探偵Nの叫喚
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「さあ、ギルマン。 星辰は法の時を刻んだ。 最後の贄を捧げよう」
まるで邪神の使いであるかのように振る舞い、ボクは怯えながらも逃げ出さないレーナの太腿へと麻酔針を撃ち込む。
少女の小さな体が痙攣するようにかすかに震え、しゃがみこむとガクガクと壊れたオモチャのように震えながら倒れる。
ショック症状がでたようだ。
この
これは早めに解毒薬を
最悪、死ぬ症状だが、
ギルマンはボクの
その手には70cmはあるだろう両端が鋭く尖った独鈷杵と呼ばれる儀式用の武器が握られていた。
蛙めいた大きく薄い唇は白い泡を吹き零しながら邪神を称える不気味な呪文を口にしている。
「さあ、ギルマン、
ボクはギルマンに向き直り良く見えるように手を前にかざし掌に銃口を押し付けて引鉄を引く。
針が刺さり麻酔薬が注入されていくのが、まるで時間が引き延ばされたかのように、ゆっくりと見えた。
その向こうでギルマンが邪神を
中央からやや左心臓の真上から入った
その瞬間、今までどうやっても通じなかった通信端末に着信音が響いた。
“ ベートーベンのエロイカ ”
何故か衛星回線すら通じないこの島に回線を繋げる。
そんな事ができるのは‘
それでも遠く離れた場所からでは無理だろうから、近くまで来ているのか?
ああ、でももう遅い!
全ては終わってしまった!!
必ず、
勝利だ!!
勝った!
勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った──勝った!!
そんな
ボクはその致命的な瞬間に気づかなかった。
胸から一本角を生やした怪物がその鋭利な切先をボクに向けて倒れてくるのに。
ゆっくりと流れる時間の中でその凶器がボクの喉元に突き刺さるのを、急速に麻酔が回っていくボクの体はどうすることもできずに受け入れた。
意識が途切れていく中──更に一瞬が引き伸ばされていく瞬間、ボクはどうしてこうなったかを考える。
いったい、今までボクは何をしていた?
何をしていただって?
憶えているんだろう? そう囁く。
ああ、ボクは憶えている
自分の罪を!!
ボクは
オマエはいったいナンだ──?
知っているはずだろう?
そう嘲る探偵の
男か女かわからない細身のスーツ姿やヘアスタイルは変わらないが、ポッカリとその
知っているはずだ。
その
ああ、そうなのか──。
知らないはずがなかろう。
その
知らないはずはない。
その
千の
知っているはずよね。
その
────無貌の邪神。
知ってたんだね、
そして、最後にその姿がレーナのものへと変わり言う。
それが、最後にレーナと言葉を交わしたときの
間違えない────ボクがあの時言った
ああ、今なら判る。
レーナがあの後言った言葉の意味を、瞬時に意識を奪うような麻酔銃の副作用を医学にも精通した天才少女が知らないわけがない。
レーナは、二人で生き残る道がそれ以外にないと悟っていた。
ボクが決して譲らないだろうと解っていたから。
そう、レーナは何度も変だといっていたじゃないか。
いつものボクじゃないと。
それでも、レーナは狂ってしまったボクを見捨てずに──ああ、ダメだ!
違う! そうじゃない──ボクはこのうえまだ逃げようとしている。
邪神なんてどこにもいない。 それはただの
ここまできても、そんなもののせいにして、ボクは現実を認めまいとしている。
狂ってなんていない!
そう、全部──他の何かのせいでも誰かのせいでもなく、ボクのやったことだ。
ああ、ボクは間違った────間違った。間違った。間違った。間違った。間違った。間違った。間違った。間違った。間違った。間違った。間違った。間違った。間違った。間違った。間違った。間違った。間違った。間違った。間違った。間違った。間違った。間違った!!
何が“ たったひとつの冴えたやりかた ”だ。
そんなものはただの
ボクはオーベッド・ギルマンを
本当に
ただ、
そして、オーベッドを
何が超越しただ。
あれほど‘
それを捨ててしまえば、
人の可能性を否定して、人など皆、
そう知っていたのに! 知っていたのにそれがこういうことだと理解していなかった。
人を
けれど知っているだけでは少し成長して疑う事を覚えればその意味を捻じ曲げてしまう。
一番初めに教えてもらった一番大切なものが、
小賢しいボクは‘
レーナのように既製品の常識に頼らずに自分で物事を考えて大切なものを見つけ出すことができる賢い子供だったなら違っただろう。
レーナは考えることをあきらめない。
正解が導きだせなくて保留しても、そんなものだと納得したふり理解したふりで諦めない。
けれど、ボクは考える事を怠け、
尊敬しているはずの‘
合理性?
そんなものは
そんなものを “ たったひとつの冴えたやりかた ”と信じる人間が増えれば、この世は
‘被害者達’も‘
そんな人間の犠牲になることがどんなに怖ろしいことなのか、ボクは知っていたはずなのに……ボクは
理想を、明るく暖かく優しくありふれた喜びから、眩しく冷たく厳しく遥かかなたの
どうせ人間なんて
人は壊れる事はあっても急には変わりはしない。
ボクは、ただ普通にあたりまえに生きているつもりで、いくつもの間違いを犯し、幾人もの不幸を見過ごし、
探偵になった後、事件の度に何度も‘
ボクは
ごく普通にみんなと同じように生きてるのだからと、多くの罪を見てみぬふりでやり過ごしてきた。
ああ、だから間違った!
認めよう──ボクは有罪だ。
今だけでなく、普通に生きているつもりの過去でも間違っていた。
何度も間違い、何度も間違いを正そうとはせず、
人の数だけ
ボクは、
どんな大きな能力があったって正しくそれを使わなければ意味がない。
ボクが越えたのは探偵の限界ではなく、探偵とただの‘愚種脳’の一線だ。
恐怖に打ち克ったんじゃなく負けたんだ。
ただ独りで逃げ出し、
そうしてボクは
ボクは探偵だった。
信じていたものを自分で捨て……信じてくれた人を……裏切り……信じたふりを……したものに殺さ……れ……た……愚…………か…………な…………元……………………探偵。
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あとがき
恐怖をテーマにした勘違い系ホラー
D級探偵Nのホラーはこれで終了です
怖かったでしょうか?
恐くなかったでしょうか?
エンディングの後についての二つのパターン
一人称の語り手ですが探偵Nは主人公ではありません
この物語の主人公はでてこなかったA級探偵で、‘名無しのウィザード’です
だから、救いのないバッドエンドだと感じたかたは、安心してください
きっと、エンディングの向こうでは逆転劇が待っています
彼ら主人公がレーナをあるいはD級探偵を救ったでしょう
そう思ったのなら、あなたは正しくこの物語は救いを残して終わります
だから、現実にホラーが訪れても決して希望を忘れずに……
そんな御都合主義は嘘くさい、そう思った方
あなたにとっては、現実自体がホラーなのかもしれませんね
そう思ったのなら、あなたは正しくこの物語は救いのない結末を迎えます
せめて、現実であなたにホラーが訪れなければいいのですが……
最後に
登場人物名に実在の人間に近いものがあるのは
悪役が自分と同じ名前であるのは誰でもいやなので
既にそういう人物であるという印象が広まっている名前をつけただけで
その人物に悪意や偏見を持っているわけではありません
また、実在の政治家や事故などについて触れていますが
これも悪い印象や失敗の典型的な例として広まっているものとして使用しただけで
その人物に悪意や偏見を持っているわけではありません
ネットでそれらの例を検索しての結果ですので
御理解と御寛恕を
D級探偵Nのホラー A級探偵の極めて不本意な超推理外伝 OLDTELLER @OLDTELLER
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