第2話後編

;ここから後編

*0208

;◇Wito View

;□背景:

師 『この海の向こうには、希があるんだって』

  10年以上前の記憶だったが、僕は鮮明に覚えている。あの時、師は確かにそう言ったのだ。

師 『お父さんに話してもらったんだ、ずっと向こうに、高い高い希があるんだって』

  今から考えれば、遠くに高い希というものが実在するわけも無い。それはお伽話だ。

  それでも、僕はどこかその高い希の存在を海の向こうに追い求めてしまう。

  まだココロの中に、純穢である部分があるのかもしれない。

初人 『へぇー、行ってみたいね!』

  僕は無邪気に、何も考えずにそう言ったのを覚えている。

;[演出]

;紙くしゃり

師 『その希まで、いつか一緒に行きたいね』

  まだ自由になる前の話だ、それがどんなことを意味するのかについても考えたことがなかった。

初人 『約束するよ、ずっと一緒についていくよ』

  僕らは微笑みあったのだ。師があの柵を超えるまで、僕らの絆は確かなものだと思っていた。

  それからすぐに、僕は自由となったのだ。

;回想終了



*0209

;◇Wito View

;[演出]

;ブラック

  僕の足は、書斎へと向かっていた。書斎へ行くと、様々な本がある。

  僕はその中で、どこか安心感を得られるのだ。例えそれが、本を得ただけであったとしても。

  多分、僕は師と会ったことに対する不快感を拭い去りたいのだろうと思う。

  それが出来る所となると、やはり本のある場所となるのだろう。

;[演出]

;□背景:標家書斎

;通常ADV表示 璞&初人

;♪書斎

;○扉を開ける音

璞 「……」

  書斎には、璞さんが居た。突然入ってきた僕をじっと見つめている。

  僕は何か言うべきことがあったような感覚に襲われ、その言葉を必死になって探した。

  やがて1つのオアシスを砂漠から見つけ出す。

初人 「あぁ、璞さん、こんにちは」

  1人で挨拶をする僕だったが、特に虚しくはなかった。いつものことだ。

  もしかしたら、見つけるべきものが違ったのかもしれない。それで璞さんは不満なのだろうか?

  今後言葉に気をつけるべきなのかもしれない、そう感じた。

  書斎の床にぺたんと座って本を読む璞さんの隣に、僕はしゃがむ。

  こうして璞さんと同じ視点で書斎を見つめれば、何か発見があるかもしれない、そう思ったからだ。

  残念ながら、目立った発見は無かった。しかし1つ気づいたことがあった。

  璞さんにとって書斎の最上段の棚は手を伸ばしてもかすりもしないということだ。

  璞さんが最上段の棚の本を読むとは思えなかったが、僕でも最上段の棚の本は取り出しづらい。

  何か椅子のようなものがこの部屋に必要だと思った、気軽に本をここで読むためにも。

  それは湯たんぽを抱えながら床に座り、寒そうに本を読む璞さんへの配慮でもあった。

  これは早急に標さんに頼むべき事項だろう、脳内にメモをする。

  隣に居る璞さんを見ると、突然隣に座ってきて何も話さない自分を訝しんでいるようだった。

  何か璞さんに話すべきことはないか、再び僕は砂漠を彷徨い歩く。

初人 「そういえば、璞さんは感じないの?その……異常成長について」

  言うのを一瞬ためらってしまったが、言ってしまった。

  どうしてこんな話題にしようと思ったのか僕自身でも分からなかったし、後悔した。

璞 「特に」

  半ば予想していた答えではあったが、回答を得ることができた。

  どうやら璞さんはあまり気にしては居ないようだった。

  もしかしたら、気にしないように思い込み続けているのかもしれない、と心配をする。

  いずれにせよ、僕のような運命を璞さんには辿ってほしくはなかった。

  しかし、だからといって直接そんなことを璞さんに言うべきではないだろう。

  僕が悩んでいるうちに、気づけば沈黙が書斎を包みこんでいた。

  そのことでさらに僕が悩みかけていたその時、ふと璞さんが口を開く。

璞 「ここに来たの、どうして?」

  璞さんの言う、ここ、というのは書斎のことだろうか?

  どうしてなのだろうか。星に居た時も、ずっと僕は図書館にばかり居た。

  ただ単に本が好きなだけ?確かにそれもあるのかもしれない。

  けれど、もっと別の理由がある気もした。

  もしかしたら、本を探すことで嫌なことを見ないようにしているのかもしれない。

  ふとそんなことを考えてしまった僕自身が嫌になる。

初人 「安心する為、かな。ここに来ると、どこか安心する気がしない?」

  本というのは貴重な知的資源である。本来、地域の中心、防衛されている場所に置かれるべきものだ。

  そういう意味で、星に大量の本が置かれているのは自然のことだった。

  最も星の場合、海が隣接していたので本が傷まないような設備が必要だったが。

  話を元に戻すと、そういう「守られている場所」が書斎という空間である。

  僕が安心するのはそういう理由なのかもしれない、そんなことを考えていた。

璞 「分からない」

  勿論星は別としても、ここは実際に守られている訳ではない。

  周りに兵が配置されているわけではない、標家の周りは畑だ。

  僕が勝手に安心しているだけで、家を燃やされたら一発で書斎は灰になってしまう。

  だから、璞さんの反応は正しいものなのだろう。

初人 「そう」

  予想していた答えであったので、僕は何とも思わなかった。

  しかし、璞さんは僕をじっと見つめてきた。僕が何かまずいことを言ったのだろうか?

璞 「辛いの?」

  璞さんにそんなことを聞かれてしまうなんて、僕という存在は。

  璞さんにとって、安心を求めることは今が辛いことと同義なのかもしれない。

  実際、今が辛いからこそ安心を求めている。あながち間違っていないのかもしれない。

  師のこと。星のこと。僕は過去を忘れ去ろうとしていた。

  けれど、そんなことできるわけがなかった。僕は愚かだったのだ。

初人 「うん、辛い。過去を思い出すだけでこんなに辛いとは思わなかったな」

  そして。僕は吐き捨てるように言った。

初人 「過去なんて無くなってしまえば、僕は楽になるのかな」

  璞さんに、じっと見られているのが分かる。

  恐らく璞さんは、僕に何と言えば良いのか分からないに違いない。

  それはそうだろう、自由の普段見ることのない一面を見せてしまったのだ。

  僕は反省し、そして璞さんに謝らなければならない。

初人 「ごめんね、璞さん。こんなこと話すことでも無いよね、僕が悪かったよ」

  聞かれても居ないこと。璞さんも、こんなことを僕に言わせるつもりではなかったこと。

  それなのに、僕は。

;[演出]

;紙くしゃり

  シロアリを噛み潰したような表情をしてしまった僕を見て、璞さんが口を開いて呟いた。

璞 「……その辛さ、解決したくないの?」

  僕は璞さんからそんな言葉が出るなどとは、全く予期していなかった。

  驚いて、璞さんのことを見つめてしまう僕が居た。

  確かに僕はこの辛さを解決したい。けれど、果たして解決できるのだろうか?

  やがて僕は、璞さんから目を逸らしてしまった。

初人 「解決できれば、良いんだけれどね」

  解決できる訳が無い、半ばそう思ってしまっている僕が居た。

  何故なら僕は、一生苦しみ続けなければならない、そう思っていたから。

  しかし、璞さんは僕の視界に入り込んでくる。再び、僕は驚いた。

璞 「そのペン、あなたは知っている」

  知っている?僕が、解決方法を知っているというのか?

  もしそうだとしたら、僕はまた、知らないふりをして避けていることになる。

  それはもう、やめてしまいたい。僕は変わりたい。けれど、それは何なのだろう。

  璞さんに問おうとしたけれど、口を閉ざしている姿から察するに、もう言ってくれそうになかった。

  僕自身で考えなければならないことらしい。腕を組み、1人でじっと考え始める。

  過去を思い出す辛さ。それを解決するにはやはり、過去を忘れるしか無いのだろうか?

  でも。それは果たして解決なのだろうか?

  ヒトというものは忘れたと思っていても、何かをきっかけに思い出してしまうことがある。

  僕が師と会った時もそうだった。僕は星であることから逃れられないと悟った。

  そうか、逃れられないのだ。僕が過去を思い出すことからは逃れられない。

  だとしたら。僕は何をするべきなのだろうか?

  過去を忘れることは思い出すことから逃れられない以上、難しいだろう。

  忘れずに、行動し続けるということ?――それはもしや、受け入れるということだろうか?

  その刹那、逃げていた僕自身に気づく。

  こんなこと、とっくに結論など出ていたはずなのに。僕はあの時、師から逃げてしまったのだ。

  でも。師はもうすぐこの場所を突き止めるかもしれない。師からは逃れられないのだ。

  だとしたら。やはり向き合う他にない。

  そうだ、僕はもう1度師と会わなければならない。会って、きちんと伝えなければならない。

  僕にはまだやるべきことがある、と。

初人 「そうだね、何もしないより何かした方が良いね」

  幸いにして。今櫂は居ない。櫂を残して僕だけを連行するということは無いと信じている。

  今なら。師と交渉できるかもしれない。璞さんの言葉で、僕は気付かされたのだった。

  どうしてだろう、璞さんと居ると、僕は変わることが出来る気がする。

  それは璞さんが改札員であるからでは必ずしも、無い。

初人 「ありがとう、璞さん」

;立ち絵消し

  璞さんが小さく頷くのが見えた。

  僕は師を探すべく、璞さんに手を振ってその場を立ち去ったのだった。

;BGMOFF

;[演出]

;ブラックフェードアウト



*0210

;◇Aratama View

;[演出]

;ブラック

  改札とは、残念ながら初人先生のような、光の穢れを操る自我を持つヒトにしか見えない。

  しかし、見えなくとも。私は確かに他人の自我を操ることができる自我を持つ。

  なぜならば、穢れを操る自我もまた穢れで構成されているからだ。

  これは私の知る限り、かなり特殊だと言っても構わない。

  そもそも、私の知る限り、この年齢から自我を持つものなど、周りには居ない。

  でも。私は何とも思わない。少なくとも、今まではそうだった。

  最近になって、私の考えが少し変わり始めていることに気づいている。

  どうしてなのだろう、今までこんなこと無かったのに。

  私にとって、改札とは何なのだろうか。

  ヒトを変える場所――いや、正確には場所ではない、ただの幻覚だ。

  良い意味でも、悪い意味でも変わってしまったヒトを何十人も私は見てきた。

  いちいち、改札を通るヒトがどうなったか等気にしたらきりがない。

  私はそう思っていた。それなのに。

;[演出]

;□背景:書斎

  初人先生が去って、私は書斎に1人取り残された。

  あのヒトは、己の希が何であるのか気づいていない。

  もしかしたら、あえて気づかないようにしているのかもしれない。

  そしてその希は、あと少しで叶えられようとしている。

  けれど。本当にそれで良いのだろうか?それで本人も幸せなのだろうか?

  私には、分からなかった。

;[演出]

;通常ADV表示 櫂&璞

櫂 「ありがとう、あなたの役目はもう終わり」

  突然声がして、私は少し驚く。普段の私ならありえないことだけれど。

  私は声のした方向を振り向いた。するとそこには、何故かあのイルカが居た。

  いつからそこに居たのだろうか?初人と会って私がここにいることを知ったのかもしれない。

  私が1人で考えすぎていたから、入ってくるのに気づかなかったのかもしれない。

  なんであれ、私にあってはならない失態だった。

  イルカが私を裏切ることだって、できたはずなのに。

櫂 「さぁ、どうする?」

  どうする、というのはきっとあの約束のことだろう。

  私はこれで、イルカを――

璞 「……」

  けれど、どこか私には受け入れ難いものがあった。

  どうしてだろう、今までの私なら大歓迎であったはずなのに。私はいつ、変わってしまったのだろう?

櫂 「どうしたの?怖いの?」

  怖くなんてない。これよりも本来は怖いものを、黙々と今までこなしてきたから。

  今朝だって、こなしたばかりだ。それが私の運命であると私は思っている。

  怖さとは違う、何だろう、この私の感情は。

  もしかしたら。怖さも含まれるのかもしれない。けれど、明らかに向きが違うものだった。

;立ち絵消し

  私は居心地が悪くなって、部屋を出ようとした。

  もしかしたらイルカに止められてしまうかもしれない、そう思っていた。

  けれどイルカはただこちらを見て、首を傾げているばかりであった。

  それを見た私はふと立ち止まり、何かを言おうとしたが、何も言わずに立ち去ったのだった。

;[演出]

;ブラックフェードアウト


*0211

;◇Ikusa View

;[演出]

;□背景:ブラック

  幼い頃の希というのは、本当に純穢らしいと思う。

  例えば、お伽話の主人公になりたいと願う。

  例えば、お伽話を現実のものだと信じこむ。

  例えば。お伽話のセカイに行きたいと願う。

  無知であるということが純穢と等しいわけではない。

  けれど、無知であれば純穢である。その頃の俺達もまた、そんな純穢であった。

;[演出]

;□背景:海岸

;回想エフェクト?

;立ち絵なし状態

師 『改札の向こうへ行きたいな』

  それは俺の本当の願いであった。

  改札の向こうへ行き、あの高い希へ向かって進みたい。あの時の俺は確かにそう願っていた。

  しかし、無知であった。確かに両親共に星の家である以上、一定の知識はあった。

  けれど、ただそれだけであった。何にも生かせなかったのだ。

初人 『行けば良いと思うよ、師なら行ける力があると思う』

  親しくしていた初人も、そのことを知っていた。

  でも初人は、星の家の純穢である俺ではなく、1人の俺として扱ってくれた。

  俺は当時、初人のそういう所が好きだった。

師 『でもその為には、本とペン、そして正しい希が必要なんだって』

  だから。初人なら、何の偏見もなくアドバイスを貰えるかもしれない。

  その時の俺はそういう風に考えていた。

  でも実際に貰ったのは、アドバイスでも何でもない、現実へ直視することを勧められたのだった。

初人 『星に行けば、本ならあると思うけれど』

;立ち絵消し

  そう、初人に言われるまで俺は気づかなかった。

  いや、気づいていたけれど気づかぬふりをしていたのかもしれない。

  星に行くという選択肢。それは生まれた時から既に存在し、俺が行くことがほぼ決まっていた。

  けれど。ただ従って行くのか、あるいは希を目指す為に行くのかで、大きく違うことに気づいた。

  その時、俺は星になることを、強制されたのではなく、自ら選んだ。

  今もその選択自体は後悔していない。正しい選択だったと思う。

  だが、星の中で見つけてしまったのだ。

  俺が目指していた希などお伽話のセカイで実在するものではないということ。

  知らぬが仏と言うように。俺は知らない方が幸せだった。

  知らずに海を眺め続けているべきだったのだと思う。

  けれど知ってしまった以上、俺はやるべきことがある、次第にそう考え始めるようになったのだ。

  このヨノナカは、少数のヒトが主導するものだ。その他のヒトは、ヨノナカを動かそうとしない。

  何故なら多くのヒトが、明日明後日生きることで精一杯だから。

  このセカイでは、星がその少数のヒトとなれる可能性がある――いや、少し違う。

  このセカイでは、星以外のヒトがその少数のヒトとなれる可能性が、無い。

  多くのヒトがイルカと意思疎通できないからだ。それが出来るのは、星のみである。

  そして多くの本が、星には存在している。

  にも関わらず、星はイルカ様を崇めるばかりで、少数のヒトになろうとはしない。

  知のあるヒト、つまり星が、ヨノナカを動かすべきなのだ。

  しかし俺は星に入りたてで、しかもまだ幼い為、まだ知はない。

  もし俺が知を得たとしたら。幼いながらもヨノナカを動かすことが出来るようになるかもしれない。

  だから、俺はもっと知を得て見せる。そしてヒトを、星を主導してみせる。

  あの日が来るまで、俺はそう考えてたのだった。

;[演出]

;ブラックフェードアウト


*0212

;◇Wito View

;[演出]

;□背景:海岸

;○海

  師を探して街を駆けまわったが、師はどこにも見当たらなかった。

  しかし星に直接出向く気にもなれず、僕は海岸に足を運んだのだった。

  そこにはいつもと変わらない青さが広がっていた。

  そして。その青さに立ち塞がるものを、僕は見ずには居られなかったのだ。

;[演出]

;前奥表示 初人&師

初人

師 「やぁ、ついさっきぶりだな、初人」

  そう、あれからまだあまり時間は経っていない。

  それでも。璞さんに僕は気付かされ、先程とは違う感情で僕はこの場に臨んでいた。

  ふと、師があることに気づいたようだった。

師 「あれ、櫂さんはどこへ?また、一緒じゃ無いの?」

  辺りを見渡す師。櫂がどこかに隠れているのだと考えているのだろう。

  確かに先程は、櫂が周りから見えないように自我を操って隠れていた。

  けれど、今は違う。僕1人で師に話しかけているのだ。

  そのことを話せない僕は、師の質問を無視して僕の話を始めた。

;[演出]

;前奥切替

初人 「僕は今、本を探している。でもまだ、それは見つけられていない」

  師は少し不思議そうな顔をした。そう、本の数は星の方が圧倒的に多いはずだからだ。

  けれど、星にある本をほぼ全て読んだ僕は、それでもまだ希むものを見つけられなかったのだ。

  だからこうして。星の外に出てきたというのに。

初人 「それに、僕にはやることがある。まだ星に戻れないよ」

  僕には。まだ心配事も山ほどある。璞さんや標さんのこと、櫂のこと。

  僕は標さんから選択を迫られ、選択したのだ。今ここで退くわけには行かないだろう。

  それに。ようやく僕の知識と自我を生かせそうな場所を見つけたのだ。

  ここで平和に過ごしたい、という思いもやはり捨てきれなかった。

  僕がそう言うと、師は少し悩んだが、やがて大きく溜息をついた。

  やはり、僕の意見は師には受け入れられないのだろうか?

;[演出]

;前奥切替

師 「気に入らない。お前は受け入れる必要がある。それなのに……」

  受け入れる必要がある?師の言うそれは何のことなのだろうか。

  星に戻らなければならないということだろうか、あるは烙印持ちの自由であるということだろうか?

  どちらも、師が僕に受け入れてほしいものでは無いような気がするのだけれども。

;立ち絵消し

;♪危機

  師がうつむいたその刹那。僕は、あの姿を師の真後ろで見つけることとなる。

  真後ろの気配を察知した師が、とっさに前方に転がり回避する。

  間一髪、祝の持つ刃物のようなものは、何もない所を切り裂いた。

  暴走した自由との戦闘経験がある師でなければできない技だったかもしれない。

  どうしてこんな場所まで祝を近づけてしまったのだろう?

  そしてどうして祝は身を隠し続けたまま斬りつけなかったのだろう?僕には分からなかった。

;[演出]

;通常ADV表示 初人&師

  そんなことを考えている場合ではなかった。急いで祝から一定の距離を取る。

初人 「師、大丈夫か」

  隣に居る師を見た。綺麗だった星の制服は乱れ、一部に砂が付いていた。

  師の呼吸は荒れている。こんな師を見たのは、初めてかも知れない。

  いや、実際僕は見たことなどあるわけがない、星の外で行われる暴走した自由との戦闘など。

  けれど、一目で分かった。戦闘慣れしているはずの師でも、相当危なかったのだろう。

師 「大丈夫だ、それよりも何だこいつは?何で俺は、こいつの接近に気づけなかったんだ?」

  いつもは落ちついている師も、突然のことで驚きを隠せないようだ。

  しかし、やがて師は状況を理解し、すぐに落ち着きを取り戻しはじめたようで、呼吸を整え始めた。

  師から規則的に白い吐息が出るのが分かる。

  身体が温まっているのだろう、どうやら戦闘態勢に入ったようだ。

;立ち絵消し

;[演出]

;1人表示 祝

祝 「ワガナハ、ハフリ。ワレハ、マッサツシ、ノゾミヲテニシタイ」

;立ち絵消し

;[演出]

;通常ADV表示 師&初人

師 「抹殺?希?こいつの希は俺を殺すことなのか?」

  師が戦闘態勢のまま、疑問を述べる。しかし、師よりも疑問に感じていたのは僕の方だ。

  何故なら、どうやら祝の目的が前回と違うようだったから。

  僕目当てで現れたのでは無いようだったから、どうも不思議なのだ。

初人 「いや、待って欲しい。祝はこの前、僕しか居ない時にも現れた」

初人 「その時は、解放して希を手に入れたいって言っていたはずだ」

  祝の目的が変わったということだろうか?やりたかったことがうまく行かなかったのだろうか?

  いずれにしても危険なことに変わりはないだろう。

  僕らはいつでも戦闘開始できるような態勢を維持し続けた。

師 「解放した?それは一体どうなったんだ、祝とやら」

  祝に問う師。ふと師を見ると、剣を手にしていた。それは暴走した自由を斬り殺すものだった。

  祝に通用するかどうか怪しいが、何も無いよりは良いと思った。

;立ち絵消し

;[演出]

;1人表示 祝

祝 「ナシトゲタ。ツギハ、マッサツダ」

  成し遂げた?確かあの時、僕は改札をした。祝は目的を成し遂げたから去ったのだろうか?

  祝の目的は、僕を殺すことではなかったということだろうか?

  しかし、今度は抹殺することらしい。僕ではなく、師のようだけれど……

  理解が追いつかなかった。何故祝はそんなことをするのだろうか?

祝 「ウイト、トキハキタ。ワレハ、ノゾミヲテニスル」

;立ち絵消し

  刹那、祝の不快な叫び声が脳に響き思考が中断される。

  すぐに。祝が猛スピードで僕らの周りを旋回するのが分かった。

  気づいた時には、僕の真後ろに祝が来ていることが分かった。

;[演出]

;立ち絵なし状態

師 「そこか!」

  いち早く気づいた師が祝に斬りかかろうとしているのが分かる。

  僕も一刻も早く振り向いて、師に加勢するべきだろう。

  僕は自由だ、穢れを自我で操って、戦闘を有利にすべきだ。

;[演出]

;ネガ?

  けれど。祝の考えていることは本当に、僕らの後ろに回ってい斬り込むことが目的なのだろうか?

  そこまで考えて、振り向きかけた僕は静止する。

  まさか、その裏をかかれているとしたら?

;[演出]

;ネガOFF

  僕は半分振り向いていた身体を元に戻す。そして、そこにあった光景は。

初人 「祝!?」

  時既に遅し、祝は僕の前方、つまり師の後方に回っていた。

  祝は最初から、師と僕が同時に祝に背を向ける時を待っていたのだ。

  僕が祝の攻撃を抑えればそれで済むかもしれないが、残念ながら僕の行動は一歩遅い。

  先程半分振り向きかけていた時間の分だけ、行動が遅くなっていた。

  既に祝は攻撃態勢を整え、師に短剣で斬りかかろうとしている。

  ここで僕ができることは何だ?師を振り向かせることか?いや、間に合わない。

  僕が攻撃を仕掛ける?どうやって?光と熱しか操れない自分は攻撃方法を見いだせていない。

  目眩ましはこの前通用しなかったことが分かっている。ならば、僕は、僕は――?

  現実は非情である。不条理で満ち溢れているのだ。僕は抵抗したが、ただそれだけだった。

;========== ========== ==========

;以下改札シーン。各話同じ文章を使い回すが、一部分は変更する

;BGMOFF

;[演出]

;身体を切り裂く演出

;立ち絵なし

  祝のモノと思われる自我と穢れが、師の身体を切り裂く。

  師の身体は倒れてしまう。あぁ、これだから僕は、もう駄目なのだ。

  そう思ってしまったその時、脳内に奇妙な音楽が鳴り響く。

璞 「扉、閉める」

;[演出]

;立ち絵なし

;□背景:市街電車

  この奇妙な音楽は、『市街電車』のものだ。

  僕は気づけば、『市街電車』の乗り場から電車の中に突き飛ばされていたのだ。

  しかし気づいた時には、目の前で『市街電車』の扉は閉まっていた。

  そうか、また璞さんが協力してくれたのだな、と理解する。

  僕は、『市街電車』でどうすれば扉が開くのか知っている。

  非常ドア開閉装置を作動させればいいだけの話だ。

  閉ざされた扉。出ようとするには開ける他無い。

初人 「僕に、扉を開けるペンを!」

;[演出]

;ホワイトフェードアウト

  周囲が白い光で包まれ始めていた。このままでは、意識を失ってしまう。

  僕は倒れかかった身体を起こしながら、必死に光の中へ手をのばす。

  すると、何かを掴む確かな感触がそこにあった。それを思いっきり僕に引き寄せる。

;BGMOFF

;[演出]

;ブラックフェードアウト

;立ち絵なし

;□初人落下EG

  その刹那、僕はやはりあの恐怖する感覚を全身で感じた。

  奈落への垂直落下。それは一時的に希から遠ざかり、穢れていくことを意味するのだと知っている。

  正しい本、ペン、希を選べば。希へ大きく近づくことができる。それが改札だ。

  僕は2度目の地獄を味わいながら、ゆっくりと目を閉じようとした。

初人 (僕は希を、叶えたい。けれどそれはできるのだろうか――)

  今までできないと思っていたこと。それが最近、意識の変化で出来るかもしれないと思い始めていた。

  ただ、思い始めたというだけなのだけれど。

  そう考えながら、僕の意識は、奈落へ向かっていったのだった。

;[演出]

;ブラックフェードアウト


*0213

;◇Wito View

:[演出]

;ブラック

  以前のように、頬のむず痒い感覚によって、僕は起こされた。

  また僕は寝てしまったのか、という思いとともに起き上がり、あたりを見渡す。

;[演出]

;□背景:駅舎

;もやエフェクト

;通常ADV表示 璞&初人

;♪幻想

  するとそこは、やはり駅舎であった。ここに来るのは2度目だ。

  そして僕には1つの希が見えていた。それは僕の目の前で立ち止まった。

;↓立ち絵表示用ダミー

璞 「ここは改札。あなたが希へ向かう切符を出札し、入鋏(にゅうきょう)する場所」

  ああそうだ、やはりあの璞さんの声なのだ。この声を聞き、僕は少し安心する。

  けれど、やらなければならないことは変わらずある。

初人 「璞さん、僕は師を救えるかな」

  師は、斬り込まれてしまった。僕は師を救うことなんて、出来るのだろうか?

璞 「……」

  璞さんは黙ったままだ。

初人 「確かに僕は今まで、師と会いたくなかった」

初人 「でも、師と仲良くしていたあの頃を思い出すと、見捨てることなんて出来ないよ」

  璞さんは、何も言わずに手を伸ばしたのだった。

;BGMOFF

;立ち絵消し

;[演出]

;璞さん変身演出

;♪改札

  その刹那、幾多の光の粒が璞さんの指先から溢れだし、璞さんの服を変えていった。

;1人表示 璞

;制服差分

璞 「これより出札を始めます」

璞 「あなたが列車に乗りたいと希む時、改札員によって改札は開かれます」

璞 「改札を通る為には、本とペン、そして希が必要です」

璞 「改札を通った暁には、その代償として、あなたのどこかに穴が開けられます」

璞 「では、問いましょう。あなたの本は、何ですか?」

初人 「僕の本は、璞さんだ。璞さんのおかげで、僕は師に再び会うことを決意できた」

璞 「あなたのペンは、何ですか?」

初人 「僕のペンは、やはり本だと思う。本は僕を安心させ、考える時間を与えてくれた」

初人 「僕は本がないと、今後判断を謝ることがあると思う。だから、本が必要なんだ」

璞 「ならば、あなたの希は何ですか?」

初人 「本当は、別のものを希にしていたと思う。でも今は、師の為に――」

初人 「師を、救ってあげたい」

璞 「理解しました。あなたを、入鋏します」

;立ち絵消し

;[演出]

;はさみをカチカチする

;[演出]

;第2話:手に穴が開く

;立ち絵なし状態

璞 「あなたの手に穴は開いた。さあ、入場しなさい。バブルリングへ!」

;BGMOFF

;[演出]

;立ち絵なし

;ブラックフェードアウト


*0214

;◇Wito View

;[演出]

;□背景:海岸

;通常ADV演出 師&初人

  目が覚めると、祝はそこに見当たらなかった。僕は、師を守ることができたということだろうか?

  僕の目覚めに気づいた師が、すぐに僕に近寄ってきた。

師 「初人が庇ってくれたおかげで、何とか致命傷にならずに済んだよ、助かった」

  ほっとした。僕も後で璞さんに感謝しないといけないだろう。

師 「やりたいことがあると言ったな?上と交渉してやろう」

初人 「そう、か。それなら助かる」

師 「いや何、借りができたからそれを返すまでだ」

師 「ただ、ずっとここに居続けられるとは思うな、いいな?」

  それは師なりの忠告なのだろう、もう少しここに居ても良い期間を引き延ばすだけだ、と。

  それにしても、あれだけ星に忠実だった師が突然僕を連行しない判断をするなんて。

  僕には何か裏が有りそうだとも思った、やはり祝のことが絡むのだろうか?

  しかし、今の僕にはありがたいことだ、師の思いを素直に受け取っておこう、そう思ったのだった。

;立ち絵消し

;[演出]

;ブラックフェードアウト

;(ED)



*0215

;◇Ikusa View

;[演出]

;□背景:海岸

師 「奴は祝と言ったな、奴のことを少し調べてみるか」

  俺は祝についての推測をしながら、海岸を歩き星へと急いだのだった。

;[演出]

;ブラックフェードアウト

;[シーン終了]

;第2話終了


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