第21話
「これはまずいぞっ!!」
その時、1人の男性通行人が狼狽えた声で叫ぶ声が聞こえてきた
声に反応して周囲がざわめき始める
声の主は迷彩服を着込み、右耳にピアス、首から金色の
ネックレスをした男性通行人だった
どうやら、先程の声は彼からのようだ
手には、安価で簡便なため火力支援など多目的に使用できるため
多くの国で使用され続けている、RPG-7と呼ばれる
携帯対戦車擲弾発射器を所持していた
周囲の人々も、一斉に警戒態勢を取ろうとする
誰もかれもが貌色は優れず焦燥感に満ちた表情をしている
「(いったい何が――――)」
『彼』が疑問に思おうとした時、嵐の前に鼻をつくすオゾンの臭いと
空気が電荷を帯びて震えるような感覚が襲ってきた
周囲の空間が震動し、ちりちりと焦げるような電流が空間一帯に広がる
この場に居る『彼』以外の通行人が、それぞれ持っている銃器の安全装置を
外していつでも撃てる体勢に入る
まるで西部劇の決闘を目の前にしているかのような状況だ
緊迫した雰囲気の中、一定の方向に銃口を向けている先から
空間全体が軋みを上げて大型の荷物などが搬入出来そうなうな歪んだ『穴』が
具現化されていく
『穴』が結像させるまで一瞬の時間もかかっていない
歪んでいる開いた『穴』から、何かがゆっくりと這い出てきた
穴から姿をぬっと現したのは、背中に鳥類に類似した翼を生やしていた
全身は、蒼く照り返す鋼鉄のような皮膚に覆われ、3メートルを超える
巨体が天を突き破らんとばかりに聳え立っていた
四肢は太い筋肉の束が幾本も浮き出し、その怪力を物語っている
両腕の先に剣の様な爪が四本ずつ突き出して生え、一本一本が恐ろしく太く鋭く、
岩をも斬り裂くであろう鋭利さを感じさせる
両足にも同様の爪が生えているが、こちらは腕よりも細く鋭く尖っていた
頭部からは羊のように太く捻じれた角が左右に禍々しく伸び、凄絶なる
暴力の気を発していた
その下に猿の頭骨に似た貌がある・・・が、印象は爬虫類に近い
人間の歯とは比べ物にならないほど大きく鋭利な獣の如き牙が、耳まで
裂けた口から覗かせていた
噛み合わせた無数の牙の間から、蒸気と化した息が漏れて響く
その向こうで、瞳の無い無表情な眼が鈍く光り輝いていた
――『彼』は、見つめられているだけで背筋に冷たい汗が流れ落ち、恐怖で
身をすくませてしまうほどの威圧感を感じていた
しかし、そんな感情に囚われる暇もなく、 本能が、生存本能が、
身体の細胞ひとつひとつが、全力で警鐘を鳴らし続ける
今すぐ逃げろ! 殺されるぞ!! と だが、身体は
金縛りにあったかのように動かない
耳まで裂けた口がゆっくりと歪に開いた
それはこの世のものとは思えない恐ろしい声だ
まるで、地獄の底から響いてくる亡者の怨念が
籠った叫び声だった
丸い眼の上下から瞼が覆い、針の先程しかない
小さな眼が現れる
その眼球には、怒りの炎が燃え上がっていた
『彼』は、その瞬間心臓を鷲掴みされたかのような
錯覚に捕らわれる
巨体の背から禍々しい翼が広がった
付近一帯を得体の知れない重圧が包み込む
その怪物から放たれる気配は悪意そのもので、暴力と
恐怖しか感じられない
視線の先にいる人間は全て獲物にしか見えていないだろう
「(これも『鬼獣』なのか・・・この世界にはこんな化け物もいるのかよ)」
『彼』はその姿を見て心の中で呟いた
(のちに、この『鬼獣』の呼称を『デバステーター』
――日本国内名称『蹂躙するもの』と教わる)
周囲の人々が一斉に、巨大な体躯に向けて銃を撃ち放った
凄まじい銃弾の雨が降り注ぐが、全く効果が無い様にも見えた
怪物がゆっくりと歩き出す直前、突如として黒い塊が
シュルシュルと不気味な音をたてながら巨体に向けて加速していった
そして瞬く間に肉薄すると、巨体の身体に食い込み
爆発音を轟かせる
眼の前で閃光が広がり爆風が吹き荒れ、 爆炎が巨体を包んでいく
その衝撃に思わず貌を腕で覆って防御する
鼓膜を叩くような大音響が響き渡り、地面が揺れ動くのを『彼』は
感じていた
しばらくして腕を下ろしてみると、視界に映るのは黒煙に包まれた
異形の影だけだった
やがて、黒煙の中から怪物の断末魔の絶叫が木霊する
「ひゃっはーっ!!ざまぁみろっ!!」
右耳にピアスを開け、首から金色のネックレスをした
男性通行人が拳を大きく上げ歓喜の声を上げた
どうやら、持っていたRPG-7を撃ったようだ
続けて、複数名の通行人達が同じRPG-7を巨体に向かって撃ち放つ
着弾した箇所から紅蓮の業火が噴き出し、辺り一面が火の海となる
炎に呑み込まれた巨体が、苦しみの悲鳴を上げ、悶え苦しみ
地面に倒れ伏した
その光景を見た複数の通行人達は雄叫びを上げ、RPG-7をぶっ放した
通行人達は互いにハイタッチを交わしていた
「(凄いな・・・あんな武器で倒すのか)」
そんな彼らを見て『彼』は、そう思った
「すげぇぞ! いい腕してるぜ!」
そんな言葉をRPG-7をぶっ放した通行人達に
浴びせかけていた
その様子を少し離れた場所から見ていた『彼』は、
ただ戦慄していた
人々は、誰一人逃げずに戦う準備をしている
その瞳には闘志と覚悟が宿り、己の命を投げ捨てても
闘うという意思が伝わってきた
まさしく異様な『世界線』だった
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