第3話「私は犠牲を知らない」

第3話前編


*0301

;◇Wito View

;[演出]

;通常ADV表示 櫂&初人

;□背景:標家講師室

;○扉を開ける音

  標さんの授業に出ようと支度をしている時、講師室に櫂が入ってきた。

櫂 「初人、キミは今日も授業へ行くの?」

初人 「勿論。まだまだ僕は未熟だから、学ぶべきことは沢山ある」

櫂 「そう、暇だからその辺ぶらついてるね」

;立ち絵消し

  あの日からというもの、櫂は全ての授業に出なくなった。

  それよりも、この寒い中外を出歩いていることが多いようだ。

  個人的にはまた櫂が何か事件を起こさないか心配だった。

  しかし、かと言って授業に出て櫂がまた傷ついてしまうのは避けたかった。

  神話に関係ない授業には誘うべきだろうが、今日の授業は残念ながら神話についてだ。

  1つため息をつき、僕は話題を変えることにする。

;[演出]

;通常ADV表示 初人&櫂

初人 「そういえば櫂、あれから師に会わなかったか?」

  櫂に確認したいことがあった。それは師と会ったかどうか、だ。

  師にこの場所が判明されたら、僕はここを出なければならなくなるだろう。

  櫂のことだから尾行などに気づけば撒いてくれるだろうが、少し心配だった。

櫂 「会ってないよ。初人、もしかしてキミは会ったの?」

  会った事自体は、櫂に隠すことではないだろう、と僕は判断した。

  けれど、祝のことは話すべきなのだろうか?少し悩んだ。

  いや、やはり言うべきではない。櫂に余計な心配をさせるべきでは無いだろう、と考える。

初人 「ああ、会ったよ。連行されそうになったが、師を説得して、何とか連行されずに済んだ」

  別に間違ったことは言っていない。全てを話しているとは言っていないけれど。

初人 「ここも、いつか出なければいけなくなるかもしれない。標さん達に迷惑はかけられないよ」

  それは僕の心配していることの1つだった。万が一、師がここに強行突入したら、の場合だ。

  もしかしたら純穢達を怯えさせてしまうかもしれない、標塾の評判を下げてしまうかもしれない。

  僕の身が拘束されるだけならまだしも、それによって起こりうることが怖かった。

櫂 「そうだね」

  櫂もそれが分かっているのか、やや下を向きつつも頷いてくれた。

  しかしやがて櫂は僕の方へ向き直り、微笑んだ。

櫂 「それじゃ初人、また後でね」

;立ち絵消し

  まるで何事も無かったかのように、くるりと後ろを向いて、櫂は去っていった。

;[演出]

;ブラックフェードアウト

;○扉を開ける音

;通常ADV表示

  櫂と入れ違いになるようにして。標さんがこの部屋に入ってきた。

  標さんは少し櫂の方を見たものの、すぐに僕の方へ向き直り、いつもの質問をする。

標 「初人さんは、次の授業には参加されますか?」

  ここに来てから、幾度となく投げかけられている言葉。

  それに対し、僕はいつも通りの答えをした。

初人 「はい、すぐに準備しますね、すみません」

  表面上だけの会話。その奥に隠された意味など、僕が見出す必要もない。

  しかし、今日の標さんはそれに1つ言葉を付け加えた。

標 「今日の授業は、初人さんにしてもらおうと思いまして」

  前回の授業の冒頭でも、聞かれた言葉だった。

  前回は突然すぎて、対応できないと判断して辞退した。しかし、今は違う。

初人 「僕が、ですか?分かりました」

  僕は冷静を装う。半分違ったが、確かに半分は冷静であった。

  こういう時があるだろうと思って、よく予習しておいてあったからだ。

  もっとも幼い頃から何百と聞かされていることもあり、暗記はしていたが。

;[演出]

;ブラックフェードアウト



*0302

;◇Wito View

;[演出]

;□背景:標家教室

;○扉を開ける音

  いつも標さんの立つ場所に僕が立ち、いつも僕が居る場所に標さんが座る。

  それはやはり、僕にとって不思議な感覚であった。これからはこれに慣れねばならない。

  純穢達の視線が集まっている。僕自身が、少し緊張しているのが分かった。

  少しだけ目を閉じ、ゆっくりと息を吐いた。うん、これでもう大丈夫だろう。

  標さんがゆっくりと頷いてくれた。始めても構わないという合図だろう、と判断する。

初人 「さて皆さんは『イルカの物語』など所詮作り話で、何の参考にもならない、そうお考えですか」

初人 「僕はそう思いません、イルカとヒトの今後の関係を左右するヒントが隠されている」

初人 「あくまで僕個人の考えですが、そう思います」

初人 「皆さんも、『イルカの物語』を通して、生きるヒントを見つけてみましょう」

  標さんの見守る中、僕はゆっくりと神話を紡ぎ始めたのだった。

;♪イルカの物語

初人 「それでは、今日は『イルカの物語』の最後の章とされるものをおさらいしましょうか」

初人 「純穢とイルカの間に大きな隔たりが出来てしまってからしばらくして、純穢は悩みました」

純穢 『どうしてイルカのことを傷つけてしまったのだろう?』

初人 「純穢は少しだけ『穢れ』を操ることができるようになったので、」

初人 「今までよりもずっと楽な生活をすることができたのです」

初人 「そのことをイルカにお礼し、そしてイルカに騙されたと思って殴ったことを謝らないといけない」

初人 「そう純穢は思いました」

初人 「その頃、イルカも悩んでいました」

初人 「純穢に星の砂を与えてしまったことで、純穢が悪さを始めないか心配だったのです」

初人 「イルカの方が力は強いとはいっても、いつ純穢が悪知恵を働かせてしまうのではないか」

初人 「そしてイルカに襲いかかってくるのではないか」

初人 「不安な生活を送るのは、イルカはとても嫌だと考えました」

初人 「そこで、イルカは純穢のところへ行き、純穢の悩みを解決する代わりに」

初人 「ヒトの身体の中に含まれている星の粉を返してもらおうと考えました」

初人 「そうと決まればすぐに行動しなければいけません。イルカは純穢の元へ行き、純穢に聞きました」

イルカ 『ねえ、何か悩みは無い?』

初人 「純穢はイルカに言いました。『自分が愚かなことが悩みかな』」

初人 「その悩みを聞いて、イルカはぽんと手をたたきました」

初人 「純穢から『穢れ』を取り除かなくても、純穢に賢さを与えればそれほど悪さをしないだろう」

初人 「そう考えたからです」

初人 「イルカは自分の持っている知識を毎日少しずつ純穢に教え、」

初人 「『穢れ』を取り除く代わりに純穢の悩みの解決に手助けをしました」

初人 「そうして純穢とイルカの隔たりは縮まっていったのでした――おしまい」

  その時、それを聞いた1人の純穢が僕に質問をしてきた。

純穢 「え、でも、今はイルカとの隔たりが広いと思います」

  それは僕が長年抱えている疑問であった。僕と同じように、この純穢も疑問に感じているのだ。

  しかし僕には答えを提示することができない。その答えは、今日、誰も知らないはずだ。

初人 「そうですね。神話はここでおしまいですが、実は続きがあるのではないかと僕は思っています」

  僕は純穢に、バブルリングを提案をしたのだった。

初人 「その続き、今日は皆さんで考えてみましょうか」

;BGMOFF

;[演出]

;ブラックフェードアウト

; (OP)


*0302

;◇Wito View

;[演出]

;□背景:標家廊下

;細かい演出要検討

;通常ADV表示 標&璞

  授業を終え、僕と標さんは講師室に戻ろうと教室を出て廊下を歩いていた。

  すると、教室を出てきた璞さんがこちらを震えながら、じっと見つめていた。

  そのことに気づいた僕は立ち止まり、標さんに用事があるのだろう、と先を行く標さんに声をかけた。

  標さんは璞さんの様子に気づき、慌てて璞さんの元へ駆けつけた。

標 「どうしたの?」

  標さんの心配そうな声に、璞さんの震えは少し収まった。

  が、その後僕はとんでもない言葉を耳にすることとなった。

璞 「初人、星」

  突然の発言に、僕は驚きを隠せなかった。教材を落としそうになり、さらに慌てた。

  そうか、璞さんは改札したのだから昨日の一部始終を知っているはずだ。

  となれば。僕が星であったことも当然知ったはずであった。

  しかし、それを璞さんが標さんに告げるなどとは、全く考えていない愚かな僕が居た。

  標さんがもし星であった僕を受け入れないヒトであれば、僕はここから出て行かなくてはならない。

  覚悟を決め始めた僕に、標さんは微笑んだ。

標 「あぁ、やはりそうでしたか」

  やはりそうだった、ということは前々から僕が星であったことを分かっていたということになる。

  分かっていたなら、何故僕を追い出したり罵ったりしなかったのだろうか。

;立ち絵消し

;[演出]

;通常ADV表示 初人&標

初人 「というと?」

  僕は恐る恐る、標さんに詳細を尋ねた。標さんの真意を推測しようとしたが、できなかった。

標 「あれは、初人さんのことを面接した時のことですね……」

;立ち絵消し

;[演出]

;回想開始

;□背景:標家講師室

;通常ADV表示 初人&標

初人 『私塾講師になったことはありません。しかし、ヒトに教えることには自信があります』

標 『というと?』

初人 『僕は光と熱の穢れを自我で操ることができます。これにより幻影を見せられるわけです』

標 『幻影ですか?なるほど、それで図解する訳ですね?』

初人 『そうです。純穢達には分かりにくい話でも、幻影を使って分かりやすく図解すれば――』

;立ち絵消し

;[演出]

;立ち絵なし

標 「その時でしたね、櫂さんが突然部屋に入ってきたのは」

;○扉を開ける音

;[演出]

;通常ADV表示 櫂&初人

;♪はちゃめちゃ

櫂 『初人!見て見てこれ、美味しそうだよね』

初人 『お菓子か、うん確かに美味しそうだ。ところでこれどこから持ってきた?』

櫂 『店?の机に落ちてた』

初人 『……何度目?このやり取り』

櫂 『へ?』

初人 『それ、売り物』

櫂 『あー、うん、初人、確かにそうとも言うね』

初人 『このお金をなるべく早く店に届けて、そして謝っておいて』

櫂 『えー面倒臭い』

初人 『後始末は櫂自身でやって欲しい、今大事な――そうだよ、今は面接中なんだから!』

櫂 『え、そなの?ごめんなさい』

;BGMOFF

;立ち絵消し

;回想終了

;[演出]

;通常ADV表示 標&初人

標 「私はすぐに見抜きましたよ、こんなに自由にはしゃぎ回るのはイルカに違いない、って」

  確かに、常識を知らない純穢など見かけない。それは標塾や家庭での教育によるものだろう。

  一方、櫂はどうだろうか。面倒臭がって勉強を避けてきた、ヒトの世界の常識もあまり知らない。

  標さんはそこまで見抜いていたのだろうか?その上で、僕を受け入れてくれたのだろうか?

標 「そして、イルカを受け入れているのは星のヒトくらいなものですよね?」

  標さんの直感ほど恐ろしい物は、もしかしたらこの世には無いのかもしれない。

  ふとそんなことを考えてしまった。それにしても。もしそれが本当だとしたら!

  僕は信じがたい結論を導かざるを得なかった。標さんは雪の降っていたあの日――

初人 「それなら標さんは、イルカの物語の授業に誘ったのは、まさか」

  少しの間を置いて、標さんが明言した。

標 「ええ、櫂さんがイルカだと推測していた上で、授業に誘いました」

  櫂はあの授業を境にして、変わってしまったような気がする。

  表面的にも変わらないように見えるが、何となく僕には感じていた。

  しかし、そのことで標さんを責める気にはなれなかった。

  標さんのことだから、何か意図があってそうしたに違いない、そう思ったからだ。

標 「私は、もし櫂さんがイルカだったとしたら、櫂さんに警告したかったんです」

初人 「警告、ですか?」

  やはり標さんの行動には意図があったのだ、と改めて感じた。

  しかし標さんから聞くことは無いだろうと思っていた言葉であり、僕は意外に思った。

  僕が警告などと言っても笑いものだが、経験の積まれている方の警告は、重い。

  だからこそ、標さんの”警告”は櫂を突き動かしたのかもしれない。

  そのことを、櫂は一言も伝えてくれなかったが。

標 「櫂さんには櫂さんのやるべきことがある、ということですかね」

  櫂の、すべきこと。それは一体何なのだろうか?

  あの後の、櫂の行動を考えてみる。確か、僕の希むセカイを叶えると言っていた。

  それが櫂のすべきことであり、標さんの警告に基づくものなのだろうか?

  僕には分からなかった。

;立ち絵消し

;[演出]

;ブラックフェードアウト



*0303

;◇Wito View

;[演出]

;□背景:標家廊下

;通常ADV表示 師&初人

  標さんと別れて廊下を歩いていると、ここで会うとは想像していなかった人物と出会った。

;♪不安

師 「やぁ初人、1日ぶりだね」

  僕は驚きのあまり手の力が緩み、再び持っていた教材を全部床にぶちまけてしまいそうになった。

  1度深呼吸したことで、ようやっと少し落ち着いて話すことができるようになった。

初人 「一体どうしてここが分かった?」

  僕には分からなかった。尾行の気配は感じたことがなかったからだ。

  1回目に師から逃亡した時も、2回目に師と別れた後も。

  あるいは。あの祝というモノのように、師も気配を消すことができるのだろうか。

  一瞬、星と祝の繋がりを考えた。けれど、すぐにそれを否定する。

  仮にそうだとしたら、どうして祝は師を狙っていたのだろうか?

  師は一瞬ためらったような表情を見せたが、すぐに普段通りの顔に戻った。

師 「偶然だ、別件でここを調べていたら、初人が最近雇われたことが分かった」

  別件という言葉に少し恐怖したが、見つかってしまった以上は仕方ない。

  僕は震える手をぐっと抑えて、来るべき言葉を待った。きっと師は僕を――

師 「それで初人、お前はしばらくここに居ろ」

  ああ、やはりそうなのだ。僕はここから出なくてはいけない。櫂と共に、また星へ行かねばならない。

  やるべきことも成し遂げられないまま、僕は?

初人 「待った、今何て?」

  僕は、驚きのあまり再び資料を落としそうになってしまった。耳を疑った。

  それは師の口から聞くとは思っていなかった言葉。自由の烙印と反するものに他ならなかった。

師 「しばらくここに居ろ。連れ戻す件は、保留になった」

  何故だか全く分からなかった。星が僕に、標塾に居ろと命じた?

  星は僕に烙印を与えることで僕に自由を自覚させ続ける、そのはずではなかったのか?

  これでは、まるで僕が僕ではなくなったかのような……

  いや、本当に僕は、烙印から解放されたのだろうか?

  僕が頭に疑問符を浮かべて黙ってしまったのを見て、師が笑った。

師 「何、気にすることはない。何の条件もないさ、今まで通りここに居てくれ」

  師のその笑みから、星の事情については推測することができなかった。

  何の条件もない、本当にそうなのだろうか?今まで通り?

  心配要素は幾つもある。璞さんのこと、櫂のこと。

  そんな中で今まで通り過ごすことができるのだろうか。少し不安になる。

  その時、ふと師が真面目な表情に戻った。

師 「初人、お前は自由だが、いずれお前を必要とする時が来る。そういう上の判断だ」

  自由ではあり続けるが、ここに居ろということだろうか?

  星にとって、僕をここに居させ続ける利点とは何なのだろうか?

  単なる厄介払い?果たして本当にそれだけなのだろうか?

  しかし僕に残された選択肢は、黙って受け入れ、今まで通り過ごすことしか無いのだろう。

  受け入れざるを得なかった。けれど、星の意図が理解できなかった。

初人 「……不思議な気分だな」

  今まで星を恐れて隠れて暮らしていた僕が馬鹿らしくなる。

  これからは、星に許可されたこの標塾で、僕の目指すことをすればいのだ。

  星に追われなくなった。その事実は僕を精神的にかなり楽にさせた。

  星の中はどうなっているのだろうか、とふと気になる。

  僕が居なくなり大混乱になったとは考えにくいが、あれから何か変わったことはあるのだろうか。

初人 「師、あれから星に何か変わったことはあった?」

師 「星から脱走した自由は居るが」

  冗談で返されて、僕は笑った。あまり星内部のことは話したくないのだろう、と推測する。

  僕はそれ以上深く追求せずに、師と軽い話をして別れたのだった。

;BGMOFF

;立ち絵消し

;[演出]

;ブラックフェードアウト



*0304

;◇Ikusa View

;[演出]

;□背景:標家廊下

;♪日常

  初人と別れ、俺は標塾を出るべく廊下を歩いていた。

  それにしても初人の奴、星に居た時とはかなり変わったと思う。

  やはりあいつの言っていた『どうしてもやり遂げたいことがある』というのは本当らしい。

  やり遂げたいこと。俺の場合は、一体何なのだろう?

  星に忠義を尽くし続けることが俺のやり遂げるべきことなのだろう。

  けれど、本当にそれだけなのだろうか?

  そう思っていた刹那、廊下の角を曲がり1人の純穢がこちらへ向かって歩いていた。

師 「ん、あの子は!」

  それはまさしく、つい先日、改札突破者の処理に居合わせた純穢であった。

  忘れもしない、屍より俺を『怖い』と呟いた純穢だ。まさかこんな所で出会うとは。

  その純穢も少しして俺の存在に気づいたのか、その場で立ち止まった。

  かくして俺と純穢は、今度は標塾で、廊下に突っ立って対面することとなったのだ。

師 「おや、いつかの純穢さんだね、こんにちは」

璞 「……」

  俺にできる最大限の努力、ほほ笑みをして会釈した。

  しかし純穢は相変わらず俺が怖いのか、何の言葉も返してくれなかった。

  純穢をよく見ると、湯たんぽを抱えていた。そういえば、あの時も湯たんぽを抱えていた。

  湯たんぽを持っていないと体温調節ができない純穢なのだろうか?

璞 「どうして、来た」

  不意に。そんな言葉を聞き取る。この前と同じ、小声であった。

  声の小ささと敵意むき出しの口調を比べ、俺は笑いそうになってしまった。

師 「野暮用だよ、少し講師のヒトと話してきただけさ」

  純穢の肩が少し震える。血を見ても怖くはないのに、俺に恐怖するこの純穢。

  この様子から察すると、初人のことも怖がっているのだろうか?

璞 「それだけ?」

  それだけなどでは、ない。それだけなら手紙でも送って用事を済ませるだろう。

  しかし、それをこの純穢に言う必要はないだろうと判断する。

  テキトーに、誤魔化せばいいだけの話だろう。

  ――いや、待て。星としての直感が、俺を引き止めた。

師 「ああ、それだけさ。いや強いて言えば、キミに会いに来た」

  知らないヒトからあなたに会いに来たと言われて、何も思わないヒトなど居ないだろう。

  例えそれが、怖いと思う相手なら。なお怖く思うはずだ。

  ところが、この純穢は俺に恐怖したまま特に何も変化なく、ただ単調に返事をしてきた。

璞 「何?」

  この純穢、普通じゃない。俺は少し恐怖した。

  何故か俺を恐怖する。怖い相手から会いに来たと話しかけられてもより怖いと思わない。

  この純穢が恐怖している相手は、俺じゃない。もっと他の――まさか。

;BGMOFF

師 「イルカ……」

;立ち絵消し

  俺の呟きを聞いた純穢は、俺を睨みつけて、走り去ってしまった。

  よく湯たんぽを抱えながら、あの小さい身体で走ることができるな、と感心する。

  そして。やはりあの純穢は、イルカということで間違いないのだろう。

  恐怖しているのは、星そのものであり、俺じゃない。

  それなら元々星の1人であった初人を恐怖することも頷ける。

  しかし。ややこしいことになってきた。初人をここに残すのは正解だったようだ。

  このことも、上に行って報告するべきだ。

  と同時に、どういう経緯であのイルカがここに居るのか、調べなくてはならない。

  俺は誰も居ない廊下を1人、星へ向かって急いだのだった。

;[演出]

;ブラックフェードアウト



*0305

;◇Wito View

;ブラックのまま

  師と別れた後、僕は書斎に立ち寄った。半分は資料を戻す為、もう半分は言うまでもない。

  例え小規模だとしても、ここには本がある。希を探す為の鍵があるのだ。

;[演出]

;○扉を開ける音

;□背景:標家書斎

;♪書斎

  中に入ると、いつもの本の香りがここを出迎えてくれる。

  僕はここから持ちだしていた資料を本棚に1つ1つ丁寧に戻していく。

  それらはイルカの物語の続きについての考察本であった。

  今日の授業で、結局純穢達からは想像を超えたものを得ることができなかった。

  それは予測していたことであり、特に僕の感情が揺らぐことはなかった。

  けれどもしかしたら、璞さんなら知っているのかもしれない、とふと思った。

  根拠の無い考えに、僕自信が呆れる。

  璞さんと言えば。ここで璞さんと初めて会話らしい会話をした時、ここには本が散乱していた。

  あの時、璞さんは一体何をしていたのだろうか?本の整理でもしていたのだろうか?

  そんなことを考えながら最後の資料を本棚に戻した時、ふととある本に目をとめた。

  何の事はない、ただの地味な背表紙の本だ。しかし、上に凹みがあるのを僕は見逃さなかった。

  背表紙の上にある凹み。それはこの部分を使って本をよく取り出していたことを表す。

  このあまり使われない書斎においてその凹みのある本とは、よく使われていることを意味する。

  しかし、僕はこの本を使ったことがない。標さんがよく使うのだろうか?

  試しにその本を手にとり、中を開いてみた。

初人 「イルカの図鑑……?」

  こんなものがあるとは、僕は知らなかった。

  様々なイルカが、絵と文字によって細かく記されている。

  大雑把な体長、おおまかな個体数、基本的な性格、主な食べ物、自我の強さ……

  恐らく星にも同じものがあるのだろう。けれど、僕は見たことがなかった。

  そして。その中の複数ページに渡って、水をこぼしたかのような跡が時たまあった。

初人 「水?そういえば――まさか」

  もし。僕の仮説が正しいとすれば。

  それからしばらく、僕はどうやって証明しようか悩んでいた。

  けれどそれ以前に証明してはいけないようなもののような気がして、やめた。

  書斎を出ようと振り向く。するとそこでは、櫂が立ち塞がっていた。

  そういえば、あの日も、これと同じような状況だった。

  そう、それは今から数ヶ月前の出来事――僕が星を脱走する実行日だった。

;BGMOFF

;[演出]

;ブラックフェードアウト


*0306

;[演出]

;回想演出

;□背景:星水槽部屋

  星には、巨大な水槽がある。それはイルカを生きたまま祀る場所であった。

  祀るとは動かぬものを基本とするが。

  しかしたくさんのお供えをし、そこに居てもらうという点において何も変わらない。

  僕ら星は、イルカを崇めているのだ。

  櫂も、そんな祀られているイルカの1匹であった。

  そして僕は、自由の烙印を持つ星の1人となっていて、櫂に食事を奉納する係となっていた。

;[演出]

;立ち絵なし状態

;○扉を開ける音(キィッ、バタン)

;○歩く音

初人 『櫂、今日の食事だよ』

  ヒトとはどうでもいいことを鮮明に覚えている時がある。

  大抵は、それがどうでもいいわけではないがどうでもいいと思いたい時だと僕は思う。

  その日の食事は、ししゃもだった。僕はししゃもを水槽に居る櫂へ捧げた。

  櫂は水槽から出ること無く、自我を生かして器用に皿を平らげていく。

櫂 『初人、今日はやたら遅いな』

  食べながらも、どこか不満気な櫂を見て、僕は素直に謝った。

初人 『少し、あってね。ごめん』

  意識せずに遅くしてしまったのだろう、それは櫂に謝るべきだろうと判断した。

  しかし櫂と僕の、幼い頃から共に過ごす仲なので、敬語を使うようなことはしなかった。

  僕らは星に居るイルカとヒトの中で、唯一親しすぎる仲にあったのだった。

  櫂はそれっきり食事に集中し、特に話すことはなかった。僕は内心ほっとしていた。

  やがて食事が済んで、僕は皿を持って戻ろうとする。

  と、櫂がじっと僕のことを見つめているのに気がついた。

櫂 『初人、キミは今日少し様子が変だ』

初人 『気のせいだと思うよ』

  そう言うと、櫂はすごく残念そうな顔を見せた。

  どうしてそんな顔をするのだろうか。櫂はイルカだ。ヒトの事情に深く突っ込む必要など無い。

  同じように、イルカに深く突っ込まれることを希むヒトなどいない。

  イルカとは、所詮少し願いを叶えてくれる小さな神でしか無いのだ。

  僕はそんなことを口に出したりはしないが。

櫂 『初人、キミは本当に構わないのか?気のせいで済ませて』

  僕は僕自身に問う。櫂に話すべきなのかどうかを。しかし、答えなどとうに出ていた。

  それは変わらない答えのはずであった。例え櫂が何をしようと。

櫂 『初人、キミは私に何を希む?』

初人 『何を……?』

  そんなこと、僕は考えたことも無かった。イルカはイルカである。

  イルカに希むことなど、今の僕にはあるのだろうか?

  そんなことを考えていると、ガラスのすぐ近くに食事を終えた櫂がやってきた。

  僕と櫂は、ガラス越しに見つめ合うことになる。

櫂 『初人、キミからは感じない。私を訪ねてくるヒトは私利私欲ばかりだというのに』

櫂 『お金を大量に作って欲しい、理想のパートナーが欲しい』

櫂 『お菓子をたくさん食べたい。皆、物欲ばかりだ』

櫂 『でも初人はどう?毎日本を読んでばかり。本当にそれでいいの?』

  それは櫂の素直な思い、なのだろう。櫂は長年星に崇められているイルカであった。

  大勢のヒトの裏事情を見て、うんざりしているに違いない、と思った。

  物的私利私欲を満たすことは、一定額星やイルカに奉納すれば、出来た。

  そして星にはそう言って来る人が跡を絶たなかったし、星もそれで生計を立てている側面もあった。

  そんな櫂が見てきた大勢のヒトの中で、特に希まない僕は、櫂にとっては異質に見えたのだろうか。

櫂 『私は、初人に求めてほしい。さぁ初人、何が欲しい?』

  僕は悩んだ。このまま、櫂に何も求めずに生き続けることもできなくはないだろう。

  しかし、それで櫂は満足するのだろうか?

  櫂にしつこくせがまれるよりは、いっそのこと何か希んだ方が良いだろう、と僕は判断した。

  けれど、一体何を希めばいいのだろうか?そこまで考えて、ある結論を出した。

初人 『もし、星からの脱走を助けて欲しい、と言ったら?』

櫂 『そ、それは』

  ふと、櫂は何かに気づいたかのような表情を見せたような気がした。気のせいだろう。

  櫂が戸惑っているのを見つつも、僕は話を続けた。

;□■櫂と初人が水槽越しに手を合わせるEG

初人 『僕は、沢山の本を見てきた。それでもまだ、僕の希を叶える方法を見つけられない』

初人 『そして、沢山の本を見ていくうちに、僕は僕の希そのものを見失い始めてしまった』

初人 『僕は、星を出たい。星を出てもう1度、”自由”な視点で希を探したい』

  それは自由の烙印持ちである僕が言ってはいけない台詞であった。

  僕は禁忌を破る宣言をしているようなものであった。それは櫂でも、理解しているはずだった。

  僕がそれでも打ち明けたのは、櫂に賭けていたからだったのかもしれない。

  僕はいつの間にか、櫂を必要としていたのだ。それに当時気づいていなかったとしても。

櫂 『初人……』

  櫂の反応を見て冷静になった僕は、急に冷や汗をかいた。

  もし、誰かがこの瞬間を見ていたとしたら。僕の生命に明日は無い。

  辺りの様子を伺ったが、僕と櫂の他にこの部屋には居ないようだった。

  改めて僕は櫂の方へ向き直り、失言したことを謝った。

初人 『いや、ごめん。こんなことを言うなんて馬鹿だよね』

  櫂は悲しい顔をして何かを言おうとしたが、僕はその言葉を遮った。

初人 『櫂なら、このことを密告しないでくれると信じている。櫂は何も知らないで良い』

  僕にとって、櫂とは何なのだろうか?うざったい奴?相談に乗ってくれる友人?

  答えは、その時の僕には分からなかった。今もあまり分からない。

  イルカには、悪い印象を抱いているわけでもない。僕はイルカを信じていた。

  ただ1つ、あの時のことを除いては。

  だから。僕は櫂を信じて疑わなかったのだ。きっと密告しないだろう、と。

  勿論その後も、このことを密告されることはなかった。

櫂 『初人、待って』

  僕はいずれにしても、櫂に迷惑をかけたくなかった。

  もうその時僕は決断していたのだ、ここを離れて自由になるのだと。

  櫂は、置いていけば良い。そう自分勝手に思っていた。

  この考えが例え間違っているとしても、そんなに大げさなことではないような気がしていた。

初人 『さよなら』

;□背景:星の水槽部屋

  そして僕は水槽から手を離し、櫂に背を向けて部屋を立ち去ったのだった。

;[演出]

;ブラックフェードアウト


*0307

;◇Wito View

;[演出]

;□背景:星の図書館

  僕は逃走する最後の最後まで本を読み続けた。けれど、求めていたものは見つからなかった。

  もしここで僕が求めているものを見つけられたのなら、僕は今頃どうしていたのだろうか?

  それでもやはり星を出ている気がした。再び自由らしさを取り戻す為に。

  僕は最後の本を棚に戻し、1つ深呼吸をして、脱走を決意した。

  そして振り向いた時、出口で1人の少女が立ち塞がっていたのが見えた。

櫂 『どこに行くの?』

  それは僕が数年間以上見ていなかった、櫂の幻影――ヒトの姿であった。

  以前見た時と何も変わらない櫂の姿に僕は驚いた。

  それはきっと櫂のココロの現れなのかもしれない、とふと考えた。

  僕は櫂に、僕のココロをはっきりと言った。

初人 『ここではない、どこかへ行く』

  僕にしてみれば、既に決意したことであり、もはや櫂に遮られた所で変えるつもりなど無かった。

  だから、この後櫂が放った言葉に驚いたものの、決意は揺らがなかった。

櫂 『初人、キミと共に、私も行く』

  櫂は決意に満ちた表情で、僕をそこから先へ通そうとしてくれなかった。

  櫂の握られた拳が、その何よりの証拠であった。けれどそれは、僕の希むことでは、無かった。

  櫂に何と返事をするべきか迷い、言葉を脳内で探した。

初人 『来ないで欲しい、僕は櫂に迷惑をかけたくない』

  それはココロから思っていることに他ならなかった。

  櫂を連れて行くと、恐らく櫂は今までとの違いに戸惑うだろう、と考えていた。

  それと同時に。脱走に失敗した場合、櫂にも罰が下る可能性がある。それは避けたかった。

  もう1つ別の感情もあったが、それはあえて無視することにした。

  僕の言葉を聞いた櫂が、どこか悪巧みを考える時のような笑みを浮かべる。

櫂 『初人、キミの決意は素晴らしい。けれど、逃げきれなかった時のことを考えていないよね』

  それもまた真実であった。確かに、逃げきれなかった時のことなど想定していなかった。

  殺されるか、そうされなくても今より待遇が大幅に悪化するだろうと思った。

  どうすれば逃げきれるか、いい考えが思いつかず、僕は言葉に詰まった。

  きっと櫂は、次に僕のその弱みを生かして要求を通そうとするに違いない、そう思っていた。

  けれど、櫂が次に口にした言葉は僕の想像とは全く別のものだった。

櫂 『初人、私はね、本当はとても怖いんだ』

;♪不安

初人 『怖い?』

  櫂が、怖がっている?僕は耳を疑った。

櫂 『初人が、去っていくのが、怖い』

  僕が櫂の前から去ることが、怖い?むしろ嬉しい事なのではないか、という言葉を飲み込んだ。

  どこか未来に怯えたような表情で、櫂が語り始める。

櫂 『やっと気づいたんだ、私達はこの10年間、何も変わらずに過ごしてきた』

櫂 『でも、このままではいけないって初人は気づいてしまった』

櫂 『初人、キミが変わってしまった時、私が変わらないと、私は1人だ』

櫂 『今までずっと初人と共に過ごしてきたから、1人になるのが怖い』

  普段見せることのない姿と、普段見せることのない表情、そして言葉に、僕は動揺した。

  櫂がそんなことを思うだなんて、僕には予測できなかった。

  そこまで言うと櫂は、一息つき、そして一言付け加えた。

櫂 『それに、私も変わらないといけない、そう初人が気づかせてくれた』

  僕がいつ櫂を気づかせたのかは分からなかったが、櫂が言うのだからそうなのだろうと思った。

  櫂にとっても、僕の星からの脱走というのは刺激を与えることだったのかもしれない。

  櫂は昨日の別れ際に何か言いたかったのではないか、とふと思った。

  一方的に別れてしまったけれど、あの時に気づいていたのかもしれない、と勝手に考えていた。

櫂 『もっと言うと、初人、キミにとっても、私が居れば逃げやすくなる』

  確かに櫂の言う通り、よく考えたら星からの逃走にイルカの協力があれば、ぐんと楽になる。

  僕は光と熱の穢れを自我で操って、他の人になりすまして星を出るつもりだった。

  しかし、万が一捕まった時に逃げきれる自信は全く無かった。

  櫂が居れば、その万が一にも対処出来るだろう、とは確かに考えていた。

  そして櫂は、微笑んだのだった。

櫂 『だから初人、キミを1人では行かせないよ』


;BGMOFF

;[演出]

;回想終了

;□背景:標家書斎

;通常ADV表示 初人&櫂

  あの時と似た状況が、今ここにあった。それを櫂が意図しているかは分からないが。

  あの時から少し経ち、櫂は変わった。僕は、どうなのだろうか。

初人 「櫂、どうかしたの?」

  櫂はじっと黙ったまま、僕を見つめていた。

  少し不気味なもののように感じた。それが何故かは分からなかったが。

  やがて櫂は、あの時のように微笑んだのだった。

櫂 「初人、少し街を散歩しに行かないか」

  散歩。ついこの前も、同じように海へ”散歩”しに行ったと思う。

  櫂にとって、知らない所へ行くことが”散歩”なのだろうか?

初人 「分かった、すぐに支度しよう」

;立ち絵消し

  櫂と”散歩”に出ると、この前は例外的だったが、必ずと言っていいほど何かが起きる。

  僕にはそれが分かるから、何も支度をせずに出ることは即ち死を意味する。

  具体的に言うと、普段より多めの金銭が無いと厳しい。

  櫂にはそんな僕の意図があまり伝わっていないのか、櫂は僕を急かしたのだった。

;廊下の先から璞さんに見られる

;[演出]

;ブラックフェードアウト


*0308

;◇Wito View

;[演出]

;□背景:標家廊下

;通常ADV表示 標&初人

;♪日常

  街へ出るべく櫂と廊下を歩いていると、偶然にも標さんとであった。

標 「初人さん、璞を見ませんでしたか?」

  つい先刻、標さんが僕と共に、璞さんへ過去のことを話してくれましたばかりだ。

  僕が書斎に居たとはいえ、あれからそんなに時間は経っていないはず。

  そんな短時間に、璞さんがどこか遠くに居るとは考えにくいと思う。

  居るとしても、この標さんの家の中だろうけれど――

  書斎からここに来るまで、璞さんを見かけたことはなかった。その旨を正直に伝えようと判断する。

初人 「書斎からここまでに、璞さんを見かけませんでしたよ」

  標さんは少し考えこみ、やがて残念そうな顔を一瞬見せた、ような気がした。

  すぐにその顔は、いつもの標さんの笑みに変わった。

標 「そうですか。璞は私に似て、他人の視線から逃れるのが得意なので困ったものです」

  標さんが、他人の視線から逃れるのが得意、とは考えにくかった。

  けれど標さんがそういうのだから、標さんの幼少期にはそうだったのかもしれない。

  あるいは、今もそうであることを隠し、別の性格を演じ続けているのか。

  そんな馬鹿げた考えを持ったが、そんなことを考えた自分が嫌になり、棄てた。

標 「初人さん、もし璞を見かけたら、私の元へ来るよう促してください」

  ふと、いつになく標さんの様子が真剣そうに見えた僕は、何気なく標さんに尋ねてみる。

初人 「何か大事な用事なのですか?」

標 「そうですね、そんなところです」

  あまりヒトには言いたくない用事なのだろうか?

  深く問い詰めた所で標さんを不快にさせるだけだろう、と僕は判断した。

  それに、櫂が僕の手を強く握ってきている。急ごう、という主張なのだろう。

初人 「では、璞さんを見つけたらそうしますね」

  僕は標さんにおじぎをし、その場を足早に去っていった。

;立ち絵消し

;[演出]

;通常ADV表示 初人&櫂

  けれど、やはり僕には心配で仕方のないことがあった。

  何気ない振りをして、櫂の意見を聞き出そうと試みる。

初人 「あれから標さんに何も言われてないな」

  櫂は僕の意図が分からないという顔で、僕に疑問を投げかける。

櫂 「何を?」

  そういえば、今朝の標さんと璞さんと僕の会話に、櫂は居なかった。

  しかし櫂に全てをそのまま話すのも、良くない気がした。

  けれどよく考えて見れば、櫂は標さんの警告を読み取ったからこそ、教室を出て行ったのだった。

  ということは、特に何も言わないで構わないだろう、そう僕は判断した。

初人 「イルカとヒトがこうして同じ空間で過ごしていること」

  ふと考えてしまう。標さんはイルカとヒトが同じ空間で過ごすことを警告しているわけではない?

  もしそうなのであれば、標さんの言う”警告”とは一体何なのだろうか?

櫂 「確かにそうだね、でも気にしなくて良いと思うよ、ヒトにはヒトの生き方があるんだよ」

  櫂の言うとおりかもしれない。標さんは僕らを受け入れてくれたのだ。

  何も気にすることはない、僕らは僕らのするべきことをすればいい、ただそれだけなのかもしれない。

  しかし、本当にそうなのだろうか?

初人 「そう、だね」

;立ち絵消し

  いずれ標さんの言う”警告”が何であるか考え、知り、それに従う時が来るだろう。

  あるいは、もう気づいていないだけで来ているのかもしれない。

  しかし今の僕が気にするモノではないだろうとも思う。

  今は櫂と共に居ることだけを考えよう、そう思ったのだった。

;BGMOFF

;[演出]

;ブラックフェードアウト

;ここまで前編




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