  そして山程のパンが、所狭しと棚上の幾多のプレートに並べられている。

  櫂は食い入るようにそれらを眺め、はしゃぎまわっていた。

  店の外の通りを見ると、ここで買ったものと思われるパンを食べているヒトがベンチに居た。

  店に入る前は特にお腹も空いていなかったが、この香りで少しパンが食べたくなる。

  ふと櫂を見ると、様々なパンを見比べて、何が楽しいのか喜んでいた。

  櫂だって、標さんの家でパンは何度か食べているはずだ。

  しかしこんなに沢山の種類のパンを1度に見たことはないのだろう、どうりで興奮するはずだ。

  かくいう僕も、パン屋なるものはかなり久しぶりに見る。

  そういう意味で、この状況は櫂と少し共感できるものがあった。

櫂 「あれも良いな、でもこれも良い香りがするし、これも美味しそう!」

;立ち絵消し

  既に買う前提になってしまっているが、この香りでは仕方ないだろう。

  とはいえ。大量にパンを買われたら、財布の生命が無い。僕は櫂にそっと伝える。

;[演出]

;通常ADV表示 初人&櫂

初人 「櫂、沢山買うお金は無いから、1つか2つに絞って欲しいのだけど」

  ヨノナカに沢山の本はある。けれど、それらを全て実際に希にするのは、困難だ。

  僕らはトングで本を選択し、希にしなければならないのだ。

  しばらく櫂は店の中をぐるりと回り、悩み続けた。

  そして、あるパンのプレートの前で立ち止まり、僕の方に声をかけた。

櫂 「あっ、ならこのパン食べたい」

  櫂が1つの惣菜パンのプレートを指差す。

  そんなに高いパンでも無く、十分に買える値段であることを確認した僕は、安心した。

  こんなパンの1つや2つくらいなら、全く問題ない。僕はゴーサインを出す。

初人 「そう、なら買おうか」

;立ち絵消し

  そこで初めて、僕がお盆やトングを持っていないことに気づいた。

  店の入り口を見ると、お盆とトングが並べられている。

  恐らくこのお店でも、お盆に買いたいパンを並べて会計するのだろう。

  となれば。櫂にそのことを伝え、櫂自身でそれをやってもらえば、良い経験になるだろう。

  そう考え、櫂を呼び止めようと振り向いた刹那、僕はありえないものを眼にしてしまう。

;[演出]

;□■櫂がパンをその場で食べるEG

;立ち絵なし状態

;♪はちゃめちゃ

櫂 「はむっ、ん~このパン美味しい!初人、これ美味しいよ、キミも食べなよ」

  そこでは、櫂が素手でパンを掴み、むしゃむしゃ食べ始めていた。

  さらに素手で他のパンを食べようとしているばかりではなく、1つパンを取って僕に差し出してきた。

  驚きの余り、反応が遅れる。僕は叫んだ。

初人 「動くな、櫂」

  櫂は驚いて手を止め、僕をじっと見る。その眼は純粋であった。

  ナニカ、ワルイコト、シタ?と眼で合図を送ってくる櫂。僕は深呼吸をし、状況を確認した。

  櫂が既に食べ終わっているパンが1つ、食べ始めようと手に持っているパンが1つ。

  僕に食べさせようと差し出しているパンが1つ。

  そしてふと棚のプレートを見ると、櫂が漁っていたのか汚れているパンが数個あることに気づく。

  幸いにも、パン屋に他のお客さんは居なかった。そして、お店のヒトがこちらをじっと見ている。

初人 「すみません、これらのパンはいくらでしたか」

  僕はお店のヒトに、頭を下げてそう言う他無かった。

;BGMOFF

;EG消し

;[演出]

;ブラックフェードアウト


*0312

;◇Wito View

;[演出]

;□背景:街の中心部

;○賑やかな声

;♪日常

  お店のヒトに何度も頭を下げながら。僕らは再び街の通りに出た。

;[演出]

;通常ADV表示 櫂&初人

櫂 「初人、ごめん」

  さすがに櫂にも、悪いことをしてしまったという自覚はあるのか、僕に頭を下げた。

  櫂に頭を下げられている姿を師にでも見られたら、どんな刑を受けることになるだろうか。

  そうでなくても、街中で他人に頭を下げさせているヒトというのは注目されてしまう。

  僕は櫂の頭を無理矢理上げさせた。

初人 「気にしないで良いから。でも次はやめて欲しいかな」

  パン屋で済まされたからまだ良かったが、これを高級なお菓子屋でやられると財布から血が出る。

  とはいえ、そもそも散歩に行かなければ。

  あるいはきちんとヒトの常識を与えていれば。こんなことは起こらなかったのだ。

  そこは今後僕の反省するべき所なのだろう、とココロのメモに書き込んでおく。

  僕は変わった。けれど、僕はもっと変わらないといけないのだ。そう決意した。

  僕は満足して、見失っていた。希を叶えること、そしてその希の為に必要なものを。

  変わることは、希に近づくことではあるけれど、希ではない。

  そんな単純なことでさえ、僕は分からなくなっていたのかもしれない。

  それにしても、健全な状態で街を歩くのと、罪を持って街を歩くのとでは大きく違うものだと思う。

  先程まで賑やかで喜ばしい物のように思えた喧騒も、今となっては鬱陶しいものになっていた。

  まるで僕らが責め立てられているかのような感覚に陥る。

  主観でこれだけ変わるのだから、世界とは恐ろしいものだ。

  あるヒトにとっては良いものでも、あるヒトにとっては悪いものと捉えられてしまう。

  しかしそれは半ば仕方のないことでもあった。

初人 「少し、街から離れようか?」

  幸いにも櫂も同じような感覚に陥っていたのか、櫂は少しの間があったものの、頷いた。

櫂 「初人、キミの言う通り、それが良いかもしれないね」

;立ち絵消し

  ふと。街への印象が変わると同時に、何か視線を感じてしまう。

  今まで気づかなかったのが不思議なくらい、注視されているような。

  櫂もそれに気づいたのか、僕らは同じ方向を向いていた。

;[演出]

;1人表示 璞

璞 「……」

  そこに居たのは、璞さんであった。どうやら璞さんも街へ出ていたらしい。

  何をしていたのかは分からないけれど、標さんの言っていたようにするべきだろう。

  つまり、璞さんを標さんの元へ行くよう促すべきだ。

;立ち絵消し

;[演出]

;通常ADV表示 初人&璞

初人 「璞さん、そういえば標さんが探していたよ、行かなくていいの?」

  すると璞さんは、いつもと同じ表情で、呟いた。

璞 「大丈夫」

  大丈夫と本人が言う以上、僕らはそれを受け入れる他無いだろう。

  それならどうしたものか、と僕は悩み始めたその時、璞さんが口を開いた。

璞 「ついていく」

  突然のことで、僕は驚いた。正直、璞さんはヒトと一緒にいるのを嫌うとばかり思っていたからだ。

  何か気が変わることでもあったのだろうか?

  あるいはただ単純に、街を1人で歩くことが怖くなったのだろうか?

  もしかしたら、璞さんもただ単に散歩していただけで用事など無いのかもしれない。

  だから僕らについてくるのかもしれない、そんなことを考えた。

  どれが正解なのか分からないし、どれでもないのかもしれない。

  だが、璞さんが居たとして、害になるようなことは無い。

  僕と櫂は顔を見合わせたが、お互い璞さんが居ても構わないという顔で頷きあった。

初人 「僕らはちょうど街から出ようと思っていたけれど、特に行き先があるわけじゃないんだ」

初人 「どこか璞さんの行きたい所があれば、そこまで一緒に行こうか」

  街以外の場所となると、海くらいしか無いと思うし、璞さんもそう答えるのではないか?

  僕はそう考えたが、これはあくまでも形式的なものだと納得する。

  璞さんは特に迷いもせずに、予想通りの言葉を呟いた。

璞 「海」

初人 「よし、それなら近くの砂浜へ行こう」

;立ち絵消し

  この冬は海へ行く回数がやたら多いな、と余計なことを考えながら、僕らは海へ向かったのだった。

;ブラックフェードアウト



*0313

;◇Wito View

;◆櫂、璞、初人の3人で海を眺める

;[演出]

;□背景:海岸(昼)

;○さざなみ

  冬の海というのは、静かなものだ。ただでさえ静かな海が、空気が澄んでより静かになる気がする。

  たぶん、僕らは海のそういう所が好きなのではないかと思う。

  僕らは何も言わずに、砂浜と森の境界を歩いていた。

  ただぼんやりと。さざなみを聞きながら、その時は何も考えずに歩いていた。

  やがて、砂浜のある場所で止まり、僕らは座りこんで海を眺めた。

  こうして落ち着いて誰かと居られるのは、平和だ。

  僕は、本当はこういう日常を求めていたのかもしれない。

  でもそれは、今となってはの話だった。もう、後には戻れない。そう、あの時覚悟したから。

初人 「そういえば、どうして標さんが何故璞さんを呼んでいたの?」

  ふと。僕が思い出したかのように璞さんに話しかける。

  勿論、璞さんは知らないだろうと僕は思っていた。

璞 「多分、外出禁止令」

  外出禁止令?標さんは璞さんに、外出をするなと言いたいのだろうか?僕には理由が分からなかった。

  例の不審者の話なら、璞さんなら解決できる自我があることが分かっている。

  それとも、体調が優れないのに璞さんが外出してしまっているのだろうか?

  あるいは、標さんは祝の存在を知っていて、それを心配しているのだろうか?

初人 「どうして?」

  すると璞さんは、ただ一言ぽつりと呟いてくれた。

璞 「危ないから」

  あまり詳しくは言いたくないのだろうか、あるいは単純に詳しく知らないのだろうか。

  詳しくないのであれば、標さんによる璞さん外出禁止令が発令されることも知らないはずだ。

  ということは、詳しく僕には言いたくないようだ。

  それとも僕が知るべきではないことなのだろうか?

  こういう時に、僕が自由として言うべき言葉が存在する。

初人 「僕と居れば、大丈夫だと思うよ」

  一応僕は自由だ。自我が扱える。例えその自我が、光と熱しか操れないとしても。

  考えながら、僕という存在がいかに無力なものか実感した。

  そして同時に。璞さんから会心の一撃を僕は食らうことになる。

璞 「嘘」

;立ち絵消し

  璞さんにそう言われると、何も言い返せない。現に、璞さんの自我の方が強力だろうから。

  再び海岸に沈黙が訪れる。いつもの僕なら、ここで無理に言い返すのかもしれない。

  けれど、そうするのは僕にとって不利益だと最近学んだ。

  その後に交わされるのは、僕をより不利益にする正論。

  僕はそれに打ち勝てるほどの実力は、まだ無い。だからこそ、変わらなければならない。

;[演出]

;通常ADV表示 櫂&初人

櫂 「初人、キミは変わったね」

  そんなことを思っていると、唐突に、櫂がそんなことを言い始めた。

  櫂にしてみれば、僕が『嘘』と言われて何も言い返さないのが不思議なのだろうか?

  しかし、どうやら少し違うようだった。

櫂 「今までの初人なら、絶対に海へ来なかったと思う」

  それは櫂なりの、問いかけだったのだろう。あるいは、何かを諭す行為。

  しかし、果たしてそうだろうか?街が嫌になったから海に行くことは、自然な流れのように感じる。

  けれど確かに、海岸とはイルカとヒトの境界である以上、本来気にするべき所だった。

  櫂と思っていることが違う可能性を考慮して、僕は櫂に尋ねた。

初人 「それはどうして?」

櫂 「それは、初人、キミにも分かっているんじゃないかな?」

  櫂にはどうやら、僕の思考が理解されているらしい。

  僕は、少し不自然だなと思った。櫂の真意を探るべく、僕は櫂に質問をした。

初人 「もし僕が分かっているとしたら、櫂はどうする?」

  そう言うと、櫂が少し考えこみ、黙りこんでしまう。

  ふと、璞さんが海ではなく僕と櫂を見ているのに気づいた。

  璞さんも、ひょっとしなくても僕の思考が分かるのかもしれない。

  改札を取り仕切ることができる以上、そうであってもおかしくないと僕は考えた。

  でも。そうだとしたら、何故璞さんは共に海へ行くことを了承したのだろうか?

  璞さんにも、何か意図があるのかもしれない。

  そして、櫂が考えをまとめたのか、僕に向き直るのが見えた。

櫂 「私は、初人、キミを信じているよ」

  櫂は、もしかしたら僕の全てを分かっているのかもしれない。何度も考えた思考を再びしてしまう。

  その答えはいつも分からないままであった。今もまた、同じ結論を出そうとしている。

  僕はただ、それに対して頷くことしかできなかったのだ。

初人 「……そう」

;立ち絵消し

  僕は本当の所、櫂はさておき、璞さんを帰らせるわけには行かなかったのだ。

  璞さんには危険なことだけれど、僕はもっと、変わらないといけない。

  今まで何もできなかった僕は、代わりに急激な変化を成し遂げたかった。

  例え僕が、滅びてしまったとしても。僕は、この現状を変えたいと願っていた。

  その刹那。僕の求めていたものがやってくるのが見えた。

;[演出]

;1人表示 初人

初人 「祝!」

;立ち絵消し

  僕は視界に映る求めていた姿に、歓喜したのだった。

;[演出]

;ブラックフェードアウト



*0314

;◇Wito View

;[演出]

;□背景:海岸

;♪危機

;1人表示 祝

  祝の襲撃は、今回で3度目になる。その正体が何であるのか、未だに僕は掴めていない。

  1度目は僕を、2度目は師を襲った祝。3度目となる今回は、櫂か、璞さんか。

  厄介なことに、今回は体力の無いに等しい璞さんが居る。

  僕が少し怪我をする程度の傷でも、璞さんにとっては恐らく致命傷だろう。

  仮に祝が璞さんを襲ったとしたら。僕は本当に見捨てなければならなくなるかもしれない。

  そこまで考えて、そんなことを考えている僕に恐怖した。

  祝の様子を伺うが、特に動きは無いようだった。

祝 「……」

;立ち絵消し

  何かがおかしい、そう直感した。まるでそこには空虚なものがあるかのような。

  しかし何があってもおかしくないのは確かだった。

  初回に祝と遭った時、僕は近寄ってくる気配に気づくことができなかった。

  祝が新たな手で出てくる可能性も十分に考えられるだろう。僕は警戒する。

  そっと自我で穢れを操作し、にらみ合いの中、楕円周上に光球を置くことに成功した。

  勿論それは祝の背後を通るような楕円周上だ。

  祝の動きの詳細が読めなくても、この光を遮る方向を特定すれば、祝の来る位置が分かる。

  自我で光と熱の穢れを操ることができる自分にとっては、視力よりも確実に読めるものだった。

  そして。祝が動き始めるのが見えた。

  読めた。正面から斜め左へ、遮られる光が移動していく。その方向には、櫂が居る。

  僕はほっとしていた。櫂なら、祝の攻撃をきちんと避けられる自我がある。

  だって櫂は、イルカなのだから。

  ――その安心が、致命的だった。

;BGMOFF

;[演出]

;1人表示 櫂

;♪別れ

櫂 「!!」

  櫂は、何か考え事をしていて祝の行動を読めなかったのか、祝が接近していることに驚いている。

  櫂、驚いている場合ではない。避けなくては、櫂自身が怪我をしてしまう。

;立ち絵消し

;[演出]

;□背景:森

;前奥表示 櫂&初人

初人

櫂 「初人、やっとキミの希むセカイが分かった気がするよ」

  ふと。櫂がそんなことを言っていたのが聞こえる。

  これは、いつの話なのだろうか。いつでもない、ただの幻覚なのかもしれない。

  あるいは、櫂が見せた、僕に向けたメッセージなのかもしれない。

  けれど、恐らく櫂が僕の希むセカイが分かったのは本当なのだろうと思う。

;[演出]

;前奥切替

初人 「僕の、希むセカイ――?」

  櫂。僕も、僕の希むセカイが分かった気がするんだ。今なら、やっと分かる。

  僕が今まで希んでいたセカイには、あるものが足りなかったんだ。

  だから僕は満たされていなかった。希むセカイまで程遠かった。

  そのせいで、もしかしたら祝は櫂を襲ったのかもしれない。

  そう、僕が希んでいたのは、櫂の居ないセカイだったんだ。

;[演出]

;前奥切替

櫂 「うん、でも初人、それを作る為にはキミの協力が必要だ」

  僕の協力が必要?何か協力すべきことなどあっただろうか?

  確かに、櫂は僕の希むセカイを作ると言ってくれた。

  それが叶えたら、ずっと櫂と一緒に居るのだ、と。

  勿論僕にとってはそんなこと夢だった。櫂には叶えられないと思っていた。

  もしかしたら、僕はその時点で希んでいたセカイのことを薄々分かっていたのかもしれない。

;[演出]

;前奥切替

初人 「僕の、協力?」

  けれど、実際には僕の希んでいたセカイと櫂の希んでいたセカイは矛盾していた。

  同時に存在できるものでは無い。そう分かったんだ。違うかな?櫂。

  それなのに、どうして櫂はまだそんなことを言うのか。それが理解できなかった。

  櫂にはそれを同時に存在させる方法があるというのだろうか。

  それに。僕はもう――

;[演出]

;前奥切替

櫂 「初人、キミは純穢?それとも自由?」

  ふと。櫂がそんなことを僕に質問した。答えは、ずっと前から決まっている。

  櫂に会った時から、僕は自由になったんだ。

  だから櫂が見ている僕は、最初に出会った時以外、自由である僕のはずだ。

  そのことは櫂も分かっているはずだ。

;[演出]

;前奥切替

初人 「僕は自由だ」

  自由の烙印を星からもらい、星で生き、星を出た、光と熱の穢れを操る自由。それが僕だ。

  僕はただ、何も考えずにそう答えていた。

  この時は、櫂が何故そんな質問をしたのかなど深く考えたりせずに。

;[演出]

;前奥切替

櫂 「……初人、私は、純穢になろうとしている」

  櫂が、純穢?どういうことだ、櫂は自由ではなかったのだろうか。

  櫂はイルカだ。イルカは自我で穢れを操ることが出来る。そういう存在だ。

  でも、もし櫂が純穢になろうとしているのだとしたら。

  櫂は、穢れを操ることを放棄しようとしていることになる。

  それが意味すること。それは、櫂がイルカであることをやめるということ。

;[演出]

;前奥切替

初人 「櫂、それはどういうこと?」

  僕には分からなかった。櫂が純穢になる、メリットが。

  僕はそんなことをもう希んではない。もうそんなセカイを希んでなんか、居ないんだ。

  櫂が知った僕の希むセカイは、確かに正しかった。

  でもそれは、たった今、変わってしまった。だから、僕にそれはできない。

  けれど。櫂の返答は確かなものを掴ませてくれなかった。

;[演出]

;前奥切替

櫂 「自由であるキミなら、きっとできる。さよなら、初人」

  自由である僕なら、櫂にどんな協力が出来るというのか?

  そんなこと、何であっても僕にはできない。櫂を純穢にする為の協力なんか。

  しかし、櫂はそれだけ言うと、急にこのセカイから去り始めた。

  僕はもう2度と、櫂の姿を見ることができないのか?そんなこと。そんなこと!

;[演出]

;前奥切替

初人 「少し待ってくれ、僕は、櫂のことを――!」

  櫂のことを?僕は、櫂をどう思っているのか?

;立ち絵消し

;[演出]

;ブラック

;立ち絵なし

;以下フラッシュバック

;↓第1話前編より

櫂 『ワガママだって分かっている。けれど、叶うならこれからも一緒に居たい』

  どうしてだろう、次の僕は櫂との思い出を見ている。

  これが、まさか櫂との最後の別れになってしまうのだろうか。

;ホワイト

;[演出]

;立ち絵なし

;ブラック

;↓第1話前編より

櫂 『そんなこと、キミの口から言ってほしくないな』

  なら、僕は一体どうすれば良いんだ?僕は櫂に問いかけたかった。

  櫂が居なくなった世界。それは本当に僕が希むセカイなのだろうか?

;ホワイト

;[演出]

;立ち絵なし

;ブラック

;↓第3話前編より

櫂 『初人、キミは私に何を希む?』

  その櫂の言葉を思い出してしまった。

  僕は、櫂を失うことを希まない。希みたくない!

初人 「櫂――――!」

  現実は非情である。不条理で満ち溢れているのだ。僕は抵抗した。それが叶うかなど考えもせず。

;========== ========== ==========

;以下改札シーン。各話同じ文章を使い回すが、一部分は変更する

;BGMOFF

;[演出]

;身体を切り裂く演出

;立ち絵なし

  祝のモノと思われる自我と穢れが、櫂の身体を切り裂く。

  櫂の身体は後ろに倒れてしまう。あぁ、これだから僕は、もうダメなのだ。

  そう思ってしまったその時、脳内に奇妙な音楽が鳴り響く。

璞 「扉、閉める」

;[演出]

;立ち絵なし

;□背景:市街電車

  この奇妙な音楽は、聞いたことのある、『市街電車』のものだ。

  僕は気づけば、『市街電車』の乗り場から電車の中に突き飛ばされていたのだ。

  しかし気づいた時には、目の前で『市街電車』の扉は閉まっていた。

  そうか、璞さんが協力してくれたのだな、と理解する。

  僕は、『市街電車』でどうすれば扉が開くのか知っている。

  非常ドア開閉装置を作動させればいいだけの話だ。

  閉ざされた扉。出ようとするには開ける他あるまい。

初人 「僕に、扉を開けるペンを!」

;[演出]

;ホワイトフェードアウト

  周囲が白い光で包まれ始めていた。このままでは、意識を失ってしまう。

  僕は倒れかかった身体を起こしながら、必死に光の中へ手をのばす。

  すると、何かを掴む確かな感触がそこにあった。それを思いっきり僕に引き寄せる。

;BGMOFF

;[演出]

;ブラックフェードアウト

;立ち絵なし

;□初人落下EG

  その刹那、僕は3度目でも恐怖する感覚を全身で感じることになった。

  奈落への垂直落下。それは一時的に希から遠ざかっていくことを意味するのだと知っている。

  正しい本、ペン、希を選べば。希へ大きく近づくことができる。それが改札なのだ、と。

  僕はふんわりとした地獄を味わいながら、ゆっくりと目を閉じようとした。

初人 (僕は希を叶えることができるのだろうか――)

  もしかしたらできないのかもしれない。そう、誰かが犠牲にならなければ。

  そう考えながら、僕の意識は、奈落へ向かっていったのだった。

;[演出]

;ブラックフェードアウト


*0315

;◇Wito View

;[演出]

;ブラック

  以前のように、頬のむず痒い感覚によって、僕は起こされた。

  僕はいつの間に寝てしまったのだろう、という疑問とともに起き上がり、あたりを見渡す。

;[演出]

;□背景:駅舎

;もやエフェクト

;立ち絵なし状態

;♪幻想

  するとそこは、やはり駅舎であった。僕には1つの希が見えていた。

  だが、それは見える目前で立ち止まった。

璞 「ここは改札。あなたが希へ向かう切符を出札し、入鋏(にゅうきょう)する場所」

初人 「璞さん、そこに居るんだね。僕は、櫂を救いたい」

  例え櫂が罪を犯していたとしても。僕は櫂を救いたかった。

  それはココロからの思い。芯の部分では変わらない、変えられないモノであった。

  しかし、璞さんは少し黙りこんでしまう。いつものことのように見えるが、僕は不安だった。

  何も話したくない、ただそれだけで黙り込んでしまっているのだろうか?

  あるいは、何かを話すべきか否か悩んでしまっているのか。

  もしかしたら、いつも悩んで黙ってしまうのかもしれない。もしそうだとしたら。

  少しして、璞さんの口が開いた。僕は緊張する。

璞 「あなたの希は、本当にそれ?」

  その言葉に、僕は驚かされた。これ以外に、僕の希むべきものがあるということだろうか?

初人 「どういうこと?」

  僕が尋ねると、璞さんはやはり少し黙りこみ、やがて答えてくれた。

璞 「あなたは、まだ知らないことがある。それを踏まえて、本当に希はそれでいいの?」

  僕の、知らないこと。例えそれがあったとして、櫂を救いたいという気持ちは変わるだろうか?

  ――あるいは、櫂を救えないことは確定してしまっているというのだろうか。

  櫂を救えない、そのことを僕は知らないと璞さんは言いたいのだろうか。

  璞さんの方を見ても、それ以上何も言ってくれなかった。

  恐らく、璞さんにしては言いすぎてしまったのだろうと推測する。

  今の璞さんは、出会った当初と見た目は変わっていなくても、中身は大きく変わっている。

  そうでなければ、僕が何かを知らないなんてこと、話さないはずだ。

  それにしても。確かに僕の知らないことは山程あるはずだ。

  けれど。本当に僕は全てを知らなければならないのだろうか?

  きっと。僕が知らないことは、櫂を救えないことなのだろう、と判断する。

  でも、もしそうだとしたら。僕は果たしてそれを受け入れられるだろうか?

  櫂を救えないのだとしたら。僕の希は――

初人 「璞さんの言いたいことは分かった。僕は全てを知るわけではない、そうだね」

  璞さんは、何も言わずに手を伸ばした。

;BGMOFF

;[演出]

;璞さん変身演出

;♪改札

  その刹那、幾多の光の粒が璞さんの指先から溢れだし、璞さんの服を変えていった。

;1人表示 璞

;制服差分

璞 「これより出札を始めます」

璞 「あなたが列車に乗りたいと希む時、改札員によって改札は開かれます」

璞 「改札を通る為には、本とペン、そして希が必要です」

璞 「改札を通った暁には、その代償として、あなたのどこかに穴が開けられます」

璞 「では、問いましょう。あなたの本は、何ですか?」

初人 「僕の本は、璞さんだよ。さっきの忠告で、やっと僕は気づくことが出来た」

初人 「璞さんのおかげで、僕は正しい道を選べると思う」

璞 「あなたのペンは、何ですか?」

初人 「僕のペンは、僕自身だ。本だけではない、僕の選択と行動が、希への鍵なのだと思う」

璞 「ならば、あなたの希は何ですか?」

初人 「僕の希は――」

初人 「僕が、櫂の代わりに犠牲になることだ」

璞 「理解しました。あなたを、入鋏します」

;立ち絵消し

;[演出]

;はさみをカチカチする

;[演出]

;第3話:腹に穴が開く

;立ち絵なし状態

璞 「あなたのお腹に穴は開いた。さあ、入場しなさい。バブルリングへ!」

;BGMOFF

;[演出]

;立ち絵なし

;ブラックフェードアウト

  その刹那。僕は、改札へ到達する時よりも段違いの、痛みを感じていた。

  この痛み、尋常じゃない。恐らく人生で、1度しか味わうことのない痛みであった。

  即ち。犠牲であった。

櫂 「初人っ、初人――――!」

  遠くで櫂の声が聞こえる。そして、僕は悟った。

  僕は、櫂を救うことができたのだ、僕が犠牲になる代わりに。

  僕が知らなかったのは、櫂を救えないことではない。

  希には誰かが犠牲にならなければならない、ということだったのだと気づいたが、既に遅かった。

  痛みで意識が遠のく中、僕は本来の目的を忘れ、櫂が幸せになることを、希んだのだった。


;(ED)


*0316

;◇Ikusa View

;[演出]

;□背景:海岸

;1人表示 師

;♪危機

師 「見つけたぞ、あれが祝か」

;立ち絵消し

  草むらから初人が祝に傷つけられるのを見て心配になっていたが、今はその場合ではない。

  初人の応急手当は櫂やあの純穢がやってくれるだろう。俺の役目は、祝を追うことだ!

;1人表示 祝

祝 「……」

;立ち絵消し

  どうしたのだろうか、祝は無言で、俺のすぐ隣を、俺など居ないかのように通り過ぎていく。

  俺はその後ろを静かについていこうとしたが、かなりの祝はかなりの速さで走り去っていく。

  俺は足音をたてずについていくことができなかった。

  祝は後ろから追いかけられていることを気にしていないのか、猛スピードで去っていこうとする。

;[演出]

;立ち絵なし状態

師 「待てっ!」

;BGMOFF

  その刹那であった。それは、俺の予想よりも遥かに悪い結論であった。

  海岸すぐ近くの、光の差し込む森の広場で、俺は衝撃を受けたのだった――

;[演出]

;ブラックフェードアウト

;第3話終了

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます