このご時世に、絶対に流行らない純文学などというものをやってみようと思う。それも、誰一人読みやしない、私小説というやつを。

作者 悠月

背骨とはなにかと、疑いつづけること。白い羊の群れのなかの黒い羊。

  • ★★★ Excellent!!!

世界には「掟」がある。

大多数が正しいと思うことを不文律とする「掟」が。
けっして「掟」を疑ってはいけない。
疑わないことで、世間という浄土は守られているのだから。
多数決の勝者にならなかった者は、「掟」を蔑ろにする者
すなわち傲慢な者、如何わしい者として、烙印をおされる。

「掟」を破ったり、抜けみちを考えたりすることは
つねに悪い人間のしわざと見做される。

白い羊の群れに紛れこんでしまった、黒い羊。

白い羊としてこの世に生を受けたなら
どんなに幸福だっただろう。

それでも黒い羊として生まれてしまったからには
「掟」とはなにかと自分自身に問いかけずにはいられない。

健康で、考えるよりもまえに真っすぐ立って歩ける
「背骨」をもつひとは、「掟」に疑問などもたない。
「背骨」をもたず、なにが背骨かと考えつづけることの
苦しさをわたしも知っている。

その「背骨」をもたない自分、というものに
いつも後ろめたさを感じてきた。

「共感」という言葉は嫌いだし
この作品の著者もおそらく読者に
そんな感情を望んではいないと思う。

それでも百夜のあとに感じた解放に
なんだかわたしまで嬉しくなってしまった。
そして夏祭りのあとのような淋しさを感じた。

いまではないいつか、ここではないどこか。
まだ見ぬ彼方から吹く風が真夜中を渡りながら
わたしの心を通りすぎていった。

いくつもの夜を数えて、たどりつく明日。
眠りから醒めたとき、いつかどこでもない場所にいる自分を夢見て。

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